第5話 レッドドラゴンの本音
「これは、どういうことだっ!!デッド・ドラゴン・スライムだと...別の種族が、ドラゴンになることなど、許さねぇぞっ!!」
「私たち以外のドラゴンなんて認められない。だから、みんなで新たなドラゴンがでたら殺そうって決めたじゃない。強くなる前に」
緑色のいかにも爬虫類らしい竜と、青いエラのが生えた水に特化しているであろう竜が声を上げて空から眺める。
「どういうことか、説明してもらおうか。レッドドラゴンよ」
「すまぬ。悠長に眺めておったわ。まさか、ドラゴンになってしまうなど、想定外だったのでな」
翼を持たない地を歩く竜と、赤い色の大きく開かれた翼と何ものも傷を付けることは叶わないであろう赤い竜がしゃべる。
彼らは、四属性の竜と言われて、それぞれ...火、水、風、土を司る竜である。
「こうなってしまったからには、早急に倒しにいくしかなかろうっ!!ほれ、土竜よ俺が助太刀しよう。」
「ワシは、歩くのが遅い。助かる」
「私が一番早く着いてしまうかしらね。」
「.....こうなってしまったからには、すまない。スライム....せめてもの情けと思い、お前の成長を見ているつもりだったがすまない。」
我は、レッドドラゴン。現れたら、全てを破壊するという伝説のドラゴンである。
我は、魔眼を持っている。
全てを見通す魔眼....その中で、声を大きく張り上げて目には見えないが心が泣いている彼の姿を見通していた。
「.....我が、土竜を運ぼう。」
「ん?お前がっ?珍しいじゃないか。傲慢のドラゴンがよ」
「優しく、運んでくれ」
「まぁ、いいや。じゃあ、おっさきぃ!!」
むっ...土竜とはこんなに重いのか!ふむ、これでは彼のところに辿り着くまでには時間がかかりそうだなぁ....
仕方のないものは、仕方ない。先に行った竜たちを魔眼で眺めつつ、急いで向かうとしよう。
全てを、不意にしてしまった。
全てを、ボロボロにしてしまった。
僕は、一体...どうしたら救われるのだろうか。
深い洞窟の中、ひたすら自問自答を繰り返していた。
きっと....答えは、あるはずなのに...届かない。
眼は、なにも写していなかった。
洞窟の中で滴る水の音がぴちゃぴちゃと一定のリズムを刻む。
突然、静かな空間を大きな物を打ち付けたような音が響く。その音は徐々に徐々に近づいているように感じた。
なのに、上を見る気が起きない。僕は、洞窟に長年かけて空いた水溜まりを眺めている。
数日ぶりに、日光が視界に入ってくる。
「あら、病んじゃってるのね。可哀想ねぇ...聞こえてる?聞こえてないかな?うん。ごめんなさいね。死んで頂戴。」
急激に温度が下がって僕の周りが凍っていく。白い霜が、広がる。
「凍らして、壊せばいくらドラゴンになったスライムでもボロボロになっちゃうでしょ?相性は、私の方が上のはずよ。」
洞窟の滴っていた水が、凍ってしまう。
「あ.....」
なにも、考えずにいられたのに....
「邪魔するなぁ!!」
爆音が、氷を破壊する。温度が急激に暖かくなっていく。
僕は、もう何も見ることができない。誰も見たくない。
「はっ!?なんで、溶けちゃってるわけ?訳わかんないんだけどっ!!大人しく死んでちょうだいっ!!」
激情に任せた僕は、この状況を作った本人へと視線を向ける。
意味が分からない?それは、こっちの話だ。頼むから、僕に関わらないでくれ。
『ドラゴン・ブレス』
僕は、エンシェント・スライム・ドラゴンになると同時に属性を失った。
スライムであることと、ドラゴンであることが混在している半端な真のドラゴン。
半端ものではあるが、真のドラゴンがさらに半端な四元素のドラゴンになんて負けるわけがなく。
「ガァアアア....」
ただのドラゴン・ブレスで滅んでしまった。
『エンシェント・スライム・ドラゴンのレベルが40になりました。』
「お、おいっおいっ!!水龍っ!?てめぇ...半端もんの分際で、くらえ」
『ウィンドウ・ブラスト』
緑色の竜は、必中の竜と言われ...動きを完全に止め、自信の攻撃を確実に当てていく恐ろしい竜として知られている。
だが、そんな小手先の力に頼るものこそ半端ものの竜なので...
