レクリエーション レース

第39話 お祭り騒ぎ

格納庫シャッターの前でフォード・山岡がパネルを操作すると目の前のシャッターが開いて、奥から倉庫が1つスライドしてきた。


「・・・♪・・・♪・・・」


鼻歌をしながら倉庫に入って行くフォード・山岡。


そこには、補給船とは違う別の宇宙船の姿があった。


座席は4つ、補給船より少し小さい、というか細長い胴体に短めな主翼とエンジン。戦闘機の様な宇宙船。


その船を一回りしてから操縦席に座ると、メンテナンススキャンを作動させた。


右側主翼の付け根に異常があると表示を確認してその箇所を調べる。


「・・・♪・・・フフン・・・フンッ!・・♪・・・」


ボルトを締め直すと、端末から異常が消えた事を知らせる音が鳴った。


「♪・・・・♪・・♪・・・」


船体を見て回って、他に異常が無いか確認して回っていた。






補給作業5日目




「我々、キャツゥレーン・インミグラーティは生活水の枯渇の危機に直面していました。節水を余儀なくされ、作物も不作になりかけていて。


もう駄目だ。と」


とある人物が暗いトーンで語る様にマイクに向かって喋っている。


「政府公認の人材斡旋企業『トットファーレ』による惑星からの水の補給作業のおかげで、生活に潤いを取り戻しました。


補給作業の完了まで残り1日となりました。ここまで問題もなく順調に進んでいるように見えたと・こ・ろ・でぇ~



さぁ!突如として開催されました艦外活動部署による班対抗レース!果たして1位は誰の手に。


自己紹介が遅れました。私、様々なニュース・映像に勝手にアテレコしています【怒っテル・泣いテル・楽しんデルch】の実況系Youtuber テテル と申します。


今回は実況者としてお声をかけて頂きました。楽しんでもらえる実況ができる様に頑張りますので、よろしくお願いします。解説は依頼主でもある課長さんにお越し頂いております」


「よろしくどう~も~」


会議室に宇宙空間を映した大画面モニターを前に テテル と呼ぶウェーブの掛かった翡翠色の目と髪をした女性と課長がマイクに向かって喋っている。


その実況を聞きながら、各々の部屋や食堂で研究員チームの人達もモニターを見ていた。


「まだレースが始まるまでには時間がありますので。課長さん、今回はどういった経緯で開催されたのでしょうか?」


「そうだね。普段なら顔を会わせても数人でね、それでも打ち上げとして遊んでいたんだけど、今回は久しぶりに全員が集まった事だし、研究チームの大勢の方達とも関りを持って、新人も入った事だから、チームワークの強化と新人の歓迎とこれを機に我々の技術に少しでも関心を持ってもらいたいなぁと」


テテルの口調から普段より一層、課長がゆったりした話し方に聞こえる。


「なるほど、数少ない機会を存分に生かす!課長さんの手腕が見てとれます。


では、コースとルールの説明をさせてもらいます。


コースはスタート地点から居住艦の左前方にある小惑星群の中に設置した3つのチェックポイントをどの順番でも構いません、通過して戻ってくればゴールになります。


普通に進めば30分程と言ったところでしょうか。


ルールはメイン機×1、サブ機×2の基本スタイルで1班づつ行うタイムアタック方式。


チェックポイントはサブ機が通過しても構いません。あくまで、メイン機がゴールするまでのタイムを競ってもらいます。


そして、レースと言うからには1位になったら賞品が無いとモチベーションに関わります。


1位の班には、オープンしたばかりのスイーツ店【甘美甘味】の一品無料券を50枚の大盤振る舞い。1枚でいいから私も欲しい!!


さらに、いつ・どこで、その姿を見せるか分からない、巷で噂になってから、じわじわとファンが増えてきている知る人ぞ知る、あのポエム集・・・の、なんと最新版が副賞として送られます。


これはすごい事ですよ。一体作者はどこの誰なのでしょうか?」


隣で課長がテテルの反対側を向いて、フフフと言わんばかりにドヤ顔をしているが気付かれてはいない。


テテルはそのままルール説明を続ける。


「しかし、これでは他の班が手持ち無沙汰になってつまらない!


そこで、コースを走行する以外のメンバーにはサポートと妨害の二手に分かれてレースを盛り上げてもらいます。


人数に指定はありません。チームワークの強化の一環として、普段関りが少なければ協力するも良し、手の内を知っているからこそ妨害にまわるも良しです。


前もって各班で話し合ってもらっています。


なお、サポート側は、補給船、または別の宇宙船でも可です。それと護衛ポッドを使用して、ルートを確保するといった事が挙げられます。チェックポイントを通っても無意味ですので間違えない様に。


妨害側にあたっては火器の使用も有りです、実弾は宇宙空間でも数日で消滅する特殊ペイント弾を使用します。光学兵器は5秒間、ロックオンを振り切れなかったら被弾扱いとなります。


メイン機が被弾したらそこで終了。


まぁ、最低限のルールを守れば、異議が起きても後ほど審議しますので、ぶっちゃけ『何でも有りです』


そろそろ1番目の班の準備が終わるそうです。ここからは競技っぽさを出す為に呼称を【選手】にしたいと思います。


ちなみに、このレースはキャツゥレーン・インミグラーティ限定でライブ配信をしています。


モニター前の皆さん、食べ物と飲み物の準備はできてますか!?トイレは大丈夫ですか!?モニターから目を離さない覚悟は!?


そしてぇ、高評価、チャンネル登録、過去動画の閲覧もどうぞよろしくお願いします!


それでは大いに盛り上がって下さい!」

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