第三章"Rabbit"
Ep.5"俺は男だ"
外の世界に一歩踏み出……そうと思ったけれど俺は思った。
“正面玄関からではなく窓からでたらどうなるのだろう”と。
気になったら止まらない。俺がとる行動はただひとつ。
前に出しかけてた身体を扉を閉める時の腕の力を利用して引き戻す。
扉が閉まるのを確認せずに窓に身体を向ける。それと同時に走り出す。
てか遅い! AGI1がこんなところで足を引っ張るとは!
見る限り窓は押し開くタイプのものだった。
ちょうどいい位置にあった椅子を踏みつけるとスキル【跳躍】を発動させる。そして……窓に向かってダイブ!!
このまま外に出ようかと思ったけれど足首ををガシッと誰かに掴まれた。まぁ、ナナさんしか居ないのだが。
勢いが削がれ、頭を窓枠にぶつけた。
「ちょっと! 貴方何やってるの!」
「ちょいと好奇心を満たしにね」
怒られた。内容は割愛させてもらう。
「ふぅ。まぁ、あのまま行かないでくれたおかげで最後に言うべきことを言い忘れずにすんだのだけどね」
言い忘れてたこと?
「デスペナルティとファストトラベルのことよ」
……すごい大事な事のような気がする。
言い忘れるなよ。
「ごめんなさいね。じゃあ説明するわね」
色々説明されたがここでは省略する。時が来たら思い出そう。
「あ、もう行ってくれて大丈夫よ。今度はちゃんと玄関から出て行ってね?」
「了解したよ。……多分」
「……私の手で放り出してあげようかしら?」
怖っ。
言われなくても今度はちゃんと出ていくよ。
「それじゃ、ありがとな」
お礼を言うと再び扉に手をかけた。扉を開き、今度はしっかりと外の大地を踏み締めた。
さぁ、俺たちの冒険はここからだ!! ※やっと始まります。
☆ ☆ ☆
プレイヤーAの話。
「あれは誰でもビビるだろ。しかもあの子始めたばっかだろ? 可哀想に。落ち込んでたら慰めてあげたい。ん? なんでかって? そりゃぁあれだよ。可愛かったからだよ。」
プレイヤーFの話。
「多分、あんな始め方をした新規プレイヤーはどこを探してもあの子だけなんじゃないか?」
プレイヤーHの話。
「綺麗にズパッと行ったよな。まるで吸い込まれるようにだ」
プレイヤーKの話。
「まさかね、初めてこの地に降りたって目に飛び込んできたのが鈍く光る斧だったんだぜ? 笑えるよな。しかもそれがピッタリ俺の首にジャストヒット! 始めてから10秒経たずにデスペナ食らったのって俺だけだろうな。」
そう語るのはプレイヤーK。つまり俺、少しテンションのおかしい小魚Kである。
☆ ☆ ☆
時を戻そう。
扉を開き俺がこの地に降り立った。するとまず耳に入ってきたのが
「おりゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
という野太い声だったんだ。
そちらに顔を向けるとデッカイ斧を光らせて、俺目掛けて振り下ろしている髭モジャ男と目が合った。
「「あっ」」
俺は悟ったよ。これ、死んだなってね。その面覚えたからなぁ!
案の定死んだ。
時は来た! ということでデスペナルティ――通称デスペナ――の説明だ。デスペナは10分間のログイン制限とその後20分間の獲得経験値減少、ステータス10%低下、確率で所持アイテムのロストだ。プレイヤーにキルされた時は装備品もロストする可能性がある。
要するに脳を一旦休めてその後は街でのんびりしろって事ですね。ただゲーム開始から24時間はログイン制限以外が3回まで免除されるらしい。これを通称残機と呼ぶ。
消えていく最中に何かシステム音声が聞こえた気がする。気のせいかもしれないが、後で確認しよう。
因みに死ぬ時に不快な感触があった。ねっとりとした固いものを無理やりねじ込まれる感じだ。痛覚の代わりに用いているんだろう。
10分の経ったから改めてログインしてみる。ウィンドウが開いたが落ち着いてから見ようと思い視界から消す。
さっきは殺されて周りを見る余裕はなかったから見てみる。俺のすぐ側にはデッカイ噴水があった。きっとここが広場なんだろう。
1番背の高い時計台はちょうど広場から続いている一本道の先にあった。
「あー、そのー、お嬢ちゃん?」
よし、時間に遅れないように行こう。少し店を見ながらでも余裕で間に合うはずだ。
「なぁ、無視しないでくれよ。俺が悪かったから」
さぁ、しゅっぱーつ!! しようかと思ったけどさっきから話しかけてくる人がウザったい。少し不機嫌そうな顔を作るとそちらを向く。
知ってる顔だった。てか、さっき俺を殺したやつだった。今度やり返そう。
「あ、いや、その悪かった!」
そう言って頭を下げてきた。
「噴水は壊れるのかの検証をしていて誤って嬢ちゃんに当てちまった。残機を減らしちまってほんっとーにすまない!」
俺は時計台の方を向く。
「別に殺されたことについては今は問題ない。忘れはしないがな。いや、貴重な残機がすぐに減ったのは痛いな。だが、それよりも」
そういうと男は目を丸くしてこちらを見てきた。この男だけではなく周りの人たちもだ。出てきた声が女性のように高くなく、それなりに低かったからだろう。
「俺を……“嬢ちゃん”と呼ぶな」
息を思いっきり息を吸う。
そして、叫んだ。
「俺は男だ!!!!」
一呼吸置くと俺は歩き出す。が、一度止まってもう一度息を吸う。
「あと!! このアバターも性別男だ!!」
そう言ってまた歩き出した。
この日、この空、この痛み、決して忘れはせぬ。いつかこの屈辱を晴らしてくれるわ。
とある高校の学園祭で、ミスコンに男ながら出場させられ、挙句の果てに優勝してしまった人物がいるという。
そう、その人物こそがこの男。小魚Kである。因みに去年のことである。
……あれ? そういえば認識阻害効果さん仕事してた?
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