Ep28"スライム(仮)"

 《イベントエリアへの転送を行います》


 《安全な場所で待機してください》


 始まるのは第三回イベント"ドキドキサバイバル!!"だ。


 概要は7日間のサバイバル。残機は三つ。三度死んだらイベントエリアから退場となる。この情報はつい先程発表されたものだ。かなり重要な要素だがサバイバルと言うだけあって途中退場は予想されていた。


 リスポンは拠点を作れば拠点のある場所。拠点がなければ初期位置だ。そしてデスペナによる強制ログアウトが廃止されている。どうやら時間加速とこのシステムは相性が悪いようだ。


 持ち込めるアイテムは三枠のみ。〇〇セット系のアイテムは二枠使って持ち込める。俺が持っていくのは緊急鍛治道具セットと杵乃月。装備は昨日こしらえたヤツだ。


 場所は大きな無人島。詳細なマップは分からない。プレイヤーは最初、島南部の外周部にランダムで転送される。このことから島の中央部や北部には何か重要なものがあるのでは無いかと噂されていた。因みにパーティーを組んでいると仲間の近くにまとめて転送されるらしい。


 このイベントでは満腹度と時間加速というものがある。満腹度はその名の通り腹のすき具合を表すもので何も食べなければ減っていき、ゼロになっても対処しないと餓死する。また走ったり跳んだりスキルを使ったり、所謂疲れることをすると減るスピードが早くなる。時間加速もそのまま。現実世界では二日間のイベントとだが、ゲーム内時間では七日が経過する。つまり時間の流れが3.5倍早くなるのだ。これらのシステムは第二陣が入ってくると同時に普通のフィールドでも適応されることになる。


 イベントに関してはこんなところかな。そろそろ時間だ。


 《10:00になりました》


 《イベントエリアへの転送を開始します》


 始まった。白い光に包まれる。浮遊感が身を包む。


 頬がチクチクとする。小豆を洗う音がする。心地良いそよ風の肌触り。


 目を開ける。白い地面が垂直に立っている。否俺が横たわっているのだ。体を起こす。辺りを見渡す。


 青い空。青い海。白い砂浜。緑に覆われた森。奥には山。どうやら無事に転送されたようだ。頬についている砂を払いながら立ち上がる。改めて周りを確認する。視界の範囲には誰も居ない。いや、豆粒みたいな小さい人影が遠くに見える。この閑散とした寂しさ。どうやら相当広い島のようだ。


 とりあえずこの後どうするかを考えよう。まずは拠点の確保だろうか。それとも食料だろうか。そういえば満腹度はどう確認するんだろうか。視界の端が点滅している。HP、MPの下に満腹度のメーターが新たに加わっていた。どうやらこれを確認させたかったようだ。今は満腹。暫くは大丈夫そうだ。


 よし、拠点とする場所を探そう。出来れば川といった真水が近くにある場所がいい。周りに河口は見当たらない。……森に入ろう。今はまだあまり他のプレイヤーと出会いたくは無い。


 しばらく森の中を歩いてみる。砂浜も足を取られて歩きにくかったが森の中も木の根が邪魔で歩きにくい。景色は変わらず木が沢山。水の音も聞こえない。下から見ていても見つかりにくそうだ。ならば上から見てみよう。


 背の高い登りやすそうな木を探す。枝を掴み木に足をかけて体を持ち上げる。途中で木の実がなっていたのでもぎ取っておく。何とか上まで登りきる。


「おぉー。良い景色」


 見渡す限り森。後ろには海。大自然を感じる。違う。そうじゃない。川を探そう。と言ってもそのまま見えるとはおもっていない。木々が線上に途切れていたり、開けていたりする場所を探す。あった。斜め右手側。ガッツリ滝が見える。そう遠くない。あそこを目指せば何とかなりそうだ。


 目標を決めたので木から降りる。半分ほど降り地面を確認。なんか居る。体の真ん中に赤い塊を持つ半透明のゼリー状の物体。目や鼻はなく、地面を這って進んでいる。たぶんスライムだろ。んで赤い塊は核とかそういうのだろ。どっちだ? 強い方のスライムか弱い方のスライムか。てか何気に初めてのファンタジー生物じゃね? すげー。なんか感動だわ。ところであいつどうするか。屠るか。十中八九核(仮)が弱点だろ。俺の事には気づいていない。逆手に持ち抜剣。真下に来るまで待つ。待つ。……よし、いくぞ。


「せーの!」


 短剣を振りかぶりながら枝から飛び降りる。剣先は核(仮)に届き……外れた。あれ、ナンデ?! もしかしてあれか、核(仮)の位置を自由に動かせるタイプのスライム(仮)か?! 想定外!


 慌てながらも飛び退き、反撃に備える。スライム(仮)は体を波打たせると飛びかかってきた。それに合わせて剣を振るうもゼリーの体を切り裂くだけ。それも次の瞬間には治っている。物理無効タイプかぁ。面倒だ。しかし最初に核(仮)を狙った時は確かに手応えがあった。ということは核(仮)をぶち抜くしかないのだろう。


 しばらくカウンターを狙ってみるもなかなか決まらない。しかし観察してわかったことがある。移動の際に核(仮)を前方に移動させているのだ。それに合わせて体を引っ張って移動している。体当たりの時もそうだった。これが分かればもう簡単だ。飛びかかってきたところで核(仮)をキャッチ! 体から引き抜く。するとゼリー状の体は蒸発していった。戦闘終了のアナウンスが流れる。何とかなった。手に納まった核(仮)を確認する。


 ――――――――――

 名称:スライムの核(仮死状態)

 品質:C

 希少値:D


 スライムの本体。乾燥に弱く、空気中に取り出すと直ぐに死んでしまう。しかし、本当に死んでいる訳ではなく、水につけると周囲の水分を元にゼリー状のボディを形成して復活する。砕けば死ぬ。とても脆い。

 ――――――――――


 これ、復活するんだ。再生可能な資源。エコロジーだ。けど復活させることは無いだろう。とりあえずインベントリに突っ込んでおく。


 さて、気を取り直して滝を目指そう。そう時間はかからないはずだ。

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