第27話 朗報
「そのバトルのログは見れるのか?」
「はい、お待ち下さい」ドエネム・ペイヤが会議室を暗くした。テーブルの中心にホログラムで、勇者・剣士・魔法使いと【はぐれナイト】と呼ばれる大剣を持ったモンスターが岩山の中で対峙している姿を立体映像として映し出した。
勇者パーティー三人とモンスターの戦闘を全員で見ている中「スー・如月補佐、君の友人はどれだ?」局長が俺に聞いてきたので、
「モンスターの方ですね」そんな話を向き合ってしていると誰かから おお~ という歓声が出た。ホログラムの方に目をやるとモンスターが勇者と剣士を薙ぎ払って魔法使いを拳骨で倒していた。俺は当時、間近で見ていたが解説はせず、黙っていた。
そして、勇者とモンスターが相打ちになった所でホログラムが消えて会議室が明るくなった。
「プログラム補正と言うよりも単純に技術の差が大きい様に見えます。同じ様に勇者を倒してしまったログは他にも出せますが」ドエネム・ペイヤが続けて映そうと操作しようとしたら
「いや」局長が制止した。「それらのログをマーケティング部に渡してやってくれ。これを機に他のプロモーションビデオも順次更新していこう。その為に必要な情報は各部署から提供するように」ユナイテッドバースの利用人数が減少傾向にある事とサーバーに偏りがある事が報告として上がっていた。
「スー・如月補佐、君の友人と会ってみたいのだがアポは取れるか?」
「はい、え~今日から補給作業に入っているので一週間後なら?大丈夫だと思います。連絡はしておきます」
なんと局長がフォードに会いたいと言ってきた。
「補給作業?」思い当たるふしがあるような表情で「名前は?」と聞き返された。
「フォード・山岡です」隠す必要が無いから素直に答える俺に
「トットファーレの山岡だな。分かった、連絡はしておいてくれ、私も空ける様にしておく」一瞬、眉をひそめた表情に見えたが気のせいだと思った。また皆の方に顔を向けて「他に何かあるか?」これで会議を終わらせる合図が出た所で、手が挙がった。
「質問というか相談ですが」さっきまで受け答えしかしていなかったマーケティング部のグレイシー・フィアーが「プロモーションビデオを作るにあたって、全宇宙移民群を周ってくるワン・ルイと笹瀬一華に協力を頼んでもよろしいでしょうか?」
((なんですとぉぉぉぉぉ!?))スー・如月とリーン・橘の内心
「ふむ」局長は少し考えて「・・・構わないが、キャツゥレーン(インミグラーティ)のUV管理局からの依頼なのだと。ここにきて協力してもらう話で念押ししておけ」指をテーブルにトントンしながら「でないと他の局で済まされてしまう。直接来てもらった方が良いだろ(笑)?」
俺達のいる第4宇宙移民群『キャツゥレーン・インミグラーティ』のUV管理局からの依頼だからここに来るようにと強調して、局長は明らかに俺とリーン・橘に視線を送っている。
俺とリーン・橘は うんうん と高速で首を縦に振った。
「では、時間を超えてしまったが会議は終わり、お昼にして、午後も頑張ってくれ。解散」
局長の号令で皆がぞろぞろと会議室を出て行く。
俺とリーン・橘は何も言わずに手を差し出し、握り合った。
『グレイシーさん!グッジョブです』
二人でグレイシー・フィアーに声を掛けると、彼女は振り返りクイッと整えた眼鏡がキラリと光って「私は最善を考えただけです」と澄ました顔で長い髪を揺らしながら去って行った。
その背中を見て
((かっけぇぇぇぇぇ))スー・如月とリーン・橘の内心
昼食を終えて、俺はUV管理局の近くにある公園の芝生に寝転んで昼休みをしていた。
目線の先からは人工太陽光が心地よい光を照らしている。
大きめの人工池。その周りに芝生が坂になって囲うように広がっている。池の片方には広場がありそこから池にはみ出すように簡易的なステージが設置されている。その広場周辺はベンチが設置されていて、イベントやちょっとしたライブ会場として使われる事がある。
今は俺みたいに昼休みをしている大人や親子連れの小さい子供が遊んでいるのどかな風景が広がっていた。
午後からはフォードに連絡して局長との予定を合わせる算段をして、さっきの会議のまとめかぁと、一連の会議の流れを思い出していた。
広場の反対側にある噴水は決まった時間で水が出る。普段ならそのタイミングで局に戻るのだが、今日は公園を一周走ってからにしようと少し早めに動き出した。さっきの会議で笹瀬一華が来る(かもしれない)と言う事が頭から離れず、このドキドキを鎮める為だ。
ジョギングしていると端末に局にある俺のパソコンにメールが届いたと知らせが鳴った。フォードからだった。内容は後で確認するとして今、連絡が着けれそうだと思い、走るのをやめて通話を試みたら直ぐに繋がった。
「・・・・・」
「今、昼休みから戻る所だ。そっちも補給作業は順調か?今回は大変だと聞いたぞ?」息が上がって、喉がカラカラだった。
「・・・・・」
「笹瀬一華の事でちょっと走り込みをしてた(笑)」俺はこういう奴だと向こうは分かっているからこんな説明で良い。
「・・・・・」
「そうか、一週間よろしく頼むわ。それと急で悪いんだが、俺のいる所の局長がお前に会って話がしたいんだと、詳しくはメールしておくから、補給作業が終わってからで都合を付けてくれないか?俺の奢りで良いから(笑)じゃぁ、戻るから切るぞ」通話を切って局に戻った。(いつもの店でいいか)
局に戻った俺は早速パソコンのメールを確認した。
届いていた動画を再生して、同じ動画を局長と会議にいた各部署の責任者にメールを送った。ドエネム・ペイヤには「音楽ゲームとしてどうですかね?」と付け足しておいた。
直ぐにドエネム・ペイヤから返信が来た。
「音ゲーですか、面白そうですね。色んなパターンを考えて今度企画案として出してみます。ちなみに操縦しているのは先程の会議で話に出たご友人ですか?すごいですね。僕も機会があったらお話ししたいです」
メールを送った各部署から今、艦の外で起きている事をいち早く知れた事とか、単純に動画に対しての称賛などが返ってきた。
友人が褒められるのは悪い気がしない。と嬉しくなった。
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