第20話 天才

さっきまで飛んでいた荒々しい空が雲の中で蠢いているのとは別次元のよう。

とても穏やかな空を三人を乗せた補給船がゆったりと飛んでいる。

時計が9分7秒で止まっていた。

「予定より少し早く抜けれた」


ウイーーーン

開いていた主翼【カイト】が閉じていく。


雲の切れ間から光が差し込んでいるのも見えるが、すぐに途切れてしまった。雲が晴れて空が見えるって事はそんなにないんだろう。あんなに厚い雲なのだから。

しかし、惑星の朝が周囲を明るくしていくのは何故か分からない。分からないが水面に光が反射してキラキラ輝いている。

(こういう謎は研究チームの方達に任せようか)


「No.2補給船、雲を抜けたぞぉ」


・・・・・返事がない。


「・・・褒めてくれぇ」


「もしもし?四川?」


「・・・お前が好きな相手は~」


・・・・・


「・・・テサラ、操縦を頼む」

「了解」俺は操縦席を離れて後ろにある機器類を調べた。

パネルを開くと機器が点滅していたりしているが通常に見える。

その間にもテサラが呼びかけを続けている。




「ダメだ」俺は諦めて操縦席に戻った。「機器類は問題ないから、雲の影響かもしれないな」

今、俺がやるべき事は、もう片方の装置を設置してワームホールを繋ぐ事だと切り替えて補給船を飛ばした。

「テサラ、何か見えるか?」テサラの方、補給船の左側を見てもらった。

「海ですね」俺の方もそうだ。

見渡す限り海。遠くでは水平線がわずかな弧を描いている。


「あの~何を探してるんですか?」後ろのノレイさんが邪魔をしない様にずっと黙ってくれていた。

「通信ができないから連絡なしでワームホールを繋ごうとしてるんですけど、開くとチティリとフォイドが来てしまうから、安全(そう)な場所で目印になる様な場所を探してるんです」

一先ず幾分か飛んでいて何もないから安全ではあるのだろうけど、自分のやる事を確認するかのようにノレイさんに説明した。


「通信が出来ないのにワームホールは繋げられるんですか?宇宙にあるもう片方に信号が届かないんじゃ」ノレイさんも正面の遠くの方を見るように探してくれていた。

「あぁ・・・勘違いしている人が多いんですけどね。ワームホールの開閉装置には【量子エンタングルメント】が使われてるんです」

「???」

見える。俺にも?マークが見える。

「・・・ごめんなさい。専門分野以外は疎くて」

恥ずかしそうに言っているが、日常として普段から身近にある物に対してはこんなものだろう。


「えっと【量子もつれ】とも言いまして、量子を二つの粒子AとBに分けるとお互いに反対の向きになる現象が起きるんです、それに電気信号を送ると向きを変えられるので、片方の向きを変えたらもう片方が反対向きになるという仕組みを使って離れた所の場所でのやり取りが出来るという事で主にワームホールの開閉に使われているんです。俺も仕事柄使っているだけで専門的な話し方は出来ないんですけどね」申し訳なさそうにすると


「いえっ、とても勉強になります。【量子もつれ】ですか」新しい単語をかみしめるようでいた。


しばらく周囲を探索しながら

「そういえば、雲の中でノレイさんはなぜ風速が変わる事が分かったんですか?」俺は雲の中で、センサーより先にノレイさんが声を上げた事について質問してみた。

「あの時は雲の形を見てたんです」当たり前の様に答えてるけど。

「雲の形?」

「あんな暗闇の中で?」俺もテサラも驚いて声を上げた。

ノレイさんが言うには雲が煙や湯気に息を吹きかけた時の様な形に動いたのが見えたとの事で、暗闇の中でも「雷の明かりで周りが良く見えたので」ケロッと答えてきた。


(うそだぁ~)冗談でしょ?と言おうとしたがふざけている顔ではなかった。


「じゃぁ雷が当たりそうになった時は?」なぜ分かったんです?と聞いてみた。

「私の今まで調べた他の惑星の気象データを参考として移してもらっていたんです。惑星によって全然条件が違うのですけど、お役に立てて良かったです」学者としての答えが返ってきた。


「天才とか言われません?」俺はそう思ったので称賛を含めて言ってみた。

「そんな事ないです!!霧島さんからはいつも怒られてばかりで」

カトル霧島からは優秀だと聞いていたし、目の当たりにして納得した。彼女が怒れれているのは別の理由だと、カトル霧島も立場上中々、褒めるという事も出来ないのだろう事も理解した。

それでも、彼女は天才の部類だと俺の中では位置付いた。


そんなドライブ感覚で探索していた時

「あっ!あれは島か!?」補給船が20機程置けそうな面積のある赤茶色い岩が目に入った。


「この辺りにワームホールを設置する」俺は補給船からカプセルを前面に撃ち出した。

撃ち出されたカプセルが数メートル先で停止した。

「我が声を聞け、我が命に応え、出でよ。チティリぃぃぃ!フォイドぉぉぉ!!」

ワームホールの開閉スイッチを押すとカプセルのあった場所の空間が陽炎の様に歪み始めた。




「今のは必要なんですか?」ノレイさんが後ろから聞いてきた。

「いえ、全然」テサラが一蹴する。


数秒後、陽炎の向こう側からチティリとフォイドの操る護衛ポッドである球体が飛び出して来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る