第18話 雲の中

惑星としては夜だろうか。暗闇を高速で飛んでいく補給船を時折、雷の光が照らす。


データ上の赤色じゃない所を選んで飛ぶ様にしている。

「ノレイさん、生身じゃないと言っても大丈夫ですか?そちらでも気流のデータを見える様にしてありますから」視線は前を向きながら、後方に声を掛ける。

「あたしの事は気にしないで下さい。風の動きが見た事ない流れをしていて面白いです」

乱気流の中でもみくちゃに飛んでいる中で・・・思っていた以上に優秀なのか、それとも言葉は悪いがぶっ飛んでいる人らしい。

「ハハハ」一気に親近感が湧いた。


(何とか感覚としては慣れてきたかな)と思った矢先に「!?」反対方向から赤色と黄色い矢印が流れてきた。


「・・・高度によって気流の向きが変わるのか」

惑星の表面のデータしか見ていなかったが、左から右へ、右から左へ高度によって気流が幾層にも重なっているようだ。

直前に四川が観測データのプログラムをインストールしてくれたおかげでリアルタイムで気流の流れが分かるのは大変助かっている。音楽ゲームの様にも見える。



「高度が約100㎞毎に気流の層が変わるみたいだ」気付いた事を記録として報告しながら周りを忙しなく見回している。高度計の数字はもの凄い勢いで減っていく。



「すげぇっス、風の隙間を縫う様に進んでる」この作業に関わるトットファーレ全員でNo.2の補給船の画像データを各々の近くにあるモニターで見ている中でルート・ビアが呆気にとられている。

「フォードが俺達の中じゃ腕が一番だからな」崎・クワトロがモニターを見据えている。


「成功しそうですか?」カトル霧島が一緒にモニターを見ている課長に聞いた。

「似たような事は何度かありますけど、規模が桁外れですからね。何とも言えませんが、まっ大丈夫でしょ?そちらの研究員の方が一人、早速補給船に乗っているみたいですけど、怖がってないですか?」

「彼女なら大丈夫です。きっと楽しんでますよ」



目をキラキラさせて後部座席から補給船の先の乱気流を眺めている彼女の顔に誰も気付かない。


高度計と時計を見て半分くらい過ぎたかな?と思いながらも今まで通り赤色以外の矢印を通ろうとしたら。

「そこはダメです!!」

声がしてから黄色い矢印が赤色に変わった。

「!?」

補給船は急旋回して何とか避ける事に成功した。

黄色い矢印が増えてきた事による安心と油断だった。

「今のはノレイさんですか?」

「はいあたしです。すみません急に大声出して」

「もう半分くらいですから同じように教えてくれませんか?」

なんで分かった?とか話をしている状況ではない。そんなのは後回しにして協力を仰いだ。

気を引き締め直して操縦桿を握り直す。俺は目を前に、耳を後ろに気を使った。


それはダメ、次のはダメと赤色に変わる前に彼女の声が聞こえてくる。何故なのかが段々分かってきた。気流同士で速度を上げ合っているらしい。

自分の予測も混ぜて飛んでみると彼女の指示が少なくなっていた。



惑星に突入してから6分を切った。(もう少しで雲を抜ける)と思った時。

「左に避けて!!」大声がして

「はぁっ!?」と左へ目いっぱい操縦桿を切った。


瞬間。


補給船の右スレスレを雷が爆音と共に走った。


『・・・・・・』俺とテサラは固まった。普段はクールなテサラも目を見開いている。


「ノレイさん!!」

「はっはい!!」

思いがけず声を荒げて呼んでしまった事に彼女は驚いている。

「気流の方は俺が何とかしますんで今みたいに教えて下さい。お願いします」

幸い、気流のデータはほぼ黄色と青色で埋まっている。急な突風に当たらなければ問題ないはずだ。

「分かりました。やってみます」承諾してくれた。後で質問攻めになりそうだ。

データを元に気流を避けながら補給船を飛ばすがさっきより雷が多くなっている様に感じる。だが、ノレイさんの声がしないから直撃コースはないらしい。

雲の切れ間から光がちらほら見えた。(雲を抜けるのか?)安堵しかけたその時。

「左からきます。上に避けて!!」

「上!?」機首を上げると補給船の下を雷が横切って行ったと同時に、補給船は雲を抜けた。

目の前、視界いっぱいに水が見える。垂直に海に落ちて行っているのだ。

機首を上げろと警報機が鳴り響いている。

「テサラ!!」

「!!」合図を受けたテサラが【カイト】を出す。

補給船の両脇から主翼が伸びて、紙飛行機の様に曲線を描いて水平になっていく。水面ギリギリで持ち直して安定した飛行に入った。


この惑星の朝だろうか前方から空が明るくなってきた。

テサラとガッツポーズを交わして、ノレイさんにも≪やったぁ≫の合図を送ってしばらく朝焼けを眺めていた。

まるで祝福されている感覚だった。



フルコンボだドン

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