第41話 レース②

「いやぁ参った参った、ガハハハハ」アレーグ・クワーテが悔しさを消し飛ばす程の大笑いをしながらコースから離れて行く。


「初っ端からドデカいアクションを起こしたのに、思わぬ結果で終わってしまった第1レース。只今、チェックポイントの移動を行っていますので少々お待ちください。課長さん、今のレースでの肝は何ですか?」


「アレーグ君は最初の一撃でルート確保と妨害側を近寄らせない算段があったと思うんだけど。


まず、妨害側はディー君だけだった事。

元々距離を取っていたから索敵に掛からなかったし、小惑星の攪乱にも影響が無かった。

そして、小惑星が広がった事でディー君からしたら良い隠れ蓑になったから近づけたって所かな。」


課長は指摘しながら指を1本づつ立てて解説をした。


「まぁ、相性の問題かなぁ。良いコンビなのに敵対するとアレーグ君にとってはこんなに分が悪くなるんだね。普段どれだけサポートされているか。


『聞いているかなアレーグ君。ポッドの破損状況を報告書で提出しなさい、それによっては稟議書から本社とやり取りしないといけないからね』


って事で続けようか」


解説の途中で課長としての業務を混ぜていった。


「業務連絡も済んだ所で、チェックポイントの設置も完了しました。続いて第2レースを行います。


次は、No.6 ルート・ビア選手。彼は班長達の中では最年少、将来のトットファーレを担う存在と言われています」


「えっ?そうなの?」

「準備ができたようです。どんなレースを見せてくれるのでしょうか。まもなくスタートです」


テテルは課長の発言に間髪入れずに進行していった。




「!?」


補給船の操縦席に座っているルート・ビアが急に辺りを見回した。


「どうしました?」


ルート・ビアの横でヨン・ノレイが不思議がっていた。


「何か失礼な事を言われた気がするっス・・・・・あっ、タイムは気にしなくていいっスよ、班の皆でサポートするっスから落ち着いて行きましょう」


「分かりました。皆さんよろしくお願いします」


ヨン・ノレイはルート・ビアの指示を聞いて通信越しにサポートメンバーに挨拶をした。


通信の向こうからも快諾の声が返ってきた後、ランプが赤から青へ変わる。

スタートを知らせるブザーが鳴って、補給船がスタートした。


「さぁ、第2レースがスタートしました。No.6!!補給船を駆るのはルート・ビア選手ではなく、なんと今期入社した新人のヨン・ノレイ選手です。」


「ヨン・ノレイ君は実務経験は少ないけどスジはとても良い子だよ。経験を積ませるって意味でも参加させているんだろうねぇ」


「という事は、妨害もそんなに無いと?」


「それは、どうかなぁ?」


含みのある笑みで課長が話を濁していた。




ルート・ビア達の補給船とポッドは小惑星群の中を進んでいる。


「小惑星群に入ったルート・ビア選手。もとい、ヨン・ノレイ選手、安定した操縦技術で飛行していく。


しかし、妨害可能ラインを過ぎても、何も起こらない。これは本当にただ新人教育の一環としてなのか」


レーダーと周囲を注視して警戒しながら小惑星を避けて進んで行くヨン・ノレイに


「そんなに緊張しなくて大丈夫っスよ」ルート・ビアが頭の後ろに手を組ませて、リラックスした姿で「♪星になったオ~イラ~♪」


「ヒェッ!?」


ルート・ビアが歌を口ずさんだ瞬間、目の前の岩石にペイント弾が撃ちつけられた事で変な声が上がった。


「レーダーに反応はありません。そちらはどうですか?」


ヨン・ノレイが小惑星をかいくぐりながらオペレーターに問いかけた。


≪データ送ります≫


オペレーターから送られたレーダーのデータには補給船を表す三角が中心に、その周りを小惑星を表す無数の白いイビツな図形が囲んでいる。レーダーが広範囲に広がっていき、さらにその外側に赤い点が現れた。


「あんな所から狙撃されたみたいですね」


「って事はディーさんっスね」


小惑星で射線を遮ながら飛行するように指示をするルート・ビアと、レーダーを見ながら的確なコースを進むヨン・ノレイ達に通信が入る。


≪「本当に星にしてあげましょうか」


「そういう怖い事言うんじゃないよ」


「ヨン・ノレイは研修期間延長になって、手始めにあなたの班に行っただけです。私は諦めてませんよ。そもそも半日だけで決めろというのが%&|#・・・」


「分かったから、落ち着け」≫


プツッ


ディフリーフォール・シーと崎・クワトロの会話がスピーカーの向こう側で一方的に切れた。


「ディーさんにかなり気に入られたみたいっスね」


索敵したデータをレーダーに移しながらルート・ビアは茶化している。


「丁寧に説明してくれて分かりやすかったですから、良い方だというのは分かってますよ?半日しかお世話になっていないのでお時間を下さいと会議室でも伝えましたし」


レーダーに映ったルートに沿ってチェックポイントを目指しながら2人は雑談していた。


威嚇射撃の様にワザと狙いを外したペイント弾が時折飛んでくるだけで、順調にチェックポイントを通過していった。




「序盤で突如撃ち込まれたペイント弾!運良くハズれてから警戒を厳にしていたのか、ヨン・ノレイ選手は慎重に小惑星の中を進んで行き、三つ目のチェックポイントもなんなく通過。そんなに多く妨害がされないまま今、ゴーーール!!」


ルート・ビアとヨン・ノレイ達の補給船とポッドが無事にゴールした。


「小惑星を上手く使って射線を塞ぐ様に進んで行ったのは上手だったね」


課長が褒めた。


「第1レースがド派手だった分、見劣りしてしまいそうなレース展開かと思いますが、これだけ安定した操縦技術を持っているという事も事実、タイムも28分30秒と基準より早いです。皆さん、これからの活躍に期待も込めて新人のヨン・ノレイ選手に大きな拍手をお願いします!」

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