第2話(前編)猫野環を女にする作戦⁉︎

俺が寮に来てから一か月が経とうとしていた。


「シュウくんってゲーム上手いんだね」

「衣都ほどじゃないけどな。俺は弟が元気だった時にたまに一緒にやったりしてたくらいだし」

「シュウくんが来てから一緒にゲームする人が出来て嬉しいの」


衣都とは家事をしてない間の時間に一緒にゲームをするくらいには親しくなった。


今日はレースゲームで対決をしている。


「千石さんと猫野さんは一緒にゲームしないんだな」

「スミちゃんは絶望的にゲームが苦手だし、環ちゃんはコントローラーうっかり壊しちゃうから」

「待て、猫野さんは破壊神か何かなのか?」

「バカ力なの、環ちゃん」


確かに前にあいつの部屋見たら寝室というよりジムって感じだったからな。


「はぁ⁉︎ バーベキュー⁉︎」

「うむ、ちょっとした同窓会みたいなものだ」


千石澄香騒がしいな。


「どうしたの? スミちゃん」

「おたまのやつが中等部時代の剣道部の連中とバーベキューに行くそうよ」

「うむ。部員の半分くらいは別の高校に行ってしまわれたからな! 久しぶりに会う事になったのだ」

「それってあの先輩も来るって事……?」

「ああ! 川西先輩も別の高校に進学したからな。もっと剣道に力を入れている高校にっ」

「大丈夫なの? 環ちゃん」

「私が失恋してから結構経つんだぞ? 何を言うっ」


し、失恋⁉︎


「猫野さんの好きだった人がバーベキューに来るのか?」

「ちょっと! 勝手に私らの話に入って来ないでよっ」

「お前が大声で騒ぎ立てるから気になるだろうがっ」

「はぁ?」

「直接振られたわけではない。ただ、先輩が友人と環の事はそういう風に見ていないし、環を女として見る男がいるわけないって話してるのを聞いてしまってな」

「ひどい話よね」

「だが、私は言われ慣れているから」

「でも、おたまがそうなったのってお父さんがおたまを逞しく育ててきたからじゃないっ」

「本当は父は男児を望んでいたが、私が生まれた。母は身体が弱く、私を産んで程なくして亡くなった。色々重なって私に強さを求めたのだろう」


男児のように育てられたからその口調でその強さなのか。


「でもおたまだって女の子じゃない」

「私は父を慕っている。母を亡くした後、私を大事に育ててくれた。私にあらゆる武道を習わせたのも私の為だと理解している。私も母のように赤子の時は身体が弱かったが、今は病にすらならないっ! 父のおかげだ」


猫野さんはお父さんをすごく大事に思ってるんだな。


「猫野さんがお父さんを大事にしてるって気持ちよく分かるよ。うちも似たような家庭環境だから」

「ああ、藤原殿のお宅はシングルマザーであったな」

「ああ。弟が早くに亡くなったからせめて俺はバカみたいに長生きしようって思ってる」

「私と同じだなっ」

「あんたは図太いから無駄に長生きするわよ」

「千石、お前はいちいち一言多いな」

「でも、私はあの先輩を許したわけじゃないわ」

「澄香?」


狸に変化した!


