第36話 魅力

雷の怒号が鳴り止まない。


白に薄い赤茶色を混ぜたような淡いミルク色の雲の中を、補給船が飛んでいる。


「明るい中で・・雷を避けるのは・・・ちょっと・・・見て避けている訳じゃないにしても・・・どこに雷がきたのかも分からないってのは・・・」


明るい雲の中、稲光が見えず、音だけが響く。


ノレイ・ツヴァイさんの用意してくれたデータを元に飛んでいるから、何とか直撃は避けている。それでも、異常を知らせる警報が鳴り続けていた。




≪≪≪≪≪


ムツミ・カズヤさんの簡単な報告として、海底火山でできた溶岩には鉄が多く含まれている事が分かった。海面に上がった岩が黒から赤茶色に変わったのは、主成分の鉄が錆びた色だったそう。


今まで見た事が無いくらい密度が低い。つまりスカスカだった事により浮力があった事。


さらに、日毎に小さくなっていったのは、風と波による浸食だと教えてもらった。


4日目の今日は、ノレイ・ツヴァイさんからの要望を受けている。補給船の調整確認も兼ねて、俺が操縦する。


【 「山岡さん!雲の中を飛んでもらえませんか?」ノレイ・ツヴァイさんに通路で呼び止められて、確認したい事があると言われた。


「明日の午後でなら、それでいいですか?」


「大丈夫です。ありがとうございます」早く答え合わせをしたくてウズウズしてる表情が楽しんでいるように見えた 】


これが3日目の海底探査が終わった後のちょっとした出来事。


メンバーは初日と同じ。俺、テサラ、ノレイ・ツヴァイさん。


目的は高度の低い雲だそうなので、海の方から入る事になった。


その前に初日に見つけた島を確認しに行ったら姿は無く、発信器だけが海に浮いていた。浸食されていたのは確かな様だ。


発信器を回収して「ではノレイさん、準備はいいですか?」後ろに呼びかける。


「あたしはいつでも。お願いします」ウキウキした声が返ってきた。


覚悟はできてるけど、俺としてはあまり行きたくないのが本音だ。


なのに、初日にこの惑星に突入した時、テサラはそうだが初対面のノレイ・ツヴァイさんも昔からの仲間だという感じがして違和感がなかった。


今もそうだ。だから心強くもある。




≫≫≫≫≫


そして、今に至る。


風の強さはそうでもないから雷に注意して飛行を続けている。


「ノレイさん、どうですか?」


「はい、良い感じです。もう少し高い所へ行ってもらえますか?」


「了解でっす」


急上昇して数分後、雷の数が減ってきた気がした。高度で風向きも変わるし、雷の発生も関係があるのか。


ちらほら聞こえるがさっきより雷鳴が遠退いた。

落ち着いた空域の様で安定した飛行ができていた事で、目の前に広がっている雲の世界が、どこかで見た事あるような気がして記憶を探っていた。


(そういえば・・・≪また会えたね≫あの時もこんな感じの白い空間だったなぁ。あれは何だったんだ?

雲を抜けて無事に戻った後に気が緩んで見たただの幻覚、幻聴の類だったのか?)


明日で5日目。

そろそろメインタンクが満タンになる、あとは予備タンクに1日使えば、補給作業も順調に終わりそうだ。


ポイントの稼ぎ方も教わった事だし、またバーススクエアに入り浸りになるなぁ(笑)


ルートがおすすめを聞いてきたけど、普通はAMBで覚えていないんだから何とも言えないし、スーに教わったやつを教えてやろうかな)


そんな事を考えていたら




「・・・ちょう・・・班長!!」


テサラが呼んでいた事に気付かなかった。


「!? すまん、なに?」横を向くと


「ノレイさんが呼んでます」後ろだと指で合図された。


「すみませんノレイさん、何ですか?」後ろに声を飛ばす。


「データは十分取れました、ありがとうございます」


「分かりました。一先ず雲から出ますがいいですか?」


「はい、お願いします」


今回は急降下ではあるが、速度は自由落下に近い程度で高度を下げていく。


雷の音も聞き慣れてしまったようで、危険意識が薄くなっていた。


さっきの考え事から、ふとルートとのやり取りを思い出してしまった。



【「抱き合ってた人とはどうなんですか?」ニヤニヤした顔でからかってきた】


あの時は咄嗟に否定した。間違ってはいないけど、何か引っかかっている感じがするのが本音だ。まさか会って数日の人に対してそんな気持ちを抱くものなのか?


自問自答をしても答えは出ず、そんなまさかな(笑)と自分自身をはぐらかしていた。






ドオーーーン


近くで爆発音がして船体が大きく揺れた。


「きゃっ」ノレイ・ツヴァイの短い悲鳴。


「雷が左エンジンに直撃!火が出てます」テサラの報告で


「しくった!!」雷のデータに意識を向け直して「エンジンカット、火は消えたか?」エンジンを一旦停止させてテサラに確認を頼む。


「消火を確認」


「エンジン始動、出力は?」


「右:100% 左:30%。これ以上は上がりません」


「出力を両方20%に、もう少しで雲を抜ける」


ただの油断だった。自分の不甲斐なさに嫌気を感じながらも雷を避け、雲の切れ間から見える海面に向かって補給船を飛ばしていった。


細い黒煙を線の様に引きながらも、無事に雲を抜け、海面上空で安定飛行に入った。


「ふぅ~。テサラ、悪かったな」


「いいえ、班長のこういうのは珍しいですね」


「これしか取り柄が無いのにな(笑)ノレイさんもすみませんでした、怖い思いをさせてしまって」後ろへ呼びかけると


「とんでもない!貴重な体験でした、楽しかったです」彼女は、今日来た時よりもウキウキしている様に見えた。こちらに気を遣っている訳ではなさそうだ。


『・・・・・』俺とテサラは向き合って


テサラはクスッと。


俺は「ハハハ」と笑った。


その二人を見てノレイ・ツヴァイは「ええ?何ですか!?」自分が笑われている事に慌てた。


「すみませんw何でもないです(笑)では帰りますよ」そう言いながら正面に向き直り帰路に着く俺は、彼女の持つ大きな魅力にひかれ始めたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る