第47話 レース⑥ー3
小惑星群の中を赤と蒼の宇宙船が追い越し合いながら進んで行く。
「腕は落ちてないよな?」
「そっちこそ、その船で飛ぶのは久しぶりでしょ?お互い様よね(笑)」
「これで対等だとでも?」
「そんな事ないわ、こっちが不利よ。・・・そろそろ良いんじゃないかしら?」
「勝負は始まってるんだろ?余裕だな」
「正々堂々って言ってくれる?」
これと言った合図はないものの、2人はスロットルを全開にした。
2機の宇宙船が同時にエンジン出力を最大に加速して、赤と蒼の光の軌跡が小惑星群の中を高速で縫う様に飛んで行く。
他の皆は小惑星群の外からその勝負を見ていた。
「凄いっスねぇ、凄いっスけど山岡さんと飛んでるのは誰っスか?」
「知らん、課長に聞いても『ナ・イ・ショ』だとさ」
ルート・ビアの問いに崎・クワトロがモノマネをしながら答えた。
その会話を通信で聞いていた他のメンバーからも声が上がった。
「私達は全員ここにいますよね?・・・まさか、ヨン・ノレイさんですか!?」
「私はここにいます」
辺りを見回したディフリーフォール・シーに1機のポッドが近づいて答えた。
「それにしてもよくあんな操縦ができる。俺なら怖くて出来んわ。ガハハハ」
「あらあら、ウフフフ」
アレーグ・クワーテの補給船の隣に位置付いていたベル・チョテレは、嬉しそうに勝負の行方を待っていた。
各場所に設置したドローンのモニター映像からテテルは実況を続けていた。
「突如現れた蒼い宇宙船、フォード・山岡選手のイグニスと同型のその名も【アウロラ】そして、なんと対等に渡り合っています。そんな船を扱っているのは一体誰なのでしょうか?」
「さぁ、誰だろうねぇ、何やらあの2機でレースをやっている様だよね」
テテルの疑問に対してとぼける様にモニターを見ている課長。
「上達したわね、嬉しいわ」
通信を繋げたまま高速飛行している2機。
イグニスはペイント弾を避ける為に小惑星を撫でる様に、土埃が舞うギリギリを、アウロラは小さい岩石を小刻みに避けて射線に入らない様に進んで行く。
イグニスとアウロラが、互いに射撃で牽制しながら追い合う形が続く中、チェックポイントがチラチラと視界に入ってきた時、2機がそこへ向かい始めた。
その一部始終を見ていたトットファーレの班員達からも興奮した声が飛び交う中、班長達も
「そろそろ決着が付きそうですね」
「どっちがチェックポイントを先に通ろうが、フォードが通った後はゴールに向かうだけだ、ここで食い止めるぞ。・・・全員聞いているか?魅入っていても良いが締める所はしっかり締めろよー!!」
赤と蒼の光が入り混じりながらチェックポイントを通り過ぎたのを見て、崎・クワトロの飛ばした檄に全員が返事をした。
「どっちだ!?」
フォード・山岡はどっちが先に通過したかを気にして声を上げた。
「同時みたいね、後でよく確認しないといけないけど」
「まだ、差を付けられないのかぁ」
「十分速かったわよ、油断したら引き離されてたわ」
気を落とすフォード・山岡をなだめながら「それじゃぁ、私はここで離れるけど、あなたはまだゴールまで行かなきゃでしょ?頑張ってね」
バイバイと、あっという間に見えなくなったアウロラを見送ったフォード・山岡はイグニスの進行方向をゴールへと向けた。
「来るぞー!!最後まで気合入れろー」
崎・クワトロが気を引き締めさせた所で
「ゴ~~~~~ル!!」
テテルの声が響いた。
『・・・・・はぁぁぁぁ!?』
宇宙空間に疑問符が飛び交う。
「No.2チームのゴールした通知が届きましたので、叫ばせてもらいましたが、私も皆さんと同じ気持ちです。イグニスが小惑星群から姿を見せていません、一体これはどういう事なのでしょう?そしてアウロラの操縦者は誰だったのか?説明してもらってもよろしいでしょうか、課長さん」
興奮気味のテテルが課長に振ると、課長は満面の笑みで「内緒」と答え、続け様に解説に入った。
「まずゴール条件を思い出してみようか、3つのチェックポイントを通過してメイン機がゴールするんだよね?」
はい、そうですと頷くテテルを横目にモニターを操作してゴールを映す課長。そこには、ポッド2機が浮遊していた。
「メイン機がゴールするんだよね?・・・」
「???」
テテルは問われている意図が分からずにいた。
「メイン機がゴールするんだよね?・・・」
「???」
テテルは同じセリフを聞かされても、何を求められているのか分からずにいた。
「メイン機が」
「!?」
課長の同じセリフが3度目になった所で気付いたテテルがエントリー情報を確認して実況をした。
「情報を整理させてもらいました。No.2チームのメイン機がチティリ選手になっていますので、ゴール条件の【メイン機がゴールする】判定は正当です。そして、タイムは
18分22秒
20分を切りました、ダントツ1位です。あんな高速飛行は滅多に見れません・・・・・ちょっと、うるさいですよ(笑)そういう事もあとで受け付ける時間がありますから、まずはこのレースに関わった全ての皆さんにお疲れ様でしたぁぁぁ」
テテルはレース結果の通信に被せてきたブーイングを押し退けてその場を締めくくった。
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