こいつが狸になる時は激しい怒りを感じた時かやたらご機嫌になる出来事があった時のどちらかだ。


「あの時言ったでしょう? おたま。女が男に選ばれるのを待つ時代は終わったの。こちらから選んでやるのよ」

「スミちゃんが安定の女王様気質」

「そうね。たまには役に立ちなさい、藤原柊哉」

「たまにはってなんだよ」

「シュウくんは毎日家事してくれてるし、役に立ってるよ?」

「こないだカレーに一個にんじんが入ってたわ!」

「抜き忘れたんだって。まだ言うか。てか、完食してたじゃないか」

「私は優しいからね!」

「後からにんじん食べてって他の人に言いたくなかっただけだろ。無駄にプライド高いから」

「わ、シュウくん……スミちゃんの事分かってきたね」

「うむ。澄香はそういう所があるな、確かに」

「あんた達、どっちの味方なわけ⁉︎」


狸の姿でぶちギレられても威圧感無いんだよな。


「それで俺にどうして欲しいんだ?」

「あんた、おたまの彼氏の振りをしなさい」

「は?」

「ちゃんとしたらそれなりに見えるんだから、あんた。あんな剣道部のしょうもない事言ってる男よりはマシだもの、ビジュアルは」

「褒められてるのかディスられてるのかよく分からないが」

「だが、そんなお願いをするのは……」

「バーベキューに連れて行くだけよ。設定は彼女が好きすぎてついて来ちゃった束縛系男子」

「わ、私が藤原殿に束縛されるのか⁉︎」

「おたま、あくまで設定だから」

「俺、彼女できた事ないし他人を束縛するような人間ではないんだが……」

「あら、嘘でも彼女が出来るなんて喜ばしい事じゃない」


こいつ、やっぱり腹立つな。


「藤原殿に申し訳ないぞ。私のような女を彼女などと……」

「やるよ、俺」

「やるのか⁉︎」

「その先輩とやらの話、聞いていて俺も腹は立ったからな。猫野さんだって女の子なのに。見返してやろう」

「かたじけないっ」

「ちなみに下手な芝居をしたらあんたは解雇だから」

「容赦ないな」

「というわけであんた達、決行の日までに完璧なカップルになりなさい! 名前で呼び合うとこからね」

「確かに今は堅苦しさがあるよな」


猫野さんは俺を藤原殿と呼んできてるし。


「名前呼びについては一向に構わんぞっ」

「じゃあ、環」

「よ、よ、よろしく。シュウ……」

「顔真っ赤だけど大丈夫か?」

「か、考えてみたら男子を名前で呼んだ事が無いのだった」

「そういう顔してたらやっぱり女の子だな」

「貴様、私に無礼だぞっ」


また竹刀向けられた!


「環、カップルの振りするんだろ?」

「そ、そうだった!」

「まあ、口調を変えろとは言わないわ。その方が不自然だし……でも、環にはもうちょっと乙女になって貰うわ」

「えっ?」

「一時的に自分を藤原柊哉を好きで好きでたまらない女の子だと思って演じるの」

「す、好きで好きでたまらない⁉︎」


まあ、演技ってバレたら笑われて終わりだからな。


やるからには本気でやらないと、俺も。


「一時的にだよ? 環ちゃん。シュウくん好きになるのは一時的っ」

「わ、分かってる。衣都の気持ちは分かってるからな」

「わ、私はそんなんじゃないもんっ」


何の話してるんだ?


