第15話 問題児
俺はブースを出て休憩所で一人、椅子に座ってコーヒーを飲みながら何度も計算を繰り返している。
(・・・・・・・)「五ノ前を連れてくれば良かったか」頭を掻きながら考えをまとめようとしていると
「予定通り作業を始められそうですか?」正面に立った人物から声を掛けられたので顔を上げるとカトル霧島が立っていた。
「ちょっとした計算が済めば準備は完了しますよ。そちらは挨拶回りは終わりましたか?」
席を立ちカトル霧島の分のコーヒーを入れる。
「後は彼女が戻ってくれば・・・ですね」
「彼女?」俺はコーヒーをカトル霧島に渡して、自分も入れ直したコーヒーを啜る。
「あなたの班に連れて行く予定のもう一人の人物です。忘れ物をしたと言って、朝ここを出てまだ戻って来てないんです」やれやれといった感じでコーヒーを啜る。
「あぁ、女性なんですね。何の分野の方なんですか?」
「気象学です。優秀なんですけどねぇ・・・・・この計算は?」カトル霧島が俺のメモを見ながら聞いてきた。
「今日中に雲を抜ける為に必要な速度を出してるんですけどね、瞬間最大風速が10万km/hなんて桁違いな情報が出てまして(笑)最大速度で進むだけなら問題ないんですけど、最大速度で強風を受けたら制御が効かなくなって、空中分解してしまいます。だからと言って速度を落としたら、弱風にも影響を受けてしまうから時間のロスになる。速過ぎても遅過ぎても・・・乱気流の中で2万5000㎞を最速で行く為にはマッハ30近くで…10分位か」話し相手が欲しかったのだろうか、カトル霧島に説明していたが独り言の様にもなっていた。
「10分で?」もっと時間を掛けても良いんじゃないか?という質問だ。
「経験上で俺の集中力の持続時間がその位だから丁度良いかも。その中で時間短縮も考えてます。そうすれば研究チームの時間に回せるでしょ?」
「はぁ」呆気に取られた顔だった。
「四川、時速5万㎞以上を赤色で4万㎞を黄色・それ以下を青色で表示してくれるか?」
インカムで四川に指示を出して「そろそろ時間なんで行きましょうか」カトル霧島の空のコーヒーカップを受け取り、片付けながら一緒に休憩室を出た。
「きゃあ!!」
カシャ 相手の右肘→俺のみぞおち
カシャ 相手の右肩→俺の左肋骨
カシャ 相手の右拳→俺の右肋骨
カシャ 相手の頭部→心臓の位置
これらがすべて同じタイミングで襲ってきて、上半身の全面に衝撃が走った。
「ごっふぅ」強烈なタックルを受けて相手を抱える様に仰向けに倒れてしまった。
「遅くなってすみません。気象学担当のノレイ・ツヴァイって言います。あの、忘れ物を取りに離れてまして・・・」
「はい…よろしく」さっき飲んだコーヒーが逆流しそうで、しなかった。
「まずは立つのが先じゃないのか?」カトル霧島が呆れた口調で、しかし目だけをこちらに向けているからすごく睨んでいる様に見える。
「きゃあ!!ごめんなさい」彼女は慌てて起き上がると俺に手を差し伸べてきたので、今回は借りる事にした。彼女は俺より一頭身程身長が低く小柄な女性だった。カトル霧島に頭を下げて謝ってから、俺にも深々と頭を下げてきた。髪は明るい茶色、長めの前髪が降りていて前は見えているんだろうけど、向き合っても瞳がうっすらとしか見えない。横からの視線が痛いのか小柄な体格がもっと小さく見えた。
「間に合ってよかったです。今から作業を開始しますから一緒に来て下さい。メンバーにも紹介しないと。そちらの準備は大丈夫ですか?」さっさと連れて行かないといたたまれない気がした。
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