第12話 出勤1日目

俺は居住区を出て、バーススクエアや、モールといった商業施設と公共施設を抜ける、居住艦の中心を走っているリニアトレインに乗って、艦後方に企業のオフィスや事務所・工場と言った就業施設にある職場へ向かった。


今は出勤時間なのでほぼほぼ皆同じ方向へ移動しているから、通勤ラッシュがすごい。

車内テレビを見て苦痛を和らげている。


職場は艦外装の近くにある。そこまでには少しづつ人達が駅を降りて人混みが解消されていく。

終着駅にもなるとラッシュ時に比べて全くストレスが無い程の人だかりしかない。

駅を降りて、就業施設街の中を進んでもうすぐ職場に着く。

そこで曲がり角から人影が飛び出して来た。


「きゃあ!!」女性の様な声がしたと思った瞬間、上半身の全面に衝撃が走った。

相手の右肩・右肘・右拳が俺のみぞおちと両側の肋骨に、さらに相手の頭部が心臓の位置に。

これがすべて同じタイミングで襲ってきたのだ。

「ごっふぅ」強烈なタックルを受けて相手を抱える様に仰向けに倒れてしまった。

「ごめんなさい!!急いでいたので」慌てているその女性は直ぐに立ち上がって俺を引き起こそうと手を伸ばしてきた。

「いえ、こちらこそ」咳き込みながら大丈夫とその手を拒んだのを確認して

「本当にごめんなさい。それじゃ」とても慌てているようでそのまま立ち去ってしまった。

落ちている身分証カードを見つけて「あっちょっ・・」と、と言い切る前に姿が見えなくなってしまった。(後で届け出を出せばいいか)俺は相手の身分証カードをポケットに入れて職場に向かった。




「おはようございま~す」職場の事務所に挨拶をしながら通り過ぎて持ち場に向かう俺に、事務員の人も挨拶をしてくれた。事務所の後ろには10人位余裕で入れるブースが6つある。俺はそのNo.2に向かうとチームメイトが揃っていた。


「おはようございます」挨拶しながらブースに入ると気付いた皆も

『班長!おはようございます』6人全員が挨拶を返してくれた。


各ブース共に同じ作りである。

ブース内中心にはリクライニングチェアの様に背もたれが斜めになっている椅子?ベッド?が5つ置いてある。壁際には各自の作業机。それだけだ。


他の班員が机で青いホログラムのウインドウを開いたり、配線を繋げて準備をしている中、俺は仕事の資料をまとめると「今朝のニュースにも出た仕事内容になると思うが、特別な指示が無い限りはいつも通りにやろうと思う。朝礼に行ってくるから準備の方は頼むぞ」

『はい』

ブースを出て二階の会議室へ行くと

「おはよ~す」

「おはー」

「おはよう」

「モーニン」

「ヨッス~」

俺以外の班長が揃っていた。全員に挨拶を返して暫くしない内に奥のドアから小太りで人の良さそうなおじさん 課長 が現れた。その後ろに俺と同い年位の女性が入ってきた。


「皆おはよう」

『おはようございま~す』

「ニュースで知ってると思うが」

課長は真剣な顔だ。皆と直接顔を合わすのも、実地作業も久しぶりなのだから威厳を見せるのも大事だろう。横隣の皆も、もちろん俺も気を引き締めて課長の言葉に耳と意識を向ける。


「笹瀬一華が結婚した」


「そう・・・っスねぇ」誰かが返答に困って絞り出した。

「私はデビューした時から応援していたのだよ」

「課長、あんた既婚者でしょうが」

「だからこそ!!自分の娘の様に思っていたのに、どこぞの馬の骨と」

「どこぞの馬の骨じゃないでしょ?人気俳優のワン・ルイですよ」

「玉の輿じゃないっスか。やったっスねお父さん」

「子離れする時が来たんじゃないでしょうか?これからは一歩引いて見守ってあげれば宜しいかと」

「大丈夫ですよ、いつだって課長の」親指で自分の胸の中心をトントンと指しながら「ここにいますって」


「・・・フォード山岡君」

本題じゃないと思って資料を読み漁っていた俺は指名されて「あっはい」(ヤッバ)と思った。

「君は何か言ってくれないのかね?」物欲しそうに甘えたおじさんが目の前にいる。両脇からも【何か気の利いた事を言え】みたいな視線が

「あ~っと」「全宇宙移民群に沢山のファンがいるって事でパレードじゃないですけど二人で周ってくるらしいですよ。直接目にするチャンスではないでしょうか?」

「え?そうなの?」

(よしっ出勤途中で見たニュースで得た情報だ、知ってる人はまだ少ないはず)

「ハネムーンみたいなものか?」

「新婚旅行も兼ねているんだろうね」

隣同士で話が通る中、どういう連想をしていたのか課長が「ハネムーン・・・・・ベイビーだと?」

『ベイビーまでは言ってない』全員が思った事だろう。気が早いとか、収拾つかなくなる前に。

俺は手を挙げて「はい!!課長」挙げた手を課長の横にいる女性に向けて「そちらのお嬢さんは娘さんですか?」娘繋がりで話を逸らす試みに出た。

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