第42話 レース③

「どんどん参りましょう。続いては本命の内の1つ、No.1 崎・クワトロ選手の登場だぁ」


「クワトロ君は総合的に成績が平均より上、つまりオールラウンダーとして優秀なんだよね」


「メンバーを引っ張っていくリーダー格といった崎・クワトロ選手。どんなレースを見せてくれるのか、まもなくスタートです」


スタート地点に補給船とポッドが停止している。


「さぁて、お前ら!やる事は普段と変わらないぞ。小惑星群の調査をして早く帰って来いって事だ。分かったか?」


腕を伸ばしてストレッチをしながら、通信でチームメンバーに声を掛けていた。チームメンバー全員分の返事を確認した所でスタートのブザーが鳴った。


補給船は小惑星群の真ん中へ向かって進んで行った。暫くしない内に正面と左右に1つづつ、合計3つの物体を撃ち出した。


その物体は小惑星群に向かってそれぞれ真っすぐ飛んで行った。


「崎・クワトロ選手、前の2チームとは違って端から攻めるのではなく、小惑星群の中心を目指してます。何か撃ち出しましたけど、課長さん、これはどういった作戦なのでしょうか?」


「撃ったのは小型の探査機だね。小惑星群の広さは補給船のレーダーでも把握出来る規模だけど、先に設置しておく事でチェックポイントの場所の確認を少しでも早めようって事かな?あとは、妨害側の裏をかいて侵入口をズラしたって所だよね」


「ですが、それだとチェックポイントに向かう距離と時間が伸びてしまいそうですが」


テテルは端から一筆書きの様に進んだ方が最短距離なのではと一般的な見解で聞いていた。


「そこは、ランダム設置されるチェックポイントにクワトロ君のギャンブル精神が絡んでくるよねぇ(笑)」


遊び心のある笑い方で課長がニヤついている。


「なんと、崎・クワトロ選手。チェックポイントの『ランダム設置』を利用して、あわよくば近場でまとまっている事に対して賭けに出ていた。これが吉と出るか凶と出るか、皆さんがご覧になっている画面はレース走者のレーダーとリンクしていますので、まもなくハッキリします。ところで、前のレースもそうですが小惑星群に入る前から妨害が起きてませんよね?」


「あからさまに狙っても避けられる事はお互いの実力で知っているし、同じ機体性能だからね、着かず離れずの追いかけっこになってしまう事を避ける為にも待ち伏せを選んでいるんじゃないかな?」


「なるほど、お互いに手の内を知っているからこそのって事ですね。そうこうしている内に崎・クワトロ選手、小惑星群に突入目前です」


崎・クワトロの補給船のレーダーに小型探査機からのデータが送信された。


「おおう、マジか」


崎・クワトロがため息に似た声を出した。


「わ~お~」


課長が楽しそうに声を発した。


「これはこれは、崎・クワトロ選手の突入した位置から左側に2つ、チェックポイントの反応が出てます。そしてもう1つが右側に。しかしそちらには複数の妨害チームの反応も出ています。崎・クワトロ選手この状況にどう対処するのでしょうか」


レーダーには、自機を表す三角を中心に、左側にチェックポイントを表す光源が2つ、右側に1つ、その周りに赤い点が複数光っていた。


「お前達は2人で左側へ行ってくれ。ゴールで落ち合おう」


「1人で大丈夫ですか!?班長」


班員の1人に対して「チェックポイントを通過した後、俺が(小惑星群から)出てこなかったら助けに来てくれ」


「撃墜されないで下さいよ(笑)」


もう1人の班員も声を掛けて、2つのポッドと補給船が反対側に分かれて離れて行った。


「No.1チーム。ポッドと補給船で分かれてチェックポイントを通過する作戦の様です。ポッドの向かった先に、妨害チームはいません。が、補給船の向かう先には複数のポッドと補給船が待ち構えています。崎・クワトロ選手、無事に突破してゴールする事ができるのか」


チェックポイントに向かっている崎・クワトロの補給船を岩陰から7機のポッドが狙っている。その内の1機が飛び出してきた。


「クワトロ班長!覚悟~~~」

!?


突撃してきたポッドがペイント弾に被弾して撃墜された。


「何すんだよ」


「いやっ体が勝手に」


突如として他のポッドが妨害して崎・クワトロの補給船を守った。


「うわっ」


「お前っ」


他にもポッド同士で撃ち合っていた。


「これはどうした事か!?崎・クワトロ選手を包囲していたポッド達が同士討ちを始めました」


「いいぞ四川、その調子で頼む」


ポッド達の乱闘の中、悠々と進んで行く崎・クワトロの補給船。通信からは四川の声がした。


『報酬は忘れないで下さいよ』


「20枚ちゃんと渡すさ」


『25枚です!!』


「四川君のハッキングでポッドが操られちゃってるねぇ」


課長は床に着かない短い足をプラプラさせながら楽しんでいる。


「四川選手のサポートにより、奇襲と言っても良いでしょう、3機のポッドが他のポッドを蹴散らしていく~、これには成す術がありません。包囲していたポッドは全て撃墜してしまいました」


ハッキングした3機を護衛に付けてチェックポイントに向かう崎・クワトロの補給船を、挟み撃ちにする様に岩陰から2機の補給船が3機のポッドを撃墜しながら向かってきた。


「みんな悪いっスね、崎班長、折角だから負けて下さいっス」


撃墜したポッド達に詫びを入れながらルート・ビアと


「ガハハハ。男は度胸だぞルート!!」


アレーグ・クワーテが全速力で、2機の補給船が1機の補給船を追いかける構図になった。


小惑星群の中を、ペイント弾を避けながら、ロックオンを5秒以内で振り切りながら、チェックポイントに近づけないでいた。


「避ける避ける、ひたすら避ける。ですが、流石にチェックポイントに近づかせてもらえません、この状況をどう切り抜ける崎・クワトロ選手、それともここであえなく終わってしまうのか!?」


「上手くなったなルート」


「毎回シゴかれてればそれなりにっスよ」


「1つ教えてやるとな、機体性能が同じ場合、追うより追われてる方が有利なんだぜ」


「何言ってんスか?」


「こういう事だ」


「!?」


崎・クワトロの補給船が急減速をして、ルート・ビアが追い越す形になり、一瞬で状況が逆転した。


「追われてる方が色々と仕掛けられるってもんだ」


逃げる間もなくルート・ビアの補給船はカラフルに染められた。


「ルート、仇は取ってやるぞ」


後ろから近付いてきたアレーグ・クワーテも色付けされた。


「ん何~!?」


「お邪魔でしたか?班長」


「ナイスタイミングだ」


「ルート・ビア選手を撃墜した所へ、これはグッドタイミング。チェックポイントを通過して戻ってきたポッドがアレーグ選手を撃墜したぁ。


妨害チームを次々と撃墜していき、今、最後のチャックポイントを通過したNo.1チーム。残るはゴールに一直線です」

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