第17話 僕を食べたくないと、僕の上で君は泣いた
震え始めた彼女の指先。
その震えは繊細で、その儚さが僕の心を揺さぶった。
ボタンが外されるたびに、彼女の心内を想像する。
一枚一枚、彼女の服が僕の上で脱ぎ去られていく。
ぱさり、と布ずれの音。
その音は、時間の中で凝縮された彼女の心情を解き放つかのように響く。
もろく、そして儚く。
目を反らすことなど、出来なかった。
彼女の体は月の光に包まれ、その輪郭が幻想的に浮かび上がる。
月が神秘的な力で海を操るように、その美しい光は彼女を導いているようだった。
「それじゃ......始めるわね...」
決意を固めた、硬い表情。
堪えるような瞳。
彼女と重なる肌と肌が熱くなる。
――― そ、それは、、、服を脱いで、、お互いのね、肌と肌全体を、、、
初めて出会った日の食卓での会話。
肌を重なり合わせ、そこから僕たちは一つになる。
彼女の赤くなる顔を思い出し、心の中がくすりとなる。
しかし、触れ合う熱が次第に冷めてくるのに気付いた。
僕の胸に突き出た彼女の手のひらが震えている。
アリアの嗚咽。
その瞳から涙が頬を伝い落ちる。
「あなたを食べたくないよ、、、ヴィクトル、、、」
海のように碧い瞳からこぼれ落ちた涙が、僕の頬を濡らす。
泣かないでアリア、君は人魚だろ?
彼女の頬に手を添え、顔を引き寄せる。
月の光が照らす浜辺で、僕らは初めての口づけを交わした。
・
・
・
初めての、口づけ
啄むような、口づけ
彼にしがみつき、必死に食みあうようなキスを落とす。
これから自分がすることを意識せぬように。
その悲しみから少しでも逃れるように。
最初に一緒になったのは脚。
傷口を消し去るように肌を重ねる。
大丈夫?と聞くと、痛みはないよとの返答。
――― そして、彼の記憶が流れ込んできた。
地底都市での生活。
鏡の前の、まだ幼いヴィクトル。
地上の映像に心奪われる感情。
美味しくなさそうな、ご飯。
繰り返される日々と、ゆっくりと閉じてゆくような絶望。
都市を揺らす振動と黒い炎。
空腹のさまよう山中。
そして、私との出会いと碧い瞳に動く心。
初めて食べるリンゴとお魚への感動。
魚を釣って帰ってきた私の少しドキマキした表情。
――― 腰を擦り付け、一つになる。
寝付いた私の横顔と愛しむ感情。
夜一人見上げた夜空への感動。
草の香りへの愛おしさ。
吐いた血の味への焦燥感。
旅の中、初めて見る動物や植物への驚き。
隣で楽しそうにする私への視線。
洞窟へ二人手をつなぎ駆けていった時の気恥ずかしさ。
私に恋をしていることに気が付いた瞬間。
――― 指と指とを絡ませる。
海獣の話、そして人間と人魚が協働していたことへの驚き。
私の過去を聞いた時の悲しみ。
諦めていた自分の未来と宝石になることへの希望。
神様への幾ばくかの時間についての祈り。
温泉に入れると喜ぶ私への愛情。
一緒に浸かるお湯への喜び。
そして、突然立ち上がった私の姿。
――― 胸を合わせて、抱きとめる。
初めて見る海への感動
海を見つめる私の横顔。
瞳を誉められ、恥じらう私の表情。
シェルターではしゃぐ私。
「一緒に寝る?」と聞かれ、ドキマキする心。
そして、人魚とその力についての資料。
語り合った、将来のことと、生きることへの決意。
アリアと生きることへの決意。
――― 唇が濡れ、二人の舌が絡み合う。
砂浜を共をともに歩く私。
私と見上げる夜空。
太ももに感じた熱い痛み。
私だけでも逃がそうとする思い
私の幸せに対する願い。
――― そして、最後
森のように深い緑色の瞳
私の藍と重ね ―――
――― 私たちは一つになった。
・
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・
最後の彼の記憶。
浮かび上がるのは、泣き顔の私と優しい彼の声。
感じたのは、彼の無念。
『君に出会えなければ、こうして朽ちていくことも受け入れられたかな。』
記憶の中いっぱいの、泣いている私の顔。
彼の声が続ける。
『アリア、君と生きたい、、、』
・
・
・
月の明るい夜だった。
残ったのは、彼のぬくもりが残る衣服。
ズボンはまだ乾ききらぬ血で濡れていた。
手の中に握りしめた緑の宝玉は、彼の瞳のように優しい光をたたえていた。
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エ様『おいゴラァ、ヴィクトル吸収されとるぞ?』
門東『そうですね、海獣ボコしにいきましょう!』
エ様『ハッピーエンド、どうなった!?』
門東『何をおっしゃいます。まだ吸収しただけですよ?』
エ様『???』
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