第2.5話

 智也ともやが入った調理実習室は、すでに祭りのような騒がしさを見せていた。事前に選んだ食材が各班のテーブルに並べられており、智也ともやはその一つに歩み寄る。


 そこで待っていたのは一つの叱責だった。


智也ともやくん、他の人はもう着いてるよ」

「まだチャイム鳴ってないからいいだろ」


 席が近い者で五人班を組んだ結果、智也ともやの班には未来みらいがいた。それは智也ともやを含む班メンバー四名にとっての僥倖だった。彼らはこのような場でない限り、包丁を持たない素人。その点、未来みらいは違った。


清水しみずさん、やっぱ料理上手いな」

「そうだな」


 何もしてない翔真しょうまの言葉に、沸かした水へ具材を放り込みながら頷く。包丁でリズミカルに音を刻む姿は主婦そのもの。


 事実、未来みらいは母親の料理を手伝う機会が多い。両親の帰りが遅い日も趣味で料理をしているほどだ。一般的な高校生とは料理の経験値が違う。


 男子は味噌汁、女子は牛丼とグループを分けられはしたが、先程鍋へ入れた油揚げと玉ねぎは未来みらいの手によって処理されたものだった。


「結局、全部未来みらいがやって終わりか」

「その方が楽ちんでいいだろ」

「まあな」


 わざわざ苦労をしようとは思わない。この先の大学受験も背伸びせず、その頃の学力で行けるところへ入学しようと考えている。


「いっ……」


 鍋の中を回しながら軽く談笑していると痛ましい声が耳に届いた。何やら未来みらいに二人の女子生徒が近寄っている。何があったのか聞く前に一人の女子が振り返った。


「男子っ! 早く絆創膏!」

「お、おう」


 すぐに動いたのは智也ともやだった。すぐに火を止めると先生のもとに向かう。そこで視界がぐにゃりと回った。

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