第44話 レース⑤
「皆さん、十分余韻に浸ってもらえましたでしょうか?
続いては、今までのレースに妨害として活躍していたディフリーフォール・シー選手の登場です。
細かな作業を的確にこなしている彼女の強みはご存知、精密な狙撃・射撃にあります。妨害側ではとても厄介でしたが今回は妨害される側です。どんなレースを見せてくれるのか、それではスタートです」
小惑星群に向かって行く補給船が早々に射撃を始めた。
「ぎゃっ」
「おい、まじかよ」
「うわっ」
「まずい、全員隠れろ。目視じゃなくてレーダーを使え」
アレーグ・クワーテが全員に急いで指示を出すが間に合わず、小惑星に隠れていたポッドが次々と撃墜されていく。
「ディー選手、妨害可能ラインを超える前から小惑星群に隠れているポッドを狙撃していく。妨害チームは油断していたのか急いで岩陰に隠れていきました。
ディフリーフォール・シーが撃った弾はカーブを描き岩陰のポッドに向かって行った。
「ディー選手、まるで暗い部屋でメールを送っている時に、笑ってる絵文字を無表情で使ってそうな程、坦々と狙い撃ちしていきます。妨害側は早くも半数まで減ってしまいました」
「偏見がすごいな(笑)ディー君は笑顔が素敵なんだよ」
『えっ!?課長、ディーさんの笑顔見た事あるんで うわぁぁっ』
「ビー!!」
社内通信で話し掛けてきたブーズ・ビー・フォースが撃墜されてしまった事で、アレーグ・クワーテが嘆きの叫びを発した。
「ヨン・ノレイさん、第2・第3チェックポイントは彼女らに任せますので、このままの速度を維持して第1チェックポイントを通りゴールへ向かって下さい。私は狙撃を続けます」
「はっ、はい~」
随伴していたポッド2機がそれぞれチェックポイントに向かって行く中、ヨン・ノレイは容赦のないディフリーフォール・シーに頼もしさと若干の恐怖を感じつつ、補給船をそのまま直進させた。
「流石にもう無理ですね」
あらかた狙撃し終わったディフリーフォール・シーがパネルを操作して再度射撃体勢に入った。
球体が3つ4つ、まるで泥団子同士を付けたような歪な形の黒い物体。
それを3つ、小惑星群内の妨害チームが隠れていそうな場所へ撃ち出した。
「まだ始まって数分なのにもう味方が半分もやられてしまったなぁ」
「流石ディーさんって感じっスね、ちょっと見えただけでも当ててくるんスから。向こうは三手に分かれてチェックポイントを通過するみたいっスよ」
「さっきの 崎 と同じ作戦か?向こうにも2機づつ潜ませているから大丈夫だろ」
「チェックポイントを敢えて通過させて油断した所でゴールをさせないって作戦っスからね」
遥か後方で全体を見渡せる位置に1機の補給船が潜んでいた。その操縦席に隣同士でアレーグ・クワーテとルート・ビアが状況把握をしながら作戦の続行か変更かを話し合っていた。
その後部座席から崎・クワトロが身を乗り出して「ヨン・ノレイの勧誘戦は一時休戦だ。ディーはドッグファイトは苦手だからな、接近戦に持ち込めれば・・・」
「あっ、チェックポイントが2つ通過されたッス、そろそろ来ますよ」
「No.5チーム。三手に分かれて各々チェックポイントを通過する作戦を開始して、残るは1つとなりました。それもすぐ目の前まで来ています、このままゴールすれば好タイムが期待できそうです」
テテルの実況から間もなく、ディフリーフォール・シーがチェックポイントを通過した。
「ヨン・ノレイさん、あとはゴールまでお願いします」
ディフリーフォール・シーがヨン・ノレイに指示を出して補給船がゴールへ旋回しかけた所で
「今だ!行け」
崎・クワトロの掛け声で、3人が乗った補給船を先頭に残りのポッド達が岩陰から一斉に飛び出してディフリーフォール・シーの補給船に向かって行った。
「ガハハハ、突撃ぃ」
「行くっスよ~」
多数のポッドが向かってくる様に少し強張った表情になるヨン・ノレイを
「そのまま、大丈夫です」
落ち着かせるディフリーフォール・シー。
そして、
小惑星群に入る前に撃ち出した黒い物体が爆散して、四方八方にペイント弾が飛び散った。
一瞬の出来事、3人を乗せた補給船と一帯にいたポッド達が色付けされた。
【え~!?】
「お疲れ様です」
【おつかれさまで~す(ス)】
勢いよく飛び出して撃墜された事を理解したのか、呆気に取られている3人と通信を交わしたディフリーフォール・シーはそのままゴールへ向かった。
「No.5チーム。無駄がない、最短ルートで妨害側をほぼ全て撃墜して今ゴール。
さぁ、注目のタイムは 21分38秒
僅かですが、No.1を上回りました。今、1位です。課長さん今のレースは如何でしたか?」
「障害になるものを前以て片付けておく、業務内でのディー君さが出てたね、しっかり準備して滞りなくこなしてたのは、流石って所かな。他の皆はちょっと単調過ぎたんじゃない?(笑)」
課長は飲み物をストローでブクブクと泡を立てていた。
「【精密射撃、此処に極まれり】でしょうか、派手さは無くともスマートなレースでした。
さて、このレース大会も次で最後になります」
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