第34話 危機一髪

無闇に海流に逆らってここ一帯から抜け出そうとすると、舵を取られて岩に衝突するのが安易に想像できる為、向かってくる岩を正面に迎えて避けて行く手段を取った。


迫りくる大小無数の岩を縦横無尽に避けていく補給船、宇宙でいうところの小惑星帯を抜けて行くのと大差ない。


「・・・にしても、星の光が無くて暗いし、水の抵抗で舵が重いし」

たまにできる渦に舵を持っていかれそうになる中、隣でチティリが ワー・ギャーと騒ぎながらも


「うわっ!危なかった。班長!深度9000です!」チティリもこの状況に神経を張りつめながらも深度計を読み上げる。


「チティリ、どこか岩石群に切れ目はないか?そこで海面まで一気に浮上する」


潜航開始から海流の影響もあるが、ほぼ真下に潜っていた。

今は、岩を避ける為に海流の向きに合わせて、斜め下に潜っている。

姿勢指示器もそれを表している。


海上に設置したソナーと補給船のソナーのデータを使って、岩石群の隙間を探したチティリは「マーキングした岩の後、5kmほど間が空きます!」


前面窓に映された岩の1つが赤く色付いた。


今までで1番大きい。


視界が埋め尽くされそうなほど巨大な岩が、ゆっくり近づいてくる。


俺は岩の周囲を確認した。


上・・・海面まで届いてそうなほど端が見えない。

左右・・・他の岩があって、避けていたら巨大な岩に間に合わない。

下・・・端が見える。


「深度11000になります!」


「チティリ、合図したら【浮き】を作動させろ」

そう言って補給船を急潜航させた。


「11100・・・200・・・300・・・」

チティリが刻んで読み上げる。


補給船が水圧で軋む音を出してきた。


「何かミシミシ鳴ってますよ~!」


補給船が圧し潰される音の間隔が短くなり始めた辺りで岩の端を潜り抜ける事ができた。


「チティリ!!」


「!!」合図でチティリが【浮き】を作動させる。


膨らんだ【浮き】が補給船の周りに展開され、急浮上を開始した。


浮上しながら補給船の向きを進行方向に合わせる。

巨大な岩を左にして撫でる様に進んで行く。




「ふぅ~」ひとまずの一区切りがついた。


「岩から離れないんですか?」急に後ろから声がした。

ムツミ・カズヤさんがタイミングをみて話し掛けてきた。


「あっ!?すみません避けるのに必死で・・・大丈夫でした?」


「揺れでちょっと頭をぶつけましたけど大丈夫です。岩の近くを進んでて大丈夫なんですか?僕は近くで見れてありがたいですけど」

椅子にぶつけた頭の横を押さえながら、さっきの質問をしてきた。


「岩石群の第2波が来ます。巻き込まれないように距離を取りながら浮上するにはこの岩に付いて行くのがベストかなと」


なるほど。と納得していた。


「それにしてもデカい岩だ、居住艦と同じ位あるんじゃ」

どれだけ進んでも端が見えない巨大さに、今さらながら呆気に取られていた。


「班長、さっき岩の下をくぐった時に2回目の爆発音がして第2波の勢いが増しました。2分後にはここに到達します」

チティリがソナーのデータを見ながら報告してきた。


「えっ!?」後ろからムツミ・カズヤの驚く声。


少なくとも10分位の時間・・・海面近くまでは戻れるはずだった。

「何でそんなに淡々と話せるんだよ!?あっ!!」

チティリは興奮し過ぎると一時的に感情の起伏が無くなる奴だった事を思い出した。


「今の深度は!?」

「7000」素っ気ない。


エンジンの出力を最大にして急加速して上がっていく。


「深度6000」・・・に差し掛かった辺りで右側から大小様々な岩が左の壁と化した巨大な岩にぶつかっていく。その数が次第に増えていく。


岩同士がぶつかった衝撃で、砕けた岩の破片が飛び散る。


「くっ、おおお!!!さっきよりヒドい状況になってる」


流れてくる岩、その反対側からは岩の飛沫。そんな中を回転したり縦横無尽に進んでいく。


破片で【浮き】が数個割れてしまった。


「深度4000。そろそろ岩石が流れてる海流を抜けます」

チティリの報告でホログラムを確認すると、補給船の位置より深い所に岩の表示が集中し始めていた。


もう少しという所で


「!?」


左の壁・・・巨大な岩の先端部分が崩れて進行方向を塞いできた。


「チティリ、圧縮砲を使う。用意は良いか?」


カチカチッと操作して「準備良し」


「標準は目の前の岩・・・・・発射!!」


ボシュッーーー


補給船から前面に撃ち出された圧縮砲が、魚雷の様に筒状の波紋を出しながら岩に向かって行った。


暫くして






目の前の岩が派手に砕け散った。

「!!!!?????」


軌道をズラして隙間を抜けるつもりだったのに、砕け散った。


こんなに威力があるものじゃなかったはず。


破片を避けながら、やっと岩石群を抜け出した。




「ふぅぅぅ~~~」


【何もない海】に戻って来た事に安堵して、大きく息を吐いた。

補給船を水平近くまで戻して、ゆっくり浮上していく。


「最後の凄かったですねぇ!班長」チティリも戻ってきた。


「チティリ、海面に出るまで任せる」操縦をチティリに任せて機器類のチェックをする為に、後ろのパネルへ向かった。


「補給船にあんなに強力な武装があるんですか?」


ムツミ・カズヤさんが邪魔をしない様にこじんまりと座っていた。


「自衛の為に付いてるんですけど、あんなに威力は無いはずなんですよね」


機器類を確認しても、浮きが破損した・多少のダメージが船体にある位で航行に支障もなさそうだ。


「さっきまでの岩って遠くの方で浮いてくるんですかね?」


ムツミ・カズヤさんは今回の海中探査に満足したのか高揚していた。


「まとまって浮いてくるかもしれませんね(笑)」


「班長、そろそろ海面に出ますよ」


呼ばれて操縦席に戻ると「あっ」と小さく声を漏らしてしまった。


「何ですか?」チティリが聞いてきたので、エネルギーゲージを指さす。

チティリも「あっ」と声を漏らした。


居住艦に戻るまでの燃料が足りなくなっていた。


「海面に出たら四川に連絡するから、チティリは海上のソナーを回収してくれ」


周りが闇から濃い青、上の方が明るくなってきた。


ザッパァン!!


補給船の周りの【浮き】を収納、ワームホールに向かって飛び始めた。


「四川、聞こえるか?」


『班長、お疲れ様です』


「海中探査は終了したけど、問題が起きた」


『!!・・・はい』


「思いのほか燃料が減って、戻れなくなった。宇宙には戻れるからポッドで牽引してほしい」


『分かりました、誰か行かせます』


「頼む。通信終わり」


通信を切ると


「ソナー回収し終わりました」


浮上した位置がワームホールの近くだったらしく、通信中にチティリも作業を終わらせていた。


「それじゃぁ帰ろうか」

補給船がワームホールに入って行く。


「ムツミ・カズヤさんはまた研究をお願いしますよ」


「はい、任せて下さい」

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