IF 0512

 してほしいことがあれば叶えたい、と言われた。今日は僕の誕生日で、本当は何か形のあるものを、と思ったらしいけれど、今の白野は思うように外へ出ることができない。君は殺人犯で、この部屋に匿われている。

「気持ちだけで十分だよ」

「でも……」

「うーん、じゃあ、一日中白野に触れてたい」

 居候の上、僕の誕生日に何もしないとあっては白野の気がおさまらないとみて、寝起きの頭で思いついたままを冗談半分で口にした。それはちょっと、と白野が口ごもって、なら材料は用意するからケーキ作ってよ、と提案する。そういう会話をイメージする。僕は優しいから無茶は言わない。

「わかった」

 脳内に組み上げられたシンプルなスポンジケーキは早々に破綻した。白野の手が僕の手を引く。ちょっと。うそだよ。ねえ白野。

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