第10話
楽しい時間ほど早く終わるとはよく言ったものだ。煌びやかだったイルミネーションを見終わり、僕たちは月明りのない帰路を辿っていた。火照った頬が夜風に当たり心地いい。それでも左手に残る熱は冷めることはない。イルミネーションを見終わっても互いの手を離さなかった。
「……あっという間に一日が終わっちゃったね」
「そうだな。楽しかった」
「私も……」
――好きだ
なんて言えたら、どれだけよかったか。デートの最中何度も口にしそうになり、その度に止めた。断られる可能性を考えたら怖くなった……というわけではない。もちろん少し怯えてはいるが、それ以上に今の僕にその言葉を言う資格はなかった。
このままじゃ、僕は
そして何より、
しかし、どれも結局は安全を確保できていない。以前にあった包丁での事故と違い、今回の『予知夢』は他人が引き起こす交通事故。どれだけこちらが警戒していても、向こうから迫ってきた時点で終わりだ。
「……
「――! うんっ!」
寂しそうだった顔から一転して、明るい声を返される。どうやら、
「ここも久しぶりに来たね」
「小学校以来か?」
「そうだね。よくボールで遊んでたなぁ」
今では通話やメッセージばかりで話しているが、昔は二人でよく遊んでいた。外で遊んだり、どちらかの家で集まってゲームをしたり。両親の仕事の都合でお泊り会をしたこともあった。
懐かしいな。さっきまでも
「今日は楽しかったか?」
「うん! プレゼントも、写真も、大事にする!」
「それならよかった」
「
「僕は……」
つい、この先のことを考えてしまう。タイムリミットはあと少し。数時間後かもしれないし、数分後、もしかしたら一分も満たない時間かもしれない。
「ごめん、ちょっと自販機行ってくる。
「それなら私も……」
「いや、
強引に話題を切って公園を後にする。けど、こうするしかなかった。僕にはこういう方法しか思い付かなかった。
自販機の光へ近づく。しかし飲料が目的ではない。自販機は通り過ぎて家路に就く。その足は未練があるからか、いつもより重たい。
『予知夢には変えられない結果があると』
『だったらその過程で対策を打てばいいと』
ずっと疑問だった。変えられない結果に対策を打つという発想を
否、普段の
「僕を前向きにするため……だったんだろうな」
口から白い息が零れる。人間を動かすのは絶望ではなく希望。それを理解しているからこそ、
それを選ばなかったことに意味を持たせられるかどうか……。
答えはすぐに返ってきた。ちょうど家が見えてきたところで光が僕を包み込む。そこで全てを察した。
今回の『予知夢』の決定事項は『車で轢かれること』だった。その事実に安心したような、悲しいような。ここでも僕は『予知夢』のように今を受け入れてしまっているらしい。
だって仕方ないだろう。僕は一度だって『予知夢』に抗えていない無力な存在だ。今回の『予知夢』を見て何も解決策はないと諦め、絶望した男にどうこうできる代物じゃない。抗うこと自体が傲慢すぎたのだ。
だから僕は『予知夢』には抗わない。
結果の先にある最善手を打ってやる。
「ごめん」
誰にも届かないような言葉を呟く。それは約束できない。
全身に広がる衝撃と共に僕の意識は光の先にある闇へ消え去った。
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