第13話 未来

『その炎に飲まれたものは、肉体だけを失う。

 また、灯りに照らされたものの臓腑は腐り落ち、息絶える』



 黒い炎――デジタルアーカイブが幾度となく囁く警句。

 そして、あの日、僕はその炎に照らされた。



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 悪化する体調、咳から混じる血。

 期待する未来などもうない。

 僕は死ぬ運命にあると、自らを納得させていた。


 ただ一つ、その前にせめて、せめて海を見たいとそう願ったんだ。



―― 海



 僕の心の中で描いていたそれ以上の美しさで迎えてくれた。

 だがその旅で出会ったのは、美しい海さえ上回る宝物だった。


 彼女の名はアリア。

 まるで海そのものような碧い瞳。

 無垢で、無邪気で、そして何よりも美しい。


 いつの間にか、僕は彼女に心を奪われていた。



「ヴィクトル…。私と一緒にいてくれないかな?」



 その子が今、一生懸命に言葉を紡ぎ、心細そうに僕がうなずくのを待っていた。



 死を受け入れていた自分の弱い心に、悔しさと怒りが湧き上がる。



―― アリアを泣かせてなるものか。



 死ぬ運命だとしても、この気持ちを捨てることなどできない。

 目の前で惚れた女が、精いっぱいの勇気で望んでいるのだ。

 それに応えず、何が男だ。


 僕の中で何かが変わった。

 死への諦めから、生への執念へと変わる心。



「君に出会えてよかった、アリア。」



 あるいは、そうではないのかもしれない。

 死にゆく身として、彼女との未来など望んではいけないのではないか。


 だが、彼女の碧い瞳は僕を否応なく引き込む。

 繋いだ彼女の手が、僕の凍てついた心を温かく包んでいく。



「僕も、君と生きたい。」



 言葉にして、彼女の手を力強く握り返した。

 心からそう願っていた。


 未来はまだ、確定していない。

 僕とアリアとの未来が、これからどう展開されるのか。

 それは誰にも分からない。


 ただ一つ確かなのは、彼女と共に、生きる道を選んだという事実だけだった。



  ・

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  ・



「僕も、君と生きたい。」



 ヴィクトルの声。

 濃い森のような緑色の瞳で私を見つめ、彼はそう答えた。


 どこかで半ばあきらめかけていた。

 彼はどこかに行ってしまう、そんな気がしていたから。


 でも、今の彼の瞳は、強い決意に満ちていた。



「ヴィクトル…」



 私の声に震えがあった。

 嬉しさの震えだ。

 そっと涙を拭う。



「アリア、僕たち食べてもらえるほどの関係になれたかな?」



 彼が冗談めかして言った。



「馬鹿ね、食べてなんてあげないわ。」



 彼の目には笑いがある。

 でも、その笑いの奥には、真剣な光が見えていた。


 離すものかと、手を強く握る。

 私たちは一緒に未来を歩むのだから。


 シェルターの中のダブルベッドで、ヴィクトルと手をつなぎながら、私たちの未来を想う。


 未来は未定。

 結末は未知。


 ただ一つ確かなのは、彼と共に生きる道を選んだという事実だけだった。



  ・

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 たいようおちた、でてこない

 かたいなかみも、でてこない

 でもまてるから、だいじょうぶ

 みらいはきっと、



=====

門東『いろいろな未来がありますね。』

エ様『何を企んでおる?』

門東『・・・いや、なにも?』




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