「私が手本見せてあげる」


あ、千石澄香が人の姿に戻った。


「手本?」

「ねぇ、どうして私以外の女の子と話すの。私、妬いたんだからね。柊哉くんは私だけ見てなきゃだめだよっ」


千石澄香は俺の手を取り、上目遣いで言った。


「お、おぅ……」


不覚、ちょっとドキッとしてしまった。


「約束だからね! 私だけの柊哉くんでいてねっ」

「お前よく出来るな」

「私は化け狸の一族の娘よ? 演技力においては誰にも負けない自信があるの」


普段俺の事毛嫌いしてるくせに。


「澄香……私にこれをやれと?」

「そうね、このくらいはやらないと大好きって伝わらないわ。今の私、藤原くんに恋してる女の子に見えたでしょ? 本当は生理的に無理なのに」

「お前恐ろしい女だな」

「人を騙すのなら任せなさい」


他の男子だったら即落ちてたな。


「スミちゃんって実はシュウくんの事……」

「衣都? 何バカな事を言ってるの」

「スミちゃんは好きになっちゃだめ! 敵わないもんっ」

「絶対の絶対にありえないから安心しなさいよ。あと、藤原くん。貴方も環を好きで好きで堪らない男の役作り頑張りなさいよ」

「分かった。芝居だってバレないように頑張る」


とはいえ、誰かを好きになった事が無いんだよな。


「シュウ! 私を女にしてくれ」

「その言い方は誤解を招くからやめような」

「本当は一人で行くの不安だったからシュウが一緒なら良かった」

「そうか。でも、千石さんはやたらお前に親身なんだな?」

「私が失恋を味わった数日後に先輩も澄香に振られている」

「よりにもよって先輩が好きな相手千石澄香かよっ」

「あんなにこっぴどく振る澄香は初めて見た」

「相当怒りを感じたんだな」

「狸化しかけたから私が止めに入った」

「しかも現場にいたのかよ」

「た、たまたまな」


何その地獄のような状況。


「学園では滅多に狸化しない私が危なかったわ」

「本当に仲良いな、お前ら」

「私達は妖だから妖同士にしか持てない絆があるわけ。私達の先祖の中には人間に殺された者もいる。だから、心の奥底では人間を信頼し切れないわけ」

「でも、シュウくんは私の家族よりもずっと優しいの」

「うむ! 私の恋人の振りを引き受けてくれたしな!」

「私は絶対に人間なんか信じてやらないわよ。かちかち山とかいう作品を生んだのも人間だし」

「かちかち山……」


小さな頃に読んだっけな。


「狸に悪いイメージがつくじゃない!」

「いつの話してんだよ。人間つっても大昔の人間が書いた作品だろ」

「でも今でもタヌキはキツネと並んで悪いイメージじゃないっ」

「スミちゃん、幼稚園の時にかちかち山読んで泣いちゃったから」

「なんだよ、可愛いとこもあるじゃないか」

「そういう可愛いは求めて無い!」


やっぱり千石澄香だけは人間不信が強すぎるらしい。


「ありがとうな、澄香。ずっと私の事を心配してくれて。澄香は物語の狸とは違うから安心したまえ」

「当たり前でしょ! おたま、バーベキュー当時は私があんたを超絶美しくしてあげるから任せなさい。でも……その前に可愛らしい服装に慣れなきゃね」

「か、可愛らしい服装?」

「まさかいつものカジュアルな服装で行くつもりだったわけ?」

「バーベキューだからな」

「バーベキューって言っても肉やら野菜を焼いて終わりでしょ! スポーツするわけじゃないんだからワンピース着てもいいのよ」

「だが、私は制服以外でスカートやワンピースを……」

「だからギャップ萌えになるんじゃないの」


確かに環はいつもTシャツにパンツが多いな。


「環ちゃんがそういうの着てるの見てみたい」

「というわけで藤原柊哉。あんた、次の土曜日は環とデートしなさい」

「は?」

「環を女にするんでしょ? やりなさい。追い出されたくなければね」

「土曜日はツッチーと遊ぶつもりだったんだが」

「私の言う事聞けないわけ! バーベキューまでそんなに日がないのよ?」

「分かったよ。澄香様」

「分かればいいのよ」


やっぱり偉そうだな。


でも、デートって何をしたらいいんだ?


した事ないからわからん。


「ツッチーはデートした事ある?」

「はぁ⁉︎ お前、モテない俺になんて質問をっ」

「悪かったって」

「シュウ、お前デートするのか⁉︎」

「なんか流れでそうなった」

「だめだ! シュウに彼女出来たら誰が俺に構ってくれるんだ? だめだからな!」

「お前、そういう暑苦しい感じがだめなんだと思うぞ」


学校でツッチーに聞くも参考になるアドバイスは聞けなかった。


まあ、なるようになるしかない。


環も恋愛には疎いし、丁度いい。


でもこれ、寮監の仕事ではないよな。


「ん?」


衣都からメッセージ?


『今日、シュウくんと一緒にご飯したい』


そういえば、ツッチー今日はサッカー部の集まりが昼にある日だったな。


『分かった。中庭な』


そういえば最近、衣都元気ないな。


いつもはやたらゲーム一緒にやりたがるのに最近はやたら部屋にこもってる。


「衣都ー、お待たせ」

「シュウくん、遅い。私、ずっと待ってたんだからね」

「なんだ、そのキャラ……」

「せっかく二人きりになれる時間なんだよ? もっと大事にしてよ」


衣都は俺に突然抱きついてきた。


「衣都ーっ⁉︎」

「どうかな……こういう私」

「どうって。お前まで千石澄香化したのかっ」

「ずっと研究していたの。どんな女の子が魅力的かギャルゲーで」


ぎゃ、ギャルゲー⁉︎


「ずっと篭ってそんな事をしていたのか」

「シュウくんに私を見て欲しくて」

「そのキャラやめろ。さっきまでクラスで散々あざと女子は見てきたんだ」

「スミちゃん?」

「あざとい女がトラウマになりつつある……」


裏があるって思ってしまって。


「スミちゃんってそんなクラスで違うんだ」

「いつもの衣都が良い。大人しくてちょっと変わってる衣都で」

「そっか」

「最近元気無かったし、心配してた」

「だってシュウくんが環ちゃんとデートするって言うから」

「それは千石澄香に脅されたからだけどな」

「環ちゃんの事は私も心配だけど、シュウくんはルールを破らない自信あるの?」

「えっ」

「だって環ちゃんだってスミちゃんに負けないくらい可愛いもん」

「ルールを破って俺が寮を辞めちゃうんじゃないかって不安に?」

「えっと……」

「大丈夫だ。俺は仕事は責任を持ってやる! ルールだってちゃんと守るつもりだ、しっかり3年間」

「でも私達の誰かがシュウくんを好きになったら?」


3人の内の誰かが俺を?


「無い無い。俺は今迄モテてきた覚えがないし、それに平々凡々の庶民男子だからお嬢様のお前らにはつり合わない」

「わ、分からないよ。恋愛なんて理屈じゃ無いってドラマで言ってた」

「心配してくれてありがとうな。衣都はすごく優しいな。衣都はどこかうちの弟に似ているな」

「へ?」

「だから、一緒にいて落ち着く。まあ、あの二人とはまだ親しくなれてないし……衣都が寮にいてくれて助かってるよ」

「だ、だからそういうとこなのっ」

「何が?」

「もういい」

「さっきのは試したんだろ? 俺が抱きつかれたらどんな反応するか」

「えっ」

「大丈夫だ。俺は絶対ルールを破らない」

「ドキッとしたって言って欲しかった……」

「あはは。ごめん、せっかく頑張ってくれたのに」


ドキッとしなかったと言えば嘘になるけど、男だし。


でも、俺は絶対3人を好きにならないと決めて寮監をしているわけだから信頼して貰わないと。


「ご飯食べよう」

「あ、ああ。そうだな」

「シュウくんの作ってくれたお弁当をシュウくんと二人で食べる幸せ」

「今日は和食づくしにしてみたんだ」

「シュウくん」

「ん?」

「あーん」

「えっ。まだ俺試されてる⁉︎」

「試してない。私がしたいだけ」

「そういうのは恥ずかしいからやめような」

「私達しかいないのに? だめなの? 良いでしょ?」


グイグイ来るな。


「い、一個だけだぞ」


俺は衣都に玉子焼きを食べさせてもらう。


「こうしてると私達カップルみたいだね」

「へ、変な事を言うなっ」

「でも、本来なら私が作ったお弁当をシュウくんに食べさせるべきなんだろうけど」

「まあ、料理担当は俺だからな」

「だから、いつか私がお弁当作ったらシュウくんにまたあーんしてあげる」

「えっ」

「楽しみにしててね」


元気にはなったみたいだな。


「衣都、帰ったらまたゲームやろうな」

「じゃあ、シュウくんも一緒にやる? ギャルゲー」

「そっち⁉︎ 俺に出来るかな」

「朝までコースになるけど、ヒロイン1ルートシナリオが長い」

「そ、そんな持久力はないかな……俺。格闘ゲームかレースゲームで」

「ちぇっ」


でも話しやすいからって衣都とばかり仲良くするのは良くないよな。


千石さんは俺と衣都の仲を疑ってるとこあるし。


「違う! また男っぽい仕草になってる。もっとあざとくなりなさい、環」

「あざとい事をした事が無いから分からないのだ、澄香っ」

「とにかくスキンシップ、上目遣い、褒める」

「い、異性にスキンシップなぞしたら猫化してしまう!」

「しないように頑張るの」

「澄香ー!」


買い物をして帰ると、環が千石さんにしごかれていた。


「ちょうどいい所に帰ってきたじゃない」

「ただいま。何やってんだ?」

「環を女子らしくする訓練よ」

「あざとくしろとか聞こえたが、俺はもうあざといのはお前でこりごりなんだが?」

「は? てか、あんた! 写真撮らせなさい」

「俺の写真?」

「そうよ。環の部屋の壁一面にあんたの写真やらポスターを大量に貼るの」

「何のために?」

「一時的にあんたを好きで好きでたまらないって刷り込む為に決まってるでしょ」

「それ、さすがに環が可哀想……」

「やるからにはとことんやるのよ。あの男が環を彼女にしなかった事を後悔する顔見てやりたいじゃない」


うわ、黒いオーラ出てる。


「バカみたいに写真撮られた」

「うん、早速ブロマイドとポスターにしないとね」

「私も……シュウくんの写真欲しい」

「衣都⁉︎」

「ブロマイドとポスターにするの私がやるから」

「た、確かに私は機械音痴だしオタ女子の衣都のがそういうの慣れてるものね」

「任せてっ」

「でも何で欲しいわけ?」

「わ、私! 絵も描くヲタクだから。男子の参考資料にするの」

「そう?」


衣都は何でも出来るんだなぁ。


「というわけで、衣都に作って貰ったポスターを環の部屋に大量に貼ったわよ」

「部屋だけ見たらストーカーの部屋みたいなんだが」

「そして、そのブロマイドは常に持ち歩いて。暇さえあれば見る事」

「こ、これも修行の一つであるな」

「環、お前は何で一切拒否らないんだよ」

「澄香の言う事を聞いておけば間違いないからな。私より頭が良いし!」

「でも、千石さんも恋愛経験は……」

「細かい事は良いのよ」


そうこうしている内に環とのデートの日がやってきた。


千石澄香に先に待ち合わせ場所の駅の時計台の下で待つよう言われたんだよな。


デートのドキドキ感をお互い味わう為とか。


あいつら、寮内恋愛禁止ってルール作っておいて無茶苦茶だな。


「ま、待たせてごめんなさい」

「た、環⁉︎」


いつもポニーテールにしている黒い長い髪を下ろし、ナチュラルメイクをし、花柄ワンピースにハイヒール…….まさに清楚系女子になった。


普段はTシャツにパンツなのに。


「変じゃ……ないかな?」

「いや、びっくりした! お前変わるもんだな」

「シュウの為に準備……頑張ったんだよっ」


でも