第32話 島
ワームホールを通って海の上に出た時、違和感にすぐ気付いた。
「目印にした島が無くなっているんだが」
初日に島の上にワームホールを設置したはずなのに翌日には島が無くなっていた。
「班長、アレじゃないですか?」テサラが指さす方、遠くの海上に赤茶色の塊が見えた。
近づいてみると
「こんな形だったっけ?」
覚えている形と違うように見えたが、よく見ると補給船の降りた跡が残っていた。
ムツミ・カズヤさんにサンプルの土産を採取しに降りた島なのは確かな様だ。
「ワームホールが風で流されるなんて事は無いから、島が動いたって事になるんだけど・・・」
よく見ると島の片方に小さく波が立って、航跡が薄く広がっていた。
「!! 島が動いてるな」
補給船を島の上空でホバリングさせながら観察して気付いた事だった。
「浮島って事でしょうか?」テサラが補給船のカメラを下に向けて録画をしている。
「っていう事があったんですけどね」
午後、ムツミ・カズヤさんにその事を伝えに行ったら、初日に渡した石の研究の最中だった。
「浮島ですか。もしかしたらそうかもしれないと思っていた所です」
そう言いながら、今調べていたサンプルをレンズで見てくださいと促された。
レンズを覗くと赤茶色の石が、どアップに現れた。こうして見る事で気付いた事は、大小合わせて数えきれないほどの穴が広がっていた。
「軽石みたいですね」
「そう!!軽石なんです!!」正解したみたいだ。
「頂いたこのサンプルがたまたま軽石だったとして、一度連れて行ってもらおうかなと思っていた矢先に、浮島とお聞きしたのであの島が全部そうなんだと確信しました」
とても楽しそうに語ってくれる。ノレイ・ツヴァイさんもそうだが本当に好きなんだなと感じた。
「軽石という事は・・・火山ですか?」
「そうです。基本的には溶岩が冷えてガスが抜けて穴が出来て軽石になります。ただあの規模の軽石の塊は初めてです」
「探索範囲は広がっていきますが、まだ大陸や火山島は見つかってませんね」
「だとすると残るは海底火山になりますね。けど赤茶色なのが気になるんですよね」
そう言いながら軽石をレンズで覗き込む。
補給船の構造上、宇宙空間を移動するのだから気密性は十分だ。あとはどれだけの水圧がかかるのかを調べないといけない。
「海底か」
「海底です」
考え事をしながら呟いてしまったら、ムツミ・カズヤさんが答えてくれた。
確認の為に聞き返す。
「海の中ですか」
「はい」
「・・・・・・行きますか?」
「はい!!」
間髪入れずにというか食い気味な返事だった。
ムツミ・カズヤさんと別れて、廊下を歩きながら
「四川、五ノ前に繋げてくれるか?」
このインカムを補給船と繋げてもらって、惑星内にいる五ノ前に「ソナーで海中…海底までの距離と地形のデータを取ってくれるか?」
了解の返事がきた。「よろしく」通話を切って、今度はNo.6 ルート・ビアに繋げる。
「今大丈夫か?」
『大丈夫ッスよ。なんスか?』
「そっちに海洋物理学の方がいると思ったんだが」
『今、ちょうど調査してもらっている所なんで、夕方には戻ってくると思いまスよ』
「明日までに海流のデータを見せて欲しいんだ。送ってくれるか?」
『分かりました。朝には送っておきます』
「頼む。ありがとう」
通話を切ってブースに向かって、その日の仕事は終了した。
これが2日目。
3日目。
居住艦から伸びた太いホースがワームホールを通って海水を汲み上げていく。
本格的に水の補給作業を開始した。と言ってもあとは、【ホースの破損に気を付ける】が主になる。居住艦からも岩石を打ち砕いたり、護衛ポッドで修繕したりだ。
今回はムツミ・カズヤさんの要望で海中探査をする事を班の皆には伝えてある。
五ノ前に昨日のソナーのデータを見ながら説明してもらった。
「すごいもんだ、ソナーの反響音が返ってくるのに40秒位かかったからな、かなり深いぞ。ざっと計算して雲と同じ距離がありそうだ」
簡易的なテーブルに、データを元に映し出したホログラムを、No.2の皆で見ている。もちろん、ムツミ・カズヤさんとノレイ・ツヴァイさんもいる。
「海底はちょっとした起伏が見られるだけで、ほぼ平らな一面が広がっているようですね」
テサラが 何もない 感をだして喋る。
「たまたまここがそういう場所って事は?」チティリも喋って、数人が首を軽く縦に動かしている。
「じゃぁ、あの島はどこか遠くから流れてきたって事?」
「もしかしたら・・・」
「いやぁ・・・」
ヤイヤイわいわい。
皆が憶測を語り合い始めた。
「ムツミ・カズヤさん・・・燃料の関係でワームホールからあまり離れられない事。あくまで宇宙船ですから、水圧に強くないので、海底までは無理ですけど行ける所まで行きましょうか。そこでまた発見があったら、後日正式に調査が入ると思いますよ。今回は水の補給が主なので」
「そうですね。行ける所までお願いします」
残念そうな顔が見えるけど仕方がない。
「それじゃぁ行きましょうか。四川、ルートが送ってくれたデータを入れといてくれ」
頼んでおいた海流のデータを補給船に送っておいてくれと四川に指示を出して、簡易ユナイテッドバースにムツミ・カズヤさんを座らせてから、俺も座って目を閉じた。
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