第40話 レース①

キャツゥレーン・インミグラーティ中に映像が流れていた。


レースのライブ配信を各々の端末で見る者。


メインストリートの巨大モニター下を通り過ぎて行く群衆の中、立ち止まって見ている人もちらほら。


スポーツバーでは食事をしながら、楽しもうとしている人達がいた。


そこではちょっとした賭け事も起こっていた。


「俺はこいつだ」


テーブルを囲んだ3人の男の内の1人が、グラスを片手にテーブルに広げられたホログラムの1~6の数字の内の1つに、印として自分の持ち物をベットした。


「おれもそいつだ」


続いてもう1人もベットした。そして、もう1人も。


「オレもだ」


「なんだよ。賭けにならねぇじゃねぇか」


笑い合いながら、モニター・酒・食事を楽しんでいた。




「レース1番手は、No.3 親分肌のアレーグ・クワーテ選手。


本人曰く、細かい操縦は苦手だという事で、小惑星群をどう攻略するのか。


課長さん、彼はどんな選手ですか?」


「そうだね、アレーグ君は爆弾みたいな子かな、行き詰った時とか、流れを大きく変えてくれるイメージだよ。良い意味でも悪い意味でも、無茶しないで欲しいかなぁ」何を起こすか心配している課長をよそに、テテルが実況を続ける。


「そんな彼が1番手という事は最初から目が離せないレースになりそうですね。デモンストレーションではありませんが、このレースのタイムがこの後の基準となっていきます」


補給船と護衛ポッドが2機、スタート位置に着いた。


「よぉしお前ら!賞品は欲しいが、焦っても仕方がないからな、普段通りに、あと作戦通りに頼む」


「本当にやるのか?兄貴」


護衛ポッドから五ノ前の不安そうな声が聞こえてきた。

血縁関係ではないがアレーグ・クワーテの事を親しみを込めて『兄貴』と呼んでいる。


「ガハハハ!皆の度肝を抜いてやろう!その為にお前を呼んだんだ。頼りにしてるぞ、五ノ前」


「そうだぜ、五ノ前。俺達が揃えば何でもできるさ!」


もう1つのポッドからも励ましの声が聞こえてきた。


「ビー…そうだな、折角俺を誘ってくれたんだ。全力で行くぜ」


五ノ前はブーズ・ビー・フォースに応えた。


「その意気だ。俺達筋トレ仲間のチームワークはバッチリだぜ」


アレーグ・クワーテの掛け声で3人が筋肉ポーズを決めているが、アレーグ・クワーテはロボットを介して、他2人はポッドその物になっている。


傍から見ると補給船にポッドが寄っただけ。

気持ちが大事。誰も気にしない。


ビーーーーー!!


スタート位置に浮いているランプが、赤から青へ変わってスタートを知らせるブザーと同時に、補給船とポッドが勢いよく飛び出した。


「さぁ、始まりました。何やらコソコソしていたようにも見えましたが、快調なスタートです。ここから小惑星群の入り口までの半分の距離を通過するまで、妨害側は手出しできません。どんなレースを見せてくれるのか」


テテルの実況に合わせて、追尾カメラの映像とは別に、マップに赤いラインが引かれた画像が映し出された。


「俺達にサポートはいないが、妨害側は誰が来るんだろうな?」


ブーズ・ビー・フォースが楽しそうな声で語りかけていた。


「誰が来ても同じだ。その対策も兼ねてのこの作戦だからな。五ノ前、計算は頼むぞ」


「小惑星群までには終わらせる。それまで警戒は頼むぞ。ビー」


「おう、任せろ」


ポッド1つと補給船がワイヤーで繋がって飛んでいる。その周りをもう1つのポッドが旋回しながら周辺を警戒する動きを見せている。


「簡単にルールのおさらいをしましょう。このレースは1班毎、メイン機×1、サブ機×2によって、別班によるサポートと妨害を受けながら3つのチェックポイントを通ってゴールするまでの時間を競うタイムアタック方式となります。因みに、チェックポイントはレース毎に設置位置は変更になります。レースの順番は画面をご覧ください」


画面にNo.3・No.6・No.1・No.5・No.4・No.2の順で表示された。


「そうこうしている内にアレーグ選手のチームが小惑星群入り口まで近づいてきました。妨害側はまだ仕掛けないつもりでしょうか」


「計算が終った。そっちへ送るぞ」


「来たぞ、ビーも準備してくれ」


「分かった」


旋回していたポッドからワイヤが-伸びて、五ノ前のポッドと隣り合わせに。

補給船が2つのポッドを引っ張る形になった。


「アレーグ選手チーム、異様なフォーメーションで小惑星群に突入していく」


小惑星群手前で「やるぞお前ら」アレーグ・クワーテの合図で


『出力最大』


2つのポッドが緑色の光を纏い始めた。


「うおりゃーーーー」


補給船が1つの小惑星手前、ギリギリの所で急旋回した。後方のポッド2つが小惑星に勢いよく衝突した。


「何と!アレーグ選手、プロテクトバリアを展開したポッドを小惑星にぶつけたぁぁぁ」


「ばッ!かぁ~→↓↓」


課長の声はテテルの驚いた声とは逆に、やらかしたとか、会社の備品への損失とか、等々。

驚愕から直ぐに目の前で起きた事象への負の感情が声と一緒に、ため息となって抜けていった。


「二人共大丈夫か?」


「損傷は少ない、まだいけるぞ」


「こっちも大丈夫だ」


ガハハハと笑いながら「作戦は一先ず成功だ。さすがだな五ノ前」


「お~っとこれは!?」


ポッドをぶつけた小惑星が別の小惑星へぶつかって、その小惑星が別の小惑星に・・・ビリヤードの様な連鎖反応が起きて密集していた小惑星群がアレーグ達の前で開けていった。


「まるでモーゼ!地球の歴史に出てくる、海パッカーンのやつの様に小惑星が次々と外側へはけてチェックポイントが3つすべて姿を現しました!私の語彙力は今に始まった事ではありません」


「そこが君の売りだとも言えるよね」

「課長さんありがとうございます」


課長とのフォローのやり取りをしている中、見晴らしの良くなった宙域をアレーグ・クワーテ達は悠々と進んで行った。


「よーし後は、チェックポイントを通って終わりだぁ」


近くにあった1つ目のチェックポイントを通り過ぎた所で


ビーーーーー!!


ブザーが全体に響き渡った。


「えっ!?・・・あっ終~了~~~。何が起こったのか私も分かっていませんので状況確認します、少々お待ち下さい。課長さんこれは?」


テテルは課長に話を振ると、課長はマップの一部分を指さして


「ここココ~↑」


指で円を描いているポイントを画像拡大すると砲身の長い火器を装備した1機の補給船が映っていた。


「ディー君の狙撃が見事に命中したんだね」


「なんと、ディーフリーフォール・シー選手の妨害によってアレーグ選手。ここで撃墜という事でレース終了になります。完走すらままならない、中々に厳しいレースが始まってしまったぁぁぁ」


「ん何~~~!?」


驚いているアレーグ・クワーテにディーフリーフォール・シーから通信が入った。


「見通しが良かったので狙いやすかったです」

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