第一章-7

▼亜獣狩り協会逆さ街支部


ユリ達は亜獣狩り達に案内され、亜獣狩り協会の逆さ街支部の建物へ来ていた。

入り口でユリはその建物を少し観察する。

レンガ造りのその建物は所々に意匠が施され、おしゃれな外観をしていた。


「ずいぶんと建物がおしゃれだね」


ユリがそう言うと、ユリを囲んでいた亜獣狩りの一人の男が言う。


「そうだろ。この建物は我々の誇りだよ」


その言葉にユリはフーンと言いつつつぶやいた。


「こんなものを作ってる暇があるんだね」


ユリは他の街の亜獣狩り協会を思い浮かべる。

どこも、急造で作られた張りぼてのような建物であり、外観より機能を意識した作りになっている。

それだけ、一生懸命作っても亜獣が街を襲い破壊されてしまうと言うことを意味する。


逆に言えば、この街は、そうした意匠を凝らした建物を建てられるほど安全だということだ。


亜獣狩りに導かれ、中に入ると、そこには三十人ほどの人だかりができていた。

どうやら鳥の亜獣が出たと言う話で招集されたらしい。

ユリとしてはあの程度の亜獣など、三、四人もいれば十分だと思っているが、この街では違うらしい。


「おや、鳥の亜獣を連れてきたきたのはお前らか?」


いきなりユリ達の前に現れた男は、スーツをびしっと着こなした高飛車な男だった。

若干顔にしわがあることから、初老のあたりで不死になったんだろうなとユリは予想していた。


「そうだけど、もう、そいつはいなくなったから安心していいよ。あんたは?」


ユリはそう言いつつ、前に出た。男はため息をつきつつ、言う。


「私の事を知らないのか?」


「知らん。あ、私はユリだ」


ユリはそう言うと握手のために手を差し出した。

だが、男はその手を取らず言う。


「私は、この街の亜獣狩り協会の支部長、チグサだ。

全く、この街にいる亜獣狩りなら支部長の顔くらい把握しておきたまえ」


チグサはそう言いつつユリの後ろにいる人に目を向けた。

ベル、マツバと進み、ランのところで目を止めた。


「お前は、ランか。全く。お前の持ち込みの厄介案件か?」


「いえ、その……」


ランは否定できずうつむく。

チグサはユリを押しのけランの顎に手を当てるとクイっと持ち上げ、自分の方を向かせる。


「お前は本当に自分勝手な女だ。

先日、あの塔にいるヤツを塔から出そうとしたらしいじゃないか。

この街の安全はどうでもいいのか?」


「そう言うわけでは……」


ランはそう言いつつ首を振る。

そこへ、押しのけられていたユリがランに触れているチグサの腕を掴む。


「まぁ、そこまででいいじゃない。ランは狩りの途中で仲間に置いて行かれて疲れてんだ」


そう言った途端、チグサはユリの顔面を殴り飛ばした。


「支部長の行動を止めるとはどういう了見か?」


チグサはユリがつかんだ部分を、パンパンと払う。

吹っ飛んだユリはいてててと言いつつ立ち上がる。チグサは続ける。


「それに、置いて行かれたのは、その、ランが鈍くさい女だからだろう。

役立たずのくせに疲れたとは言いご身分だな」


ユリに駆け寄ったベルは、ユリの折れて曲がってしまった鼻がちゃんと元の形になりやすいよう手を沿える。


「ユリちゃん。大丈夫ぅ?」


「問題ないよ。ラン。行こう。

これ以上ここにいる必要はない。これ以上厄介なことが起きる前に帰ろう」


ユリはそう言ってランの手を取ると出口へ向かう。


「おいおい、勝手に出て行ってもらっては困る!」


チグサは亜獣狩り達に指示してユリ達を囲んだ。ユリはチグサの方を見ることなく言う。


「このまま、黙って私たちをここから出した方がいいぞ」


「はっ。安い挑発だ。なんでそれを俺が聞かなきゃいけないんだ?

そこのチビと、デカ女、あとそこのヒョロヒョロの男も。

亜獣狩りなら支部長の俺の言うことを聞け!」


チグサは馬鹿じゃないかと言いながら、ユリ達に近づく。

ユリの手をチグサが取ろうとしたその時ベルが突然声を上げた。


「ひゃぁ! この!」


どうやらどさくさに紛れてベルの尻を撫でた奴がいたようだった。

ベルが腕を振ったがその男はベルの攻撃をひょいと避ける。


しかし、次の瞬間だった。


キンっと武器を仕舞う音がユリから聞こえた。

それと同時に、男の首がゆっくりと落下した。


「ユリちゃん……。ありがとうねぇ。

でも、師匠からこうやって力を見せびらかすのはだめって言われてたよねぇ」


「し、師匠の話は出さないで……」


ユリはちょっとへにゃっとした顔をしつつ、切り落とした首を足でチグサの方へ転がす。


「え?」


周囲にいた亜獣狩り達は突然首が落ち、倒れ込んだ男を目で見るほかなかった。

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