『ドラゴン・ブレス』
僕と緑色の竜との間でブレスのせめぎ合いが起こる。だが、それも一瞬のことで再び僕の方に軍杯が上がる。
「はっ!?俺の力に真っ向から、魔法を放つとか馬鹿じゃねぇの。半端ものの魔法なんて...ガァアアア!!」
そうして、ブレスによって跡形もなく消えていく。
そうして、竜たちを倒した僕の心には、黒い雪がより一層降り積もる。喜ぶことすら、僕はとうに忘れたよ。
『エンシェント・スライム・ドラゴンは、レベル80を超えました。』
少ししてから、遠くの方から何かが飛翔してくるのが見えた。
「お主....」
「二人とも...貴様ァアアア!!許さん...許さんぞっ!!」
「ぐぉ...待てっ!!土竜」
黄色の光を放ち、風を撒き散らす竜。
圧力に吹き飛ばされて、どうすることもできない火竜は、ただ眺めることしかできなかった。
『警告....土竜が生命のシステムを破壊して、進化を遂げようとしています。』
土竜が、白い光に充てられて爆発する。
進化?いや生まれ変わりとでも言うべき彼は、進化をしても翼が生えることはなかったが、どこか初老のような凄みを感じさせる痩せ身の龍へと姿を変貌させる。
「....魔物は、弱肉強食。ワシは、様々な命を奪ってきた。が、そうか...当たり前のことすぎて、気付くのが遅すぎたようじゃ。命を奪われるというのは、ここまで辛いものなのであるな。」
浮かび上がる地の龍は、僕を見つめてブツブツと独り言を呟く。
「お主は、気づかないのか?いや、気づいておるのか?その姿にまで成長したということは、様々な命を刈り取ってきたのであろう。なにも思うことはなかったのか?」
土龍の言葉は、僕になにかを期待するような言葉だった。
昔の僕だったら、もしかしたら彼の望む答えを与えることができたかもしれない。
でも、きっと..,あの時の僕に戻ってしまったら。
僕は、壊れてしまうから。
ごめん...
「........僕は、魔物だよ?」
細い目をした龍の瞳がそっと開けられる。
まるで、残念そうに...そして、憎き敵を見るように...
「紛いもの。龍の誇りすらないのだな。だが、そんなこともうよい。どうかワシのために、安らかに死んでくれんか?」
『ドラゴニック・メテオストライク』
黄色い光が、空を覆い尽くす。まるで、夢を見ていたかのようだ。
流星群が、僕へと降り注いでくる。
それらの光景は、あの時 願った僕へと回帰する。目の前に広がる星の流れは、僕の願いなんて忘れたかのように差し迫る。
あなたたちは、僕になにか叶えてくれた?
結局....僕は....赤い龍へと変わっちゃったよ?
スライムってなに?
ねぇ....流星群たちよ。僕の願いは、叶えてくれないの?
ふと、空が変なことに気づく。ドラゴンが作り出した流星群の魔法とは別で、空を流星群が流れる。
僕に近い流星群と、僕から遠い流星群がお互いがお互いを主張するように飛び交う。
そうして...僕が消えそうな寸前に、その流れが...神々が、僕を進化へと促す。
最後の進化は、心に秘めてる思いを成就させる。
「む?人....か?」
レッドドラゴンは、万物を見つめる魔眼が、それを捉えた。
『イフィニット・ディメンション・ブレイク』
「っ....!?!なん....」
様々な光が、降り注ぐ全ての流星群をもみ消す。それは、宇宙の記憶に刻まれた星々玉砕。
自分へと降り注ぐ厄災を滅ぼすための手段。
なぜ....こうなってしまうのか...
僕は...会いたいんだ。生きたいんじゃない。なぁ、なんで、なんで自分を守るものばかり...
「ァアァアアアアア....違う。違うんだ。違うんだ。そうじゃない。そうじゃないだろ。なぁ!!世界よ。宇宙よ。僕が知らない神々よ。なぜ....なぜ、こんなことばかり」
土龍は、消えた。宇宙の圧力に、揉み消されて...消滅させられた。
『エンシェント・スライム・ドラゴンは、ゴッド・スライム・ドラゴンへと進化しました。』
土龍が消え去った後に残るのは僕とレッドドラゴンの二つの個体のみになった。
レッドドラゴンは、のっそりと僕の側へとやってくる。
怖くないのだろうか。
僕は、自分でいうのも変ではあるがレッドドラゴンより強くなってしまった。
その気になれば一撃でコイツを消し去ることができるだろう。
いっそこのまま逃げてしまえばいいのに...
なにも感じなくなった瞳がレッドドラゴンを映し出す。
「哀れだな。お主は」
「おまっ....っ!!黙れっ!!」
分かっている。そんなこと、言われなくても...
「もう、やめにしたらどうだ?」
「黙れよ!!おまえに....おまえがっ!!」
どれだけ、辞められたらと夢見たことか...だが、欲しいものはどんなに頑張っても届かないんだ。
「我は....」
「黙れぇぇぇえええええええええ!!!!」
頭が真っ白になり、感情が僕を支配する。
僕を中心にして、力が高まりなにもかもが消え去り、ボロボロに崩れていく。
「........凄まじいな。」
「はぁ...はぁ...」
なにを驚く必要がある。なにか言いたいことがあるなら、言えばいいじゃないか。
「こんなの....」
「ドラゴンたるもの、高潔であれ...」
「.......」
あの竜達が襲ってきた理由はそれか。なんなんだ...竜だの、龍だのお前ら、なんなんだよ。
はぁ...どうでもいい。そんな俺の明らかに聞きたくないような態度を出しているが、レッドドラゴンは淡々と言葉を続ける。
「なぜ、高潔たれ...と、言われているか分かるか?」
「分かるわけが、ないだろ」
「力を振るうところを見謝ってはいけないからだ。我は、若かった。お主を見ていて...我は、自分の愚かさに気づいた。浅はかな行いだったと今でも思う。弱小のものに、暴挙を許したそんなことを無きものにするために、全てを燃やし尽くした。」
「.......」
「傲慢な我をどうか、滅ぼしてはくれないだろうか?」
こいつなりの、ケジメというやつか。僕も、丁度お前を殺そうと思っていたところだ。だけど、
「................分かった。その前に、レッドドラゴン...お前に聞きたいことがあるんだ。」
「我が、答えられる範囲なら」
「お前は、なんでずっと僕に構い続けていた?わざわざ悔いているなら、なぜ僕と話をし続けていたんだ?始めの時なんか、僕はなにも答えることができなかったじゃないか?そんな俺を、どうしてお前は....」
ずっと気になっていた。
スライムなんかちっぽけで...意味もないのに、なんで俺にばかり構うんだ。別に、なにか僕がいいことをしたわけじゃないだろ。
強いて言うなら、それもケジメだ。とでも言うようなことだろう?そう思っていたが、ドラゴンは意外な言葉をつぶやいた。
「.......お主が、羨ましかったからだ。」
「は?」
僕が、羨ましかった?自分でいうのもなんだけど、全然羨ましいところなんて無かったでしょ。
「我は、なにも駆り立てられることがなかった。だから、羨ましかった。きっと、少女に物を盗まれたのも、心のどこかで誰かになにかを取られることによって、なにかが変わると思ったのだ。だから、我よりも感情に貪欲でずっと苦悩し続けるお主が羨ましかったのかもしれない。」
は?意味が分からない。
結局なんだ?自分のものを少女に取られたけど、自分自身が腹を立てることがないことにイラついて少女を殺したっていうのか?
そんなことのために...!そんな、自分勝手なことであの子の命を....!
そんなちっぽけなことで僕はずっとずっと...こんなに迷って、苦悩して....
「そうして、見ていると...お主のことが危なかっしくなってな。」
そういうと、目を細めて...僕の姿を眺めてた。まるで、自分の子供でも眺めるかのように、とても優しそうな目で...
「ずっと、見ておったのだ。お主が、死んでしまわないか、お主が、きちんと生きておるかどうか....もしかしたら、我が殺してしまったあの子を、生き返らせようとするかもしれない。そしたら、ひっそりと協力してやろうとか考えておった。だが、そんなことは、一生ありえないことであったな...」
「........」
なぜか....心が、苦しくなった....こんなにも、こんなにも、殺してしまいたいのに、殺したくないなんて....
「頼むから....殺させてくれよ....」
「あぁ...殺してくれ」
「アァアアアアアアア」
感情が抑えられなくなって、叫び散らかす。なんなんだ一体...なんなんだよ。なんなんだよっ!!なんなんだよっ!!
なんで、清々しく悪役として居てくれないんだよ。おいっ!!やめてくれよ。そんなの、言われたら、あんまりだろ。
「頼むから、死んでくれ....」
僕は、無慈悲に手を差し伸べた初めてあった時は、あんなにも雄大で、広大で無慈悲で...残酷で...段々、腹立たしくて...尊敬すらしていて...それでいて、憎たらしくて、うるさくて...
「さようなら、僕のお父さん」
『ドラゴン・ブレス.....』
光が、空を覆う。僕の大事な家族のような人をこの手で殺める。復讐は....終わった。
そう、復讐は....
復讐....は.....おわっ...終わったんだ...
終わったから、解放されていいんだ。終わった...から...
そもそも、これは、復讐だったのだろうか.....
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