第37話 青春
格納庫の扉、端の方で整備ドローンがキズを修復していた。それを横目に補給船を着艦させる。
先に戻るように2人に告げて、補給船の左側エンジンの確認をしに行くと、外装が引き裂かれたような亀裂、内部機械が露見していた。
「よく完全停止しないでもってくれたなぁ」外装を撫でていると、一斉通信が入ってきた。
「え~各班の班長と新人のヨン・ノレイ君は15:00に会議室に集まってください。他の皆はそのまま作業を続けててねぇ」
課長からの一方的な通信が切れた。
約1時間後には会議室。俺は補給船の修理の手配をしてブースに戻ると、班員の皆に指示を出して、時間になるまで休憩所にいる事にした。
今までの作業工程に不備が無かったか、これからの作業内容に必要な事を考えながら休憩所の角にあるL字型のソファに深く体を預けて、だらけながらコーヒーを啜っていると。
「お疲れ様です」
天井を仰いでいた目線を声のした方へ向けると、カトル・霧島さんがコップを持って立っていた。
「どうも、お疲れ様です」俺は姿勢を正して座り直して、どうぞ と座るように促した。
俺の斜め向かいに座ったカトル・霧島さんは「ノレイ・ツヴァイが騒いでましたよ」一口啜った。
【 「山岡さんがすごいんです!」
初日、雲の中を通ったのは気象学担当の彼女だけだったので報告を期待していた私がいた。
「凄いのは分かっている。モニター越しでだが見ていた。報告を」
椅子に座りながら、立っているノレイ・ツヴァイを見据えている。
「・・・それから、危ない風を何度か伝えていたら、いつの間にかあたしが言う前に避けてるんですよ。雷だって咄嗟の事なのにギュイーンって・・・」
興奮冷めやらぬ子供の様に身振り手振りで伝えようとしている。そんな彼女の報告?が収まるまで黙って見ていた。
実演が終わった事に見切りをつけて「・・・後で報告をまとめて送るように」】
困っているのか、呆れているのか感情が読めない表情でもう一口啜って
「そんな彼女と先程会ったのですが、珍しく気を落としていたんです。【あたしの所為で山岡さんの補給船を壊してしまいました】と言っていましたが、何かあったのですか?」
その話を聞いて
「研究のデータ収集の依頼を受けまして、雲の中に入ったんですよ。その帰りに自分の不注意で補給船を破損させてしまって。その事だと思いますが、ノレイさんの所為じゃないですよ!」
(楽しかったと言っていたのに)
ノレイ・ツヴァイさんに『気にしなくていいですよ』と伝えたい気持ちが出てきた。
「彼女は何かあった時、謝っても気遣っても、相手が気にしてしまう事を気にする様で、話に触れない言動を取る時があるんですよ」
(豪胆な人だと思っていたが、全くの逆じゃないか?とても気遣いができる人の様だ。そう考えるとコーヒーを淹れてくれていた事も納得はできる)
「ちなみに今ノレイさんは?」
「今は研究室にいると思います」
芽生えたさっきの気持ちが大きくなってくるのを感じた。
時計を見て
「そうですか、そろそろ会議に向かいますので、もう1・2日で補給作業も終わりますから、皆さんで打ち上げしましょう。予定を開けておいて下さい!では失礼します」
カトル・霧島さんと別れて俺は足早にエレベーターへ向かった。
1Fは俺達のいるブースと事務所。
2Fは食堂、休憩所、課長室そして、会議室
3Fから6Fは貸しフロアになっていて今は、研究チームの方達の機材や資料が詰め込まれていて簡易研究所となっている。ムツミ・カズヤさんは3F。ノレイ・ツヴァイさんは6F。
ちょうど、4Fから3Fへエレベーターが降りてきた事を知らせるランプが光った。上矢印を押して、そのドアの前で待つ俺は・・・
「・・・」
「・・・・・・」
階段で上の階へ登った。
機材の出し入れをし終わった所だった。それを横目にそのまま階段で6Fまで駆け上がると、思ったより息があがっていた事にショックを覚える。
(スーみたいに運動しなきゃダメだな)
「(*´Д`)ハァハァ」
最上階に着いた。
階段から廊下へ行くとノレイ・ツヴァイさんが歩いているのが目に入った。
「ノレイさん」息も絶え絶えに声を掛けてしまった。
「? 山岡さん!」振り向いた彼女もこちらに気付いて立ち止まった。
俺は彼女に歩み寄りながら、何て言えばいい?と考えを巡らせた。
―――――
「霧島さんから聞きました、補給船の事は気にしなくていいですよ」
気にしているからあの時に、はぐらかしたんだろうが。
「俺のミスですので、何でノレイさんが落ち込むんですか?」
問い詰めてどうする。
―――――
「・・・ノレイさんの研究がまとまったら、教えてもらえますか?自分もあの風と雷の異様さが気になってまして」
的外れだがもうこれで良いだろ。
「はいっもちろんです」笑顔で承諾してくれた。
「アハハハ、良かった(笑)」
「興味を持ってくれて、あたしも嬉しいです」
「では会議があるので。研究、頑張って下さい。いつでも協力しますので、失礼します。あっ、補給作業が終ったら日をみて、打ち上げがありますからノレイさんもぜひ」
彼女との会話で、心の中にできたちょっとしたモヤみたいな物が一気に晴れた気がした。
「はい、ありがとうございます」
2人はお互いに背を向けて別れた。
2Fへ向かうエレベーターの中、俺は1人で(何やってんだ?俺ぇぇぇ)
こっ恥ずかしくなった。
会議室に直行しないで、落ち着く為に時間を有したが、時間にはギリギリ間に合った。
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