第15話 海岸 後編
つきのあかるいよるだった。
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月の明るい夜だった。
闇が海を飲み込み、星々が夜空に煌めく時、ヴィクトルと私は手をつないで浜辺へと向かった。
風が少し冷たく私の頬に触れるたび、未来への興奮と不安が交錯する。
「星、見えるかな?」
シェルターから出る前、彼の声に期待と不安が交じる。
「うん、きっと見えるよ。」
私は微笑み、彼を励ます。
しかし、心の奥では、この特別な夜に何をすればいいのかわからずにいる。
夜の海は静かで美しかった。
星々が波間に映り、異世界のような風景を創り出す。
私たちの足元には波の音だけが響いている。
「あそこ、あれは極星だね。」
彼の指が、私たちの未来を照らすように導きの星を指す。
「本当だ!きれい!」
私の心は、彼と共に見る星空の美しさに打たれた。
夜風に彼の体が少し震える。
私は寄り添い、温かさを分かち合う。
「アリア、ありがとう。一緒に来てくれて。」
「私もありがとう、ヴィクトル。一緒にいられて嬉しいよ。」
私の言葉は心からのもの。
彼と共に新しい世界を見る喜びは、言葉では言い表せない。
私たちはしばらく黙って星空を見つめた。
静寂が、心を深く結びるように思えた。
私たちの未来はまだ不確かだけど、きっとこの夜空のように無限の可能性を秘めている。
ヴィクトルと私、異なる世界から来たふたりが一つの道を共に歩んでいく。
「アリア、君はどうして僕を助けてくれたの?」
ヴィクトルの言葉は、心の中にずっと眠っていた疑問を呼び起こした。
星々が波間に反射し、夜の海は幻想的に光り輝いている。
「うーん、なんとなく、かな?目の前で海がどうとか言って気絶しちゃうんだもん。びっくりしたよ。」
私はそう答えるが、あの時に感じた気持ちに向き合う勇気を持てなかった。
彼を助けた理由。
あのとき、彼の瞳に映った恐れと孤独。
――― それは人魚の私がかつて感じた感情と重なり合っていた。
「なんとなく、か。」彼の言葉には微かな笑みが漂う。
「うん、なんとなく。」私は彼の手を握りしめる。
「でも、あなたを助けたくなったんだ。それだけは確か。」
あの時、ヴィクトルの瞳に映った恐れと孤独。
なぜかそれが、私の心の中に隠れていた過去を呼び起こしたんだ。
故郷が海獣に襲われた時、私は初めて真の恐れを感じ、両親との別離はその恐れを孤独へと変えた。
そして、祖母と二人きりで陸上に逃れた時の、取り残されたような絶望感。
彼の瞳に映った恐れと孤独は、そのときの私の感情と響き合った。
ヴィクトルの姿に、過去の自分を見たんだ。
人魚と人間、それぞれの世界での孤独と恐れ。
でも、この夜空の下、私たちはただ一人の人間として、互いに寄り添い、温かさを感じることができた。
彼との約束、新しい未来への一歩。
それらすべてがこの星空の下で、今私たちの心に刻み込まれる。
私は彼を強く抱きしめる。
この感情を、この時を、永遠に忘れないように。
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月の明るい夜だった。
月明かりが砂浜にしっとりと降り注ぎ、夜の海はまるで闇の彼方へと広がっていく無限の道のよう。
星々が波間に反射し、遠くの地平線まで続いているかに見える。
潮風は寒かったけど、彼女の隣にいることで暖かかった。
シェルターへ戻る道中、地面の湿り気に気がつく。
水滴でも落ちたのかと目を凝らすが、どこからも水は滴っていない。
雨など降っていないはずだ。そこに感じるのは、ただの湿り気ではない、何か別の異変の片鱗だった。
「アリア、何かが変だ。」
何かがおかしい。いや、正確に言うならば、何かが違う。
心にぽっかりと穴が開いたような、頼りない不安感が広がっていく。
「ヴィクトル、これは…」
足元に目を落とせば、まるで波が打ち寄せた後のようなぬるぬるとした感触が足元に感じられる。しかし、こんな場所に波が来るはずはない。
不安に駆られながらも、シェルターの扉に向かおうとする。しかし、次の瞬間
――― 太ももに鋭い衝撃が走った。
「っ!」
激痛。
その痛みは、まるで刃物に突き刺されたかのようだ。
見ると、脚を貫いている大きな針。
その針は、何かの生き物のもののように見える。
「ヴィクトル!」
アリアの声が耳に届く。
彼女の顔には驚愕と慌ただしさが入り混じっていた。
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たいようかくれて、でてこない
つきがあかるく、よくみえる
やっとであえた、うれしいな
はりがあたって、たのしいな
あとはにひき、からめとり
ひさしぶりに、まんぷくだ
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エ様『ここで海獣だすか!?』
門東『そろそろタイトル回収かなと。』
エ様『・・・ハッピーエンドなんじゃろうな?』
門東『・・・もちろん。私を信じてください。』
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