Ep.29"滝"
スライムを倒してから幾分過ぎた頃、水が落ちる音が聞こえる程の距離まで進んでいた。道中スライムやゴブリンといったファンタジー生物と何度か戦った。それもあり予想より若干遅れたが今の所順調であると言えるだろう。
森を抜けると壮大な滝が目に映る。大量の水を水面に叩き付けるその姿は圧倒的であった。滝つぼに目を向けると中心は深い藍に染っており透明度が高く、水深が深いことも見て取れた。しかし深さが膝下辺りの場所もそこそこある。意外と広い水場だ。
気を取り直して周辺を見渡す。既に何組かパーティーと思われる人達がテントを張っていた。そのうちの一人がこちらに気づいたのか手を振って声をかけてきた。
「やぁ。君もここに拠点を?」
「そのつもりだが。どちら様で?」
「これは失礼した。初めまして。僕の名はアーサー。よろしくね」
どうやら彼はパーティーで参加していて、一緒にいるパーティーのリーダーもやっているらしい。彼自身は純粋な剣士だそうだ。俺も自己紹介をしようと思うのだが、小魚Kは時の人だし名無しの権兵衛は明らかな偽名だしなぁ。どうしよう。嘘をつかずホントのことも言わずがいいかもしれない。
「俺はケイ。ソロで参加している。鍛冶や調合、まぁなんでも作ってる」
「へぇ。それじゃあお世話になるかもしれないね。その時は何か作ってよ」
「素材とお代を持ってきてくれ。流石に無から有は生み出せないぞ」
「それもそうだ」
アハハと笑い合う。気さくに話してくれる。なかなかに良い人そうだ。それからしばらく談笑し、何処に拠点を置くのかを相談する。有難いことに崖際の一角、滝つぼのすぐ側を拠点にしてはどうかと提案された。水の落ちる音がうるさいこと以外に欠点がない場所だ。まぁ鍛治とかしてるとこちらもうるさくなるから構わない。むしろ壁際という利点が大きい。感謝感謝だ。
アーサーと別れて早速準備を始める。まず砂利を少し掘り、そこに炉と金床を設置。グラグラと不安定にならないようにしないといけないのが厄介だ。
取り敢えず場所取りはこんなものでいいだろう。炉や金床を置きっぱなしにして勝手に使われたり持ち出されないか気になるかもしれないが心配は無用だ。使用権や所有権は俺に帰属しているからだ。これらの権利はゲームシステムに則って発生しているため他のプレイヤーは手が出せないのである。具体的には使おうとしても俺の許可無しだと何をしても失敗扱いになる。例えば炉に日は起こせないし金床で金属を叩いても砕け散るという風に失敗する。所有権はそのままストレージに入れられないということになる。こういうところはゲーム性重視で良いバランスになっていると思う。
場所取りは出来たのでテント替わりのものを作ろう。骨組みは木材で作るとして壁はどうしよう。大きな布があればいちばん簡単なんだけど。
うんうん唸っているとメッセージが飛んできた。送り主は
という訳で骨組みになる木材を採るために斧を作ろう。材料は拾った手に馴染む太さと長さの枝。意外と頑丈。そして厚みのある平たい石。そう、作るのは石斧。今回はオートで作っていく。これに時間はかけられないからだ。
それでは作っていこう。スタート。……完成。磨製石斧だ。耐久も低いのでちょこちょこ回復させないといけない。まぁ修復の材料はあり余るほどあるので気にしてないが。
これで木を切れるか試してみよう。近くの細い木に目星をつけ、斧を叩きつける。叩きつける。切れ込みを入れると言うよりは木の繊維を叩き潰す感覚だ。これを続けある程度細くなったら倒れる方向に注意しながら引き倒す。時間はかかるが使えそうで一安心。あと一、二本切り倒しておこうかな。そうすれば骨組み分の木材プラス予備ぐらいは取れるだろう。
切り倒しやすそうな木を探しに森の中へ。道中美味しそうな果物や薬の材料になりそうな植物を採集しながら進む。スライムが何匹か出てきたが核という弱点さえ補足できてしまえばなんてことは無い。瞬殺だ。
そうして探索しつつ木を切り倒し、満腹度が減ったら果物を食べる。そうしているうちに目標数が集まった。
その時だった。【危機察知】が反応する。茂みが不自然に揺れると何者かが飛びかかってくる。体を逸らし何とかかわす。ほっとしたのも束の間、別のところから一つ二つと襲ってくる。
そいつらは灰色の体毛を持ち、短いが鋭利な爪をもつ犬のような顔をしたモンスターだった。
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