第6.5話 

 人気ひとけのない夜の住宅地。街灯と家の明かりだけで照らされた道を智也ともや未来みらいは手を繋いで歩いていた。しかしその歩みは遅い。いつもに比べて未来みらいの足取りが重くなっているせいか、それに合わせている智也ともやも緩慢な足運びになっていた。


 デートの終わりが見えてきたことによって、現実に引き戻されたのだろう。駅から家までの道のりがやけに短く思えてしまう。クリスマスイヴだというのに、駅前とは違って家路は静寂に満ちていた。


 段々と見慣れた家が立ち並んでくる。あと数分もすれば家に着いてしまう状況に智也ともやは寂しさを覚えていた。一秒でも多く未来みらいと一緒にいたい。左手の温もりを少しでも感じたくて軽く力が入る。


 強く握りすぎていないだろうか。


 そんな智也ともやの心配を払拭するように、未来みらいも握り返してくれた。気分が高揚し、智也ともや未来みらいへ視線を向ける。未来みらいも同じ気持ちなのか、目が合うとお互いに微笑んだ。


 智也ともや未来みらいの家に訪問したあの日。その頃まで智也ともや未来みらいと付き合うだなんて微塵も思っていなかっただろう。


「なぁ、未来みらいは明日暇か?」

「え、うん。暇……だよ」

「それなら明日も会わないか? 何するか考えてないけどさ、明日も未来みらいのそばにいたくて」

「あはは、智也ともやも可愛いところあるね」

「うっせ。悪いかよ」

「悪いとは言ってないじゃん。私は誘われて嬉しかったよ」


 未来みらいの笑顔と赤くなった耳が視界に映る。いつもと同じ調子でも実は恥ずかしいと思ってくれてるらしい。それが今は何よりも嬉しかった。


 ――だから気付かなかったのだろうか。いつの間にか智也ともやは光の中心にいた。前方から迫る車が視界いっぱいに広がる。瞬間、僕はこの先の出来事を察した。


 あぁ、死ぬんだな。


 死ぬことに対する恐怖がないからか、はたまた死の恐怖を知らないからか。思考だけは嫌なほど冷静だった。息は止まり、ただ眺めることしかできない体とは大違いだ。


 ヘッドライトの光にやられて目を閉ざす。その瞬間、まるで地面がなくなったかのように世界がぐにゃりと歪んだように感じた。

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