第28話 各々の昼休み
【キャツゥレーン・インミグラーティ
第二UV管理局 マーケティング部 グレイシー・フィアー課長様
この度は、お仕事のご依頼ありがとうございます。
今回行うイベントは過去、類を見ない規模として、我々にとっても初の試みとなります。その為、望まれたご回答をさせて頂けるかは十二分に検討をさせて頂いてからになりますので申し訳ありませんがお時間の程を頂いてから、後日ご連絡をさせて頂きます。
宜しくお願い致します。】
朝、二人の凱旋ニュースを知って、会議前に送っておいたメールの返事がきていた。
(局長の許可は貰えたからあとは返事待ちね)
私は昼食後のコーヒーを飲みながらパソコンのデータ整理をしていると、
ピコンッ
スー・如月補佐から一斉送信で動画が送られてきた。今日から開始された補給作業の動画だった。
見ただけでも凄まじい乱気流と、時折轟音と共に光を放つ雷が周囲を照らす暗闇の中、補給船が縦横無尽に飛んでいる動画。
「・・・・・すごっ」
声が漏れてしまった。
(補給船を三人称視点で映して、音楽を合わせれば、カッコいい映像ができるんじゃないかしら?)
動画は補給船内部からの撮影の為、一人称の様に映っていた。色んなジャンルに使えないか考えを巡らせていた。それこそ職業病と言ってもいいぐらいに。
≪≪≪≪≪≪≪≪
「リーン。朝と違って随分とご機嫌じゃない?」
私は、向かい合って昼食をとっている同僚にこう言われた。
「そう?まるで朝、不機嫌だったみたいな言い方ね」私は普段通りでいたつもりだったのにその同僚からは
「いやいや、近づいたら嚙みついて来そうなほど、目つきが悪かったわよ!?」苦笑いをされた。
「そんなに?」元々目つきは良い方ではなかったけど、そこまで言われるとは…自分でも気付かない程、ワンワンの結婚報道にショックを受けていたのかしら。
「でも機嫌が直って良かったわ、仕事の話もしづらかったから(笑)」
「それは悪かったわね。午後からしっかり働かせてもらうわよ」
前のめりになって「それで?何があったの?」嫌いではないけど彼女は本当にズケズケと聞いてくる。
「機嫌が悪かった時?良くなった時?」少しはぐらかすつもりでイジワルをしてみた。
「ワン・ルイが結婚したんでしょ?分かってるわよ(笑)」バレてた。悩む素振りもなく。
「機嫌が良くなった理由は?」と聞かれて
(まだはっきりとワンワンと笹瀬一華がここに来るとは決まっていないから余計な事は言えない)何て言って良いか口籠っていると
「ワン・ルイと笹瀬一華が凱旋するから。とか?」
「!?・・・そう!!それ」そうだ。どっちみち来るには来るんだった。
「リーンって結構単純なのね(笑)」アハハハハと笑われながらも「一目でも実物を見れたらいいね」彼女はからかって来るのにこっちの気持ちになって考えてくれている所があるから嫌いになれない。
「押し退けてでも見てやるわよ」
私達は食べ終わって空になった食器の乗ったトレイを持って、食器の回収棚へ置いて食堂を出て行った。
(会議の時の話が良い方で決まってくれないかなぁ)
≪≪≪≪≪≪≪≪
「【音ゲーですか、面白そうですね。色んなパターンを考えて今度企画案として出してみます。ちなみに操縦しているのは先程の会議で話に出たご友人ですか?すごいですね。僕も機会があったらお話ししたいです】送信っと」
私はスー・如月補佐にメールの返事をしてから妻の作った弁当を机に広げて食べようとした時。
「今の動画って今日から開始された補給作業のですか?」
背後から声を掛けられたので、振り向くと部下の一人が通り際に動画を見ていたらしい。
「そっ、後で皆に提案を募るからね」
「今見て、パッと思い付いたのはシューティング、レースとか、操縦の教材・・・はダメそうですね(笑)」
「すぐじゃなくて良いよ。皆に伝えといてくれればいいから、休み時間はちゃんと休みなさい」
部下をいなすと、パソコンに通話着信の通知を知らせるベルが鳴った。
通話のみの設定にして「はいはい・・・どうも、その件はですね・・・えぇ・・・はい・・はい・・ではまたよろしくお願いします。はい、失礼しますぅ」
ふぅ~
「ドエネムさん、5番にお電話です」部下が遠くから私宛に連絡が来ている事を知らせてきた。
(お弁当・・・)
弁当を横目に通話ボタンを押した。
「はい、お世話になっております・・・・・」
≪≪≪≪≪≪≪≪
局長室で旧友に連絡してみた私は、あいつも忙しいだろうと思い、コール回数を少なめにして切ろうとしたら繋がってしまった。
「久しぶりだな」
「・・・・・」
数年ぶりなのに変わらずのおチャラけた喋り方だった。
「・・・・・」
「ぼちぼちだな。仕事の方は順調か?」
「・・・・・」
「相変わらず頼りになるじゃないか」
「・・・・・」
「あいつの奥さんと息子は元気か?」
「・・・・・」
「そうなのか?さすがだな」
「・・・・・」
「そうだな。息子にも会ってみたいな。4人で会おうか」
「・・・・・」
「あぁ、構わない。任せた」
「・・・・・」
通話を切って。
(あの時の子が)
私は天井を仰いで嬉しかったのか、笑みを浮かべていた。
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