第23話 対話

「・・・とぉったぁあああっ!!!!」



 その一声は、海域全体に響き渡り、静寂を打ち破った。



 一足目で隣に踏み込み、二足目で担いだまま後ろに跳びつつ、靄のひもを断つ。

 考える前に身体が反射で動いていた。 


 切断された靄が宙に舞い、心の中で何かが高鳴った。


 見間違えようがない。

 抱きかかえ、見下ろした少年は紛れもなくヴィクトルの姿をしていた。 

 身体をゆすり、声をかける。



「ヴィクトル?!ねえ、ヴィクトルなんだよね?起きてよ、返事してよ!!」



 しかしその身体はくったりと眠ったまま、浅く息をするだけで反応を返さない。

 身体は温かい。脈も打っている。ただ眠っているだけ。

 私の心は、彼の無反応に焦りと不安で満ちた。



「やれやれ、相変わらずのお転婆じゃな。アリア。」



 くすりとした、懐かしい声がした。



――― この声は!



 視線の先に、お婆様が立っていた。

 微笑みながら、私を見つめていた。



「お祖母様!?」



 お祖母様の姿に、知らぬ間に頬を涙が伝う。

 いっぱい話したいことがあった。


 でもどれも声にならない。

 心の中で感情が渦巻き、言葉を見つけられなかった。



「これこれ、アリア、泣くでない。可愛いお顔が台無しじゃぞ。

 ......あと、初めに言っておかねばならぬことがある。わしは本当の意味でのアリアのお祖母様ではないのじゃ。」



 お祖母様の手が、私の頭を撫でる。

 その温かさ、その優しさ、すべてが私の心に触れる。

 しかし、その言葉は心に突き刺さった。



「お祖母様じゃないの?」



 この声、この微笑み。すべては記憶にある、私の愛しいお祖母様と一緒だった。

 心の中で疑問と失望が交錯する。



「そうじゃ、アリア。」



 お婆様の声に、寂しさが交じった。



「わしは話をするため、アリアの記憶を元に話しやすい相手の姿を混沌が取ったもの。これも竜の言っておった反動の一種じゃ。世界の綻びを正そうとする反動の力のな。本当は、その少年の姿で話そうとしておったのじゃが......少しばかり、刺激が強すぎたようじゃな。」



 と、断たれた靄の紐のあたりに視線を落とした。



「でも、私と話している。頭を撫でてくれているその手は、私の知っている大好きなお祖母様のものよ。」



 私の声は、確信と愛情に満ちていた。

 この手、この声、この温かさ、すべてが私の心に響いていた。

 それは、私にとっての真実だった。



「そうじゃな、アリア。形も声も体温も、すべては本物じゃ。

 混沌とは可能性、何にでもなることができる。


 じゃがな、一つだけどうしても足りぬものがある。

 先ほど竜が言うてたように、我らには魂がない。

 いまお前の腕の中で寝ている少年も同様に。」



 お祖母様は私の腕の中のヴィクトルを見つめながら、そう告げた。

 その目には深い悲しみと理解が宿っていた。



「それじゃぁ、このヴィクトルはどうなるの?こんなに温かくて、眠っているだけみたいだよ。」



 私の声は震えていた。

 この少年がヴィクトルでないという事実が、私の心に深い痛みを与えていた。



「靄の紐も断たれているこの状況では、飯を食べることもできず衰弱して死ぬ他あるまい。」



 お祖母様の代わりに、竜が答えた。

 その声には冷たい現実が響いていた。



「だが、方法がある。

 話を戻すのだが、お主、我らの頼みを聞いてみる気はないか?」



=====

エ様『お祖母様がでてきおったな。』

門東『ヴィクトルが駆られてしまいましたからね。まさに恋の狩人!』

エ様『話しやすそうだと思ってよんだのに、竜も大変じゃな。』

門東『なんとなく、報酬、わかってきましたよね!』




『ぼく食べ』と異なる時代の同じ世界が舞台のお話、公開停止になった性と愛の女神エロティア様が大活躍するお話、『巨根ハーフ』R18版はこちら(↓)での連載となります。

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