第35話 検証

海中探査を終えて、補給船の点検、補修に時間を充てた事で、今日の艦外活動は終了になった。


休憩を挟んで、海中探査のデータをまとめる四川とテサラ。

他の班を手伝うフォイドと五ノ前。

ノレイ・ツヴァイさんは自分の研究。

俺とチティリはムツミ・カズヤさんの研究の手伝い。というか検証をした。




「これは海上に設置したソナーのデータを映したものです。海中探査をしている間、ずっと送受信を繰り返して、データを取っていました」チティリが出したホログラムを俺とムツミ・カズヤさんと3人で囲んでいた。

大きめの水槽の様に広がり、上の方に端から端まで太い線が引かれている。

線を指で撫でて「これが海面です」


線上の中心に青く点滅しているのを指差して「これがソナーです」

端の方にある赤い点滅を指差して「これが補給船です」

線より下にある大小の点や丸が岩だと説明した。

この時点で、海中には岩がいくつも漂っている事が分かった。


下から上がってきた丸が赤い点を押し上げる様子が何回か見てとれた。


「あの時のですね」

ムツミ・カズヤさんも位置付けはできたらしい。


「ここから海中探査が始まります」

赤い点が下がり始めたのを確認して説明を始める。


「最初はここからこの辺までは潜って行って何もありませんでしたので、海底の状況を見てみます。こんな感じです」

ホログラムを動かして海底部分を映した。


「前もざっと確認しましたけど、ほぼ平なんですね」チティリが五ノ前が調べた時の話をした。今のデータはそれよりも精度は上。それでも結果は変わらなかった。


「あっ!ここ今盛り上がりましたよ!?」

ムツミ・カズヤさんが指差した海底の一部分を見ると、小高い山が現れて薄く広がっていく様子が見られた。まるで、テーブルに水を溢して広がっていくような現象が海底で起きていたようだ。


「火山だとして、上に重なっていかないんですね、イメージだと噴火を重ねて上へ上へって・・・」チティリが手を交互に下から上へ動かしている。


「う~ん、水気の多い溶岩ってあるんですか?」


「粘り気の少ないサラサラした溶岩もありますから、おかしい現象でもないんですよ。あっ!?こっちから何か浮いてきましたよ」似たように盛り上がっている海底の近くから大小の歪な形が浮かび上がってきた。


「海流のデータを入れてみましょうか」俺が操作すると、太かったり細かったりと、うねった薄い帯が表示された。浮かび上がった岩の図形が帯に入るとそれに沿って移動しだした。


「という事はこの海底から浮いてきたのが島になった岩って事ですか?」


「可能性としてはとても高いです」


「そしてそれが溶岩だと」


「はい」


「チティリ、さっき盛り上がった所まで戻してくれ」

海底が盛り上がった所で一停止した。


「補給船の位置は?」

「ここです」縮小して赤い点が上の方に映った。


「このままで再生すると?」

盛り上がった所から放射状に海流が広がって、薄い帯が乱れては戻っていった。


「これが噴火だとして・・・」放射状に広がる線を補給船の方へ指で追っていくと、間に大小の岩石の表示が無数に広がっていた。赤い点の進行方向が下方向から帯の中を進むように移動し始めた。


「あの時の爆発音はこれでしたか!?」

ムツミ・カズヤさんは合点がいった。


「それじゃこの後に・・・」

岩石群の中を赤い点が上へ下へと縫うように動いていた。

岩を避けていた辺りだ。


「ここら辺でチティリが騒いだよな(笑)」

「ムツミさんはずっと黙ってましたけど、ああいうのは大丈夫なんですか?」

「椅子にしがみついてました(笑)でも、山岡さんの操縦を間近で見れたのは良かったです。雲の時はモニター越しでしたけど、すごいですね」

「ありがとうございます(笑)」拡大すると、ひと際大きい岩をくぐった所だった。


ここで2回目の噴火を知らせる放射状の線がとどいた。

急浮上する補給船が岩石群の第2陣と重なりながら海上に上がった。



一連の流れを確認して

「つまりここが海底火山帯で、溶岩が剥がれて浮いてきたと?」

海底部分を映して、検証結果をまとめた。


「そうですね、けどこれを見ると、発生数と発見数が大きくズレてるんですよね・・・あっ」ムツミ・カズヤさんが下から上に海流を追っていくと何かに気付いた。


岩石の数が海中から海面に近づくにつれて少なくなっていくのが見えた。

「途中で砕けている?・・・このデータはお借りしても?サンプルの研究結果と照合すれば、確証を得られるんですけど」


「大丈夫ですよ。お願いします」

あとは、ムツミ・カズヤさんに任せて、俺はブースを出て、ルートの所へ向かった。その途中、ディーさんがブースに入ろうとしていた。


「ディーさん、お疲れ様です」向こうもこっちに気付いた。


「お疲れ様です」

「どうですか?ヨン・ノレイは?」

「優秀ですよ。ポッドの方も上手くこなせてます」


ブースの中を覗くと、班員の方達と問題なさそうに作業をしているヨン・ノレイの姿があった。


「大丈夫そうですね、今日1日お願いします」ディーさんも、当たり前です。と返事をして俺たちは離れた。


「失礼しますよっと。ルートいるか?」ブース入口から中を覗いて声をかけた。

「フォードさん。お疲れッス、何スか?」

「データありがとうな。今海中探査のデータをまとめているから後で送るよ、海洋物理学の方にも伝えといてくれ」

「分かりました。ところで、あの人とはどうなんですか?」ニヤニヤしながら聞いてきた。

あの人とは?「ヨン・ノレイか?今はディーさんの所だぞ?」

(こう見えて面倒見が良い奴だからな、新人を気にかけてるのか)


ディーフリーフォール・シーは自分の名前が聞こえたのでフォード・山岡とルート・ビアが話をしている方へ歩み寄り始めた。


「違いますよ。食堂前で抱き合ってた人ですよ(笑)」


「!! だ、だ、抱き合ってねぇし、あれは事故だって言ってるだろが、いつまでもそんな話を吹き回すんじゃねぇよ。彼女に迷惑だろ?」


「なんだ~」がっかりした様子のルート・ビア。


「はい、この話は終わりだ。いいな?」俺は話を打ち切って、ルートをブースに戻る様に指示をした。


「は~いッス」しぶしぶブースに戻るルートを見送って振り返ると


「うわっ!!」

ディーさんが立っていた。


「卑猥です」


「ええ!?(汗)」ここ数日でディーさんからの人としての評価が・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る