Ep.19"違和感"

 学校から帰り、ログイン。バニーガチャは……看板娘のカノンちゃん。大当たりだ。あのガチムチからどうやったらこんなかわいい子が生まれるんだろう。不思議だ。

 食堂で軽くつまんでいるとチェル婆とアイミーさんがやってきた。残りを包んでもらい合流する。

 宿の外に出ると武装した兵士がたくさんいた。


「待たせたね」

「そちらも忙しかったでしょうに」

「馬鹿言うんじゃないよ。疑うわけじゃないがほんとに天然ものなら迅速に保護しなきゃだからね」

「だからこんなに護衛の人が多いのですか」


 一人納得して感心しているとチェル婆はかぶりを振った。


「確かにその手伝いはしてもらうが彼らのメインの仕事はそれじゃないよ」

「じゃあ、なぜ?」

「さあ。この場にいる人を見ればわかるんじゃないか」


 その言葉の通りに今回の同行者を考えてみる。

 まず案内人である自分。もしどこか管理されているところから盗み取ってきたとしてもアイミーさんだけで取り押さえられるためこんな大量にはいらないだろう。

 次にアイミーさん。普段からボディーガードはついているがモテるという理由だけで外でこんなに多くの護衛は必要ないだろう。

 最後にチェル婆。レベルがいくつか知らないがご老体でなおかつギルドマスターという立場ある人だ。護衛を引き連れていても違和感はない。

 なるほどと思いながら再度納得する。


「チェル婆がいるからこんな厳重なんですねえ」

「うむ。まあ、それでよい」


 そんな話をしているうちに森に到着した。うさぎさんを護衛が倒してくれるためすごく楽だった。アイミーさんはその様子を興味深そうに眺めていた。


「それじゃあ行きましょう」


 声をかけ進み始める。道中、やはりへびさんやゴブリンが襲い掛かってきたが護衛の皆さんが蹴散らした。それでも周囲に注意しながら進み、90分ほど経ったころ。ようやくジュエルフルーツの木へと辿り着いた。


「到着しました。これが俺の見つけたジュエルフルーツです」

「よし、ありがとう。あとは任せて休んでよいぞ」

「いえ、なにか手伝わせてください。待ってるだけなのは性に合わないので」

「ならばアイミーと一緒に目録にここが記載されてるかを調べてくれ」

「……いいのですか? 俺なんかに見せちゃって」

「これでもあんたのことは信用しているんだよ。いいから始めな。アイミー!」

「はい」

「頼んだよ」


 そういうと木の方へ歩いていき何かをしだした。多分健康状態などを見ているんだろう。

 そちらは任せ、アイミーさんと一緒に目録を調べる。書いてあるのは管理者の名前、エリア名、最寄りの街からの方角と距離、そして簡易的な地図、出現モンスターなどであった。

 プレイヤーからしても宝の宝庫じゃないかこれ。スクショ撮りたいけどそれをしたらやばいと勘が告げている。これはただのゲームではなくロスチルなのだ。住人NPCからの信用や好感度がちょっとしたことで落ちて不思議じゃない。よっておとなしくすることにした。

 それからしばらくして最後の一つを確認し終わる。幸いこちらにはこの木は記載されていなかった。

 ふと視線を感じ顔を上げるとアイミーさんがじっと見つめていた。どうやら先に終わっていたようだ。目が合うとばつが悪そうに目をそらし成果を聞いてくる。記載なしと報告し向こうもなかったようなのでこの木は天然ものだと確定した。


 そのことをチェル婆に報告すると、護衛は置いてひとまずギルドに戻ることになった。帰還の結晶という見たことないアイテムを使って戻った。情報量でパンクしそうである。そういえば情報というと先ほどの目録を任せられるアイミーさんって何者なんだろう。まあいいか。

 ギルドマスター室で再び向かい合い、話し合う。


「無事に天然ものだと分かりよかったな、ケイ坊」

「ほんとですよ。よかったです」


 椅子に深くもたれかかる。


「それじゃあ次の話だ。当たり前だが天然ものには管理人がいないわけだ」

「それはそうですね、チェル婆が管理人するんです?」

「あたしゃやんないよ。もういつ逝っちまうかわかんないからね」


 大きく声をあげて笑うが言われた側からすると笑えない。といってもまだまだ現役で仕事しそうな雰囲気はあるが。


「チェルマスターの笑えない冗談は置いといて、第一発見者には管理人になれる権利が与えられます。どうですか、ケイさん。やってみませんか、管理人」

「俺が? 管理人を?」


 戸惑っているとさらに提案がなされた。


「管理する上でずっとあの場所に木を放置するわけにはいきません。ですのでひとまずあの木はギルドで預かります。ケイさんが自分の家や畑といった土地を持った時に返却します。その間の費用は一切請求しません。また引き取ってくださった後もサポートを続けていきます。こちらに関しても費用は掛かりません」


 まるでというかまんまセールストークだ、これ。


「ジュエルフルーツの実に関しては実った際に国に一つ以上納品してくれれば大丈夫です。それ以外はケイさんの自由にしてもらって構いません。どうですか。やってみませんか」


 サポートの費用も掛からないしノルマも高くない。いい話だ。だからこそ怖い。うまい話には裏がある。綺麗な花には棘がある。常識だ。


「管理人になったとして何をさせたいんです? 俺より適任な者はたくさんいるでしょう」


 そうきくと二人は微妙な顔をして答えた。


「正直ケイさんが一番の適任者だと考えています」

「貴族の奴らはのう、仕事はできるんだが信用が今一つ足りなくてな。貴重なジュエルフルーツを枯らさないか、紛失しないかが心配でな」

「その点、期間は短いですがクエスト達成も良好で我々職員からの信用もあるケイさんは渡りに船なんです」

「どうか、私らを助けると思ってな。頼む」


 二人そろって頭を下げられた。ここまでされて断れるほど強い心の持ち主ではない。


「わかりました。頭を上げてください。管理人は引き受けますから」

「ほんと! ありがとう。ケイさん」

「ありがとうな、ケイ坊。どれ、このまま手続きを済ませてしまうか。これらが契約書だよ」


 渡されたのは数枚の書類。二人の説明を聞き、指示通りに署名をして血判を押す。

 返すと二人も同じように血判した。これで契約が完了するらしい。


「これで契約完了だよ。よろしく頼むよ」


 チェル婆が二っと笑う。アイミーさんが目元をゆがめる。その雰囲気に何か違和感を感じる。俺が気づいていない何かがあるような気がする。

 何かおかしい。そう空気を感じ取ると一息つく間もなくアナウンスが鳴った。


≪称号【クリエスタ王国所属職人見習い】を獲得しました≫


 ……は?

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