君を擦り減らして生きる

 朝がくる。のしかかっていた黒い夜が白い光に引き上げられ、毎日。朝なんてこなくていいと何度思っただろう。あるいは来ないでくれと祈っただろう。足がすくむ私を置いてけぼりにして、変わらない世界が続いていくことを見せつけられるのがいやだった。

「白野、おはよ」

 耳の奥で優しい声が聞こえる。朝日と体温を吸ってぬくまった布団をのけて起き上がる。声の主を探すことはしない。そんな虚しいことは。

 朝がくる。毎日変わらず朝がくる。私だけがあの日、あの砂浜に取り残されたままだ。長いようで短かった数ヶ月の日々に心をとらわれ、黒沢のいた光景を、言葉を、薄く引き伸ばして繰り返し、正気を保っている。

 時々考える。もしこの数ヶ月がなかったら私はどうなっていたのか。もしかしたら今より苦しくなかったかもしれない。でも、身を裂かれるような今の苦しみと引き換えにかつての日々があったのなら、もうそれだけで、わたしは十分に幸せだった。

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