第29話 グレイシー・フィアー

会議の議事録のまとめ・各部署から局長への報告書に一度目を通して、抜けがあればやり直しを要求。俺で対処できればここで解決する。局長への報告の検閲作業とその他諸々、あとフォードへ連絡を済ませると、終業時間まで残り一時間ほどになっていた。


片付けと明日の準備をする前にトイレに行ったその帰り、通路で局員が行き交う中で背後から「如月補佐」と声を掛けられた。


俺は振り向いて挨拶をした。


「グレイシーさん」眼鏡を掛けたキリッとした顔立ちの女性が立っていた。

「動画を拝見しました。後日、報告書をまとめて送らせてもらいます」

淡々と業務連絡をされた。


「一週間後くらいで大丈夫ですよ。補給作業が無事に終わってからでないと報告も出せないので」

通行の邪魔にならない様に壁際に寄って、立ち話を始めた。


「補給船を操縦していたのがご友人だというお話ですが、お疲れさまでしたとお伝え下さい」


「ありがとうございます、伝えておきますね。そういえば会議の時のワン・ルイと笹瀬一華(ん)の話、うまくまとまりそうですか?」

一番楽しみにしている話題を聞いてみた。


「まだ返事はないです。あちらも初めての試みだという事で慎重なようですね」

心なしかグレイシー・フィアーも残念そうな表情が垣間見えた。


「そうですか、まぁそんな直ぐに決まる事でもないですしね!!ははは」

極端に落ち込む訳にもいかないので笑って誤魔化す俺に


「そうですね」

笑うでもなく睨むわけでもない表情だった。


「如月補佐!!ちょっとよろしいですか?」遠くから部下に呼ばれたので

「では、もうすぐ終業時間ですから。グレイシーさんお疲れさまでした。また明日」

「はい、お疲れさまでした」

二人で軽く挨拶を交わして俺は部下の方へ向かいながら。


(そういえば、ドエネムさんもグレイシーさんもフォードの名前が出たのはモンスターの話じゃなかったっけ?そこから補給作業の話が出たからだけど、フォードが操縦しているなんて話は出してなかった様な・・・


まぁいいか、実際操縦してるわけだし)



≪≪≪≪≪≪≪≪



シューー


家のドアが横に開いて、明かりが点く。


帰宅してそのまま部屋の奥へ


ピョ~ン  ボフッ!!


荷物を無造作に放り投げながらベッドにダイブしてうつ伏せになった彼女の頭の中には、帰り支度をしている時に届いたメールの内容が帰宅中ずっと居座っていた。


――――――


【キャツゥレーン・インミグラーティ

第二UV管理局 マーケティング部 グレイシー・フィアー課長様


この度のお仕事のご依頼、誠にありがとうございます。

結果から申し上げますと、弊社からも皆様からの更なるご声援をして頂きたいという事となりましたので御社にご協力をお願いしたいと相成りました。


詳細は明日以降からご相談させてもらえればと思います。


早速ですが一つご提案をさせて頂きます、今回の凱旋イベントは、キャツゥレーン・インミグラーティを拠点に各宇宙移民群へ周るのはいかがでしょうか?


御社からのご依頼に当てる時間を多く取れるようにとの算段ですがご検討下さい。


よろしくお願い致します。


リモ・インミグラーティ

アジェンゼィ事務所 広報課】


――――――


「・・・・・・」その記憶を噛みしめながら、徐々に興奮が抑えられなくなってきた。


「きゃぁぁぁぁぁ!ワンワンに会えるんだわぁぁぁ」


枕を抱きしめながらグレイシー・フィアーが右へ左へゴロゴロしている。

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