Ep.30"小悪魔"
出てきたのは灰色の毛を持ち、鋭い爪を持つ二足歩行の犬型のモンスター。コボルトだと思われる。数えると六匹。不意打ちをしてきたことから知能を有しているだろう。恐らく群れで連携して攻撃してくる。四方を囲まれているため一匹だけに注意を向けることも出来ない。中々厄介だ。
じっと睨み合い、相手の出方を伺う。
最初に動いたのはコボルト達だった。二匹が爪で斬りかかってくる。片方を体を捻り躱し、もう一方を短剣で弾く。体勢が崩れた所へほかの四匹が襲いかかってくる。引っ掻き、噛みつき、蹴りといった攻撃を一通り躱し体勢を立て直す。今度は囲まれないように木を背に構える。とは言っても環状から扇状に包囲の形が変化しただけだが。しかし見えているのと見えていないのでは大きく違う。
小さく深呼吸をして再度気合いを込める。今度はこちらから攻撃を仕掛ける。狙いを右端のコボルトへと定め飛び出す。短剣で切りつけつつ駆け抜ける。踵を返して追いかけて来た個体に対して――【カウンター】を起動。
「
慣性は相手持ち、俺はただ殴るだけ。その一撃でポリゴン片へと姿を変えさせる。
「次!」
今度は挟み撃ちを仕掛けてきた二匹を相手にする。同時に斬りかかってきた瞬間に【跳躍】を発動して同士討ちを誘う。狙い通り互いを傷つけあったコボルトの背後へと飛び移り【スラッシュ】。一匹を仕留める。
もう一匹に襲われないように後ろへ飛び下がる。コボルトは追いかけてきて爪を振り下ろしてくる。それを弾きつつ胴体に蹴りを入れて一度仕切りなおす。今度はこちらから距離を詰めて振り下ろされた爪を躱して【スラッシュ】を発動、一閃。胴体にダイレクトに入ったコボルトはその場で砕け散る。
残りの三匹は認識を改め警戒しだしたのかじりじりと様子を窺うように距離を縮めてくる。正面とその左右に展開して包囲は崩さないようにしている。まず右側の敵から処理しようと考え、一気に踏み込む。それに伴い左のコボルトが追従、中央のコボルトが介入してきた。
モブ敵としては違和感のある連携の練度に首を傾げつつも弾かれた短剣を引き戻し後ろに蹴りを放つ。目の前の二匹による爪撃を回復力を当てにして無理やり受けて【カウンター】。一匹は撃破できたがもう一匹は浅く切り裂くだけで取り逃がしてしまう。
後ろのコボルトを警戒して距離を取ると片方がもう片方を守るように前に出てきた。新たなモーションに驚きつつもどんな攻撃がきてもいいよう防御の姿勢を取る。
守られているコボルトが大きく息を吸い込む。
「アウゥゥーーン!!!」
遠吠えだ。このゲームにおける叫ぶアクションは自己強化又は仲間を呼ぶコマンドであることが多い。
マズイと思う頃にはもう遅く案の定幾つもの集まってくる者たちを【気配察知】が捉えた。
一匹、二匹と増えていき気付けば七匹。最初よりも増えていた。更に【気配察知】は五つの気配が周りに潜んでいると教えてくれる。
先程までのように一匹二匹と対処していくが流石に疲れてきた。そろそろ潮時かなぁと思い声をかける。
「見学終わり。後任せた」
ガサガサと草陰から、木の裏から頭上から飛び出てきたのは見たことのある四人衆プラス知らない女の子。
「全部貰っていいの?」
「遠慮なくどうぞ」
小柄な少女が赤い髪をたなびかせて前へ躍り出る。
「【スラッシュ・ツヴァイ】」
その二振りでコボルトを撃破する。
「こっちも終わったよ」
「お兄さん大丈夫?」
声を上げたのはマリリンとアキャリ。そちらを見やるとポリゴン片が散っているのが見える。やはり純戦闘職は強いなと考えるがそれは思考の隅に置いておく。
「そろそろ疲れてきてたからね。助かったよ」
「またまた。まだ余裕あるでしょ」
「ん。兄貴がこの程度で音を上げるはずがない」
「買いかぶり過ぎだ」
妹のカーマインも話に混ざってくる。今は生産職なんだ。戦闘は本分では無いのに期待されても困る。
「それでそこの子は誰なんだい?」
「ん。今回一緒に行動することになった☆えんじぇる☆ちゃん」
「初めまして♪ ☆えんじぇる☆ちゃんです☆」
……ふむ。なるほど。この子はズバリ。
「小悪魔系だな」
「ノンノン♪ エンジェル☆」
「小悪魔」
「ノンノン♪ エンジェル☆」
「悪魔」
「エンジェル☆ せめて小をつけて♪」
「なら小悪魔だ」
「……エンジェルなのに。もうそれでいいよ」
勝ったな。ガハハ。
そんなことは置いといて疑問を口にする。
「なぜ一緒に行動しているんだ?」
「この子はこれでも魔法使い系プレイヤーの頂点の一人。特に
「ねーねー、お兄さんはそういうことを聞きたいんじゃないと思うよ? 私たちが集まる時に偶然会ったから今回のイベントでは一緒に行動することにしたんだ」
なるほど。偶然の産物か。それにしても斥候、剣士、盾、魔術、回復。バランスが良いパーティーだ。
「ん。合流もできたし兄貴の拠点まで行こう」
「そうだな。ひとまず帰ろうか」
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