第45話 レース⑥ー1

「政府公認の人材斡旋企業『トットファーレ』による惑星からの水の補給作業打ち上げレース大会。


最後を飾るのはこのレースの大本命にして今回の補給作業の立役者、彼が居なければ今日から水の補給が開始される事になっていました、数日の断水は免れなかったという、とんでも事実。


こんなお祭り騒ぎなんて出来なかった事でしょう。


キャツレーンインミグラーティを代表して≪ありがとう≫を伝えさせてもらいます」


すぅーー


テテルは大きく息を吸って


「【ありがとうぉぉ!!!フォード・山岡選手ぅぅ】


はいッ。そしてここに、レース前にトットファーレの皆さんに受けてもらったアンケート結果があります。


幾つかの項目、その中で≪誰が1位になりそうですか?≫の答えに、全体の割合では彼の名前がダントツに多いですね。


それだけ皆さん、彼の腕を買っていると言う事ですが課長さん、彼はどんな選手なんですか?」


「そうだねぇ、操縦技術だけで言ったら2人の凄腕の人物に仕込まれたから期待してもらっていいよう。


まぁ、その内の1人が僕なんだけどねぇ、これは、他の子達にも言えるけど。フフフ」


課長はまんざらでもない笑顔でいた。いわゆる ドヤ顔 である。


「課長さん仕込みの操縦テクが火を吹く、これは期待大です。さて、大変長らくお待たせしました、そんなNo.2チームの登場です」


テテルの紹介で現れたのは、今まで見てきた補給船ではなく、赤くてスリムな宇宙船。それにポッドが括り付けられた様に密着した姿だった。


「これはトットファーレが所有している補給船とは違います。その名も【イグニス】


偵察高速航行に特化した宇宙船です。


この小惑星群の中でそのスピードを生かす事ができるのか?」


ビーーーーー


スタートしたNo.2チーム。


ポッド2機がブースター全開でイグニスを運ぶ形になっている。


「悪いな、エンジンが掛かりづらいんだよ。もう少しでいけそうだから2人共頼む」


フォード・山岡がポッドのチティリとフォイドに詫びを入れている。


「油断させるには丁度良いんじゃないですか?自分も全体を把握するのに少し時間が欲しかったですから」


フォイドが探査レーダーを使ってマップをフォード・山岡に送りながら答えた。


「No.2チーム。ポッド2機の推進力だけで進んでいます、イグニスは調子が悪いのでしょうか?」


「妨害可能ラインまではこのままじゃないかな?それより妨害側はどうよ?」


「妨害側ですか?」


課長に促されてテテルが妨害側、小惑星群の方を確認すると


「エッグイな、おい」


テテルが驚愕の一言。


今までより星の数が多い様な気がした。それがポッドと補給船の光だと気付くのに時間を有しなかった、先程のベル・チョテレによるハーフタイムショーで見た光景が再度起きていたからだ。


トットファーレの所有するほぼ全ての補給船とポッドが、今はそれらが【妨害する】目的でそこにいた。


「私が驚いている間に思ったよりも早くNo.2チーム妨害可能ラインを越えようとしています」


テテルが今までの間隔で実況をしていると、フォード・山岡達が思ったより進んでいた。


「そろそろいけそうだ。2人共、しっかり掴まってろよ。チティリも活躍してもらうからな」


「分かってますって、任せて下さいぃぃぃぃぃ」


イグニスのエンジンが稼働して、今までの補給船の4倍近くのスピードで加速した。


「はっや!?・・・あっ、失礼しました」


呆気にとられたテテルが声を漏らしてすぐさま訂正した。


「速い速い、ポッドの補助があるにしても予想を遥かに上回るスピードです、こんなの誰も追いつけない」


(さぁ、それはどうかな?)


課長は含み笑いをしていた。


「来たぞ!全員、当てようとしなくていい、とにかく無駄な動きをさせて時間を稼がせろ。分かったか!?


用意・・・撃てぇ!!」


崎・クワトロの号令が妨害側全員に届くと同時に、銃弾(ペイント弾)が壁となってフォード・山岡達に襲い掛かった。


「撃て撃てぇ、撃ちまくれ」


絶え間なく向かってくる幾重の弾をフォード・山岡は平然と避けていく、チティリはわーーー・ギャーーーと叫びながらも周囲に弾幕を張り続けた。そんな中でフォード・山岡とフォイドは情報のやり取りをしていた。


「班長、妨害側の数は目の前で『全部』です」


「『全部』って本当に全部だよな(笑)」


総動員で目の前に立ち塞がっていた。


「しかも配置が・・・」


フォード・山岡がレーダーを見ながら確認した。


妨害側は密集陣形。5組に分かれて、フォード・山岡達から見て5枚の壁が縦列している様に並んでいた。先頭の1組目を抜けようとすると後ろの2組目が立ち塞がる。


「もの凄い弾幕の嵐を物ともせず進んで行くイグニス。ですが、妨害側のフォーメーションが気になる所、課長さんこれは?」


「あの形で相手の進む方向を誘導して、後ろの組がまた誘導してって感じで、最後には囲んじゃえって作戦だね」


「No.2チームに勝たせたくないという意思が伝わってきます。何故ここまでするのでしょうか?


先程のアンケートからNo.2の妨害に参加する理由の一部分を読み上げたいと思います。


え~


・イグニスの運動性能を間近で見たいから。


・ベル・チョテレと仲良くしてるのが不愉快、少しはカッコ悪い姿をさらけ出してやる。


・自分の腕がどれ程のものか、山岡班長と手合わせしたい。


・ペイント弾ならどんな火器でも持ち込んで良いって言うから、折角なら撃ちまくれる所で。


・ベルさんと会う度にイチャイチャしてる。なんなの?マジで。


・・・etc


との事ですが、個人的理由が凄まじいですね、私こういうの嫌いじゃありません」


1組目を横に避け、2組目を上に、3組目を避ける為に下へ


「流石に多いなぁ、チティリ大丈夫か?もう少しで抜けられそうだ、頑張れ」


「大丈夫です。こっちは任せて下さい、ミサイル確認、迎撃します」


落ち着いた様子のチティリが返事した。


「おう・・・頼んだ」


フォード・山岡の視線の先には小惑星群の中にうっすらとチェックポイントが見えていた。まずはそこへ向かっている。


「普通ならもう当たっててもいいと思うんスけど!?」


「時間を稼げって言っただろう?」


「速すぎて狙えません、皆さん頑張って下さい」


「ガハハハ、凄いもんだなぁ」


「No.2チーム、猛攻を物ともせずに小惑星群に突入、もう誰も止められない」


5枚構えの妨害を突破したイグニスは小惑星群に入って行った。

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