第4話 ドラゴンに魅せられて

「こいつを仲間にすればっ!!

─お願い。もう、しませんから、お願いしまっ...」


火は、平等に燃えていく。


「ひっ!!噂の、赤いスライムっ!!はぁ!!

─い、いやぁ...助けてっ!!たすけぇ...」


ボンッという、淡白な音とともに...


「お前だけは、許さない。お前だけはっ

─あぁ...俺は、まだ、やれっ」


火は平等に、燃えていく。所詮世界は弱肉強食。


「囲めっ!!スライム如きっ!!叩き潰してくれるわっ

─はぁ....ぐっ...我が覇道、悔いなし」



全てっ!!全て!消えろっ!!消えろぉ!!消えろぉぉぉおおお!!



『ポイズンスライム(赤)レベル80から、デッドドラゴンスライムへと進化しました』



僕は、小さな洞窟の中で昔のことを思い出していた。まるで、ありし日の夢のような穏やかな光景が広がっている。


優しさに包まれていた光景は、いつのまにかドラゴンの炎に包まれる。


「うっぁっ!!!」


やっぱり、彼女のことは消えることはない。どんな表情だったかも思い出せない。


苦しい....苦しいよぉ


再び竜へと怒りがフツフツと湧いてくる。僕が、竜へとなったからか...同格になった今、僕はアイツに対する怒りが込み上げてきてしかたがなかった。


僕の体はいつの間にか目や、小さな尻尾、硬い鱗のようなものまで生えていた。


なんで、進化をすればするほど、竜へと近づくんだろう。こんなに憎くて、僕は殺したいとすら思ってるのに...


「レッドドラゴンが、僕の恐怖の象徴だから?」


久しぶりに会った竜から、自分のことはレッドドラゴンと言えと、あいつは言った。そして...


お前も、ドラゴンの端くれなら、堂々としろ。過去のものに囚われるな。


お前を....僕はっ...殺したいんだよぉおおお!!


どこから声がでているのか未だに分からないけど...声にはならなかった。少女の姿は、もう思い出せない。ただ、ただお前を殺してあの子が浮かばれるのなら、お前を殺すしかないじゃないか。



ガアァアアアアア


殺したくても、殺せないんだよ。あいつは強すぎるからっ...


悲痛な叫びが、夜空に広がっていく。どこまでも....どこまでも、広く。どこまでも、長く。どこまでも、辛く。



『デッドドラゴンスライムは、レベル80になりました。』






ある少女と出会った。

静かに目をつむっていたら、少女が僕の体に触れてきた。


どうやら、彼女は魔物の心が読めるらしい。


「あなた、辛そうな顔している。」


......


少女の名前は、チャシャ。青い色の瞳と、綺麗に伸ばされた白い髪。黒いローブに滑稽な白い模様の入った怪しげな女だった。


「ははははは.....辛い?辛いって?僕は、生き生きしているよ。今も、昔も...ずっと...ずっと」


「心が悲鳴を上げてる。魂の位階が上がっていく。」


「黙れよ。」


ドラゴンブレスを放つ。

まがいものだけど、小さなドラゴンが放つブレスよりも、強い力を持っている。


『ディメンション・ガード』


面妖な術を使う女だ。僕のブレスが、全く響いていない。全て防がれた。


「神様から、もらったギフト。私に、くれたの...そんなことより、あなたの問題」


「だからなんだよっ!!勝手に分かったような口を聞くなっ!!」


続けてブレスを、三発四発と放っていくが、全て防がれる。

もう、めんどくさい。守ることだけしかしない。所詮、魔物は弱肉強食。弱いのなら、潔く死ね...


『デッド・オブ・ポインズンブレス』


これは、ブレスを吐くと毒の霧が霧散し、吸い込むと体内で爆発する。毒と、ドラゴンと、スライムの力を掛け合わせた。僕だけにしか出来ない魔法だ。


「うっ....がはっ....」


顔を覆う布から、血が吹き出る。


想定通り、どんな生き物でも必ず息はするものだ。強すぎる魔物には、この魔法は通用しにくいが、雑魚を大量に狩る時には役に立つ。


すると、僕は目を疑った。まるで、次元がズレるような感覚とともに、彼女の体がいつの間にか前までの彼女に戻ったような錯覚におちいる。


「私の呪い....私は、死なない。絶対に死なないよ。」


「っ.....!?!」


青い瞳が僕を捉える。まるで、全てを包むよ。と言いたげに僕のことをじっと見つめてくる。


「僕は、魔物だから。死なないなら、死ぬまで殺す」


「魔物なんて関係ない。辛い気持ち、私はあなたの心がよく分からるわ。あなたは、もう許されていいはずよ」


「ぁ.....」


何かが解けた気がした。そうだ。僕は、ずっと頑張ってたじゃないか。許されてもいいんだよな?


ずっと欲しかった言葉だったのかもしれない。もう、この人になら、全てを話していいかな。

きっと流星群が、導いてくれたのかもしれない。


「僕は....」


しゃべろうとした瞬間に、チャシャの体に歪みが、生じる。まるで、そこにはなにもいなかったように、消えてしまう。


そうして変わりに、大人数の老若男女様々な冒険者が、僕の前に現れる。


僕に一番近くにいた短髪の目の死んでいる男が声を上げる。


「放てっ....」


僕が出したブレスによって、何人かのものが倒れていた。あらかじめ、軌道を逸らされていたようだ。


奥にチャシャが見えた気色の悪い笑みを浮かべていた。


はめられた。騙された。


ガァアアアアア


何度と分からない怒りによって我を忘れていた。放たれる雷、炎、水...様々な魔法を全て飲み込み、全てを食い尽くさんと暴れる。


気がついた時には、ただ一人を覗いて、周りの全てなにも残っていなかった。


チシャだ。


彼女の光を失った無機質な目を僕へと向けながら僕の胃の中を漂う。永遠に終わらない死が、彼女をむしば見続ける。


そして、ついに彼女の力が壊れる。



(もう、安らかに眠っていいはずよ)


......


彼女の意思を感じた。



『デッド・ドラゴン・スライムは、エンシェント・スライム・ドラゴンへと進化しました。』




僕の体は、赤色のドラゴンへと変わっていた。


まるで、あのドラゴンのように気高く、大きな古代のドラゴンへと...


なぜこんなに通常よりも進化が早いのか分からないけれど、一つだけ言えることがある。


「僕は、死ぬ機会を失ってしまったのかもしれない。」

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