第23話 会議室にて



・・・・・・・



「そういえば」

「この度は本当にお疲れ様でした。補給船ってあんな飛び方が出来るんですね」話を切り出そうとしたらカトル霧島が口を開いた。

「先程、ムツミ・カズヤさんからも似たような事を言ってもらえました(笑)ほとんど落ちてるようなものでしたけどね(笑)」同じセリフなのに抑揚のある・無いでこんなに違うんだな。それと、今回の惑星突入に関しての功労者は俺ではない。この事をカトル霧島に伝えるついでに聞いてみたい、と思った。

「実はですね、今回の惑星突入にはノレイ・ツヴァイさんがとても力になってくれました」

「ノレイ・ツヴァイが?」

俺は、雲の中でのノレイ・ツヴァイの助言によって雲を抜けられた事を称賛しながら説明した。カトル霧島は黙って聞いている。

「彼女が優秀だと仰っていた意味が分かった気がしましたよ」

勝手ながら彼女の事を褒めてやってほしいと、心のどこかで思っていた。


「そうですか、彼女が。お役に立てた事は喜ばしい事です」

カトル霧島はテーブルに肘を付いて両手を組み、顔半分が見えない様なポーズでしばらく黙っていた。


「ご迷惑をおかけする前にお話しておきます」

言葉を探している様だった。

「彼女が優秀なのは認めています。ですが・・・特化し過ぎているんです」

「特化し過ぎている?」俺も同じポーズを取ってみた。

「はい、気象学に関しては私の知る限りで並ぶ者がいない程の知識と、先程フォードさんが仰った様に天才的な観察力を持っています」一呼吸おいて「ですが」

「ですが?」雰囲気でそう見えるのだろうか、会議室が暗くなってお互いが発言する度にスポットライトが当たる様に感じていた。

何て言おうか悩んでいる様に見える。彼女はカトル霧島を、この男をここまで悩ます程の人物なのか。

もしかしてとんでもない事を聞いてしまうのかと、聞いてしまっても口外しない事を心に決めて、カトル霧島から発せられる言葉を待った。


「彼女は・・・」カトル霧島は重い口を開いた。

俺も覚悟はできている。






「・・・ドジっ子が過ぎるんです」


・・・ドジっ子が過ぎるんです


・・・過ぎるんです


・・・るんです・・・


ドジ・・・はい?

つまり【ドジに特化している】らしい。

こんな言葉があるのか?


「我々は各方面の分野の研究員が集まっている研究機関です、専門分野はもちろんですが、時には専門外の他の研究を手伝って協力し合ってるんですが、ノレイ・ツヴァイは・・・その・・・」

「ドジっ子?」

「はい」

カトル霧島が言葉に詰まっていたので代わりに口に出した。普段使わない単語なのだろう言い辛そうだった。けど、『役立たず』・『邪魔者』とか傷つける様な言葉を使わないのは彼女を認めている良心だろう。


「例えば、昆虫学の手伝いでは『きゃぁぁぁ虫ぃぃぃ』って騒ぎ散らかして、昆虫が研究所内に逃げ回って、回収が大変でした」

「苦手なんでしょうね」苦手な人からしたら騒いでしまうだろう。

「地質学では、部屋が埃っぽいと掃除をしてくれたのは良いのいですが、研究資料の一部を捨ててしまったり」

「それは・・・」実際にそういう事があるんだな。

「まぁサンプルの一部だったので同じ物が残っていたから事なきを得ていましたが」

「良かったですねぇ」宇宙規模で採りに戻るのは問題だものな。

「客人にコーヒーをお出しした時は、躓いて溢したり」

「ドジっ子の王道ですね」

「淹れ直したコーヒーに砂糖と塩を間違えたり」

「合わせ技ですか」

「他にも挙げたらキリがないのですが」

「どんな感じなのかは分かりました」俺はカトル霧島の言葉を遮った。要は彼女が何かやらかさないか心配な様だ。「今日から一週間は私の班のメンバーです、任せて下さい。霧島さんも少しは肩の荷を降ろして、気楽にしてて下さい」

「いえ、そういう訳には」

「仲間にも言ってるんですが、根を詰めても良い事ないですよ?無理してでも声を出して笑うのも大事なんて聞きますし」

「そういうものですか?」

「そういうものです。ハハハハハ」作り笑いが会議室に広がる。そして、直ぐに「ちょっと失礼」と会話を止めた。「課長、演出ありがとうございました。もう結構です」

「あっそう?なんか雰囲気的に必要かなって」課長が会議室のスイッチをカチカチやってライトを点けたり消したりしていた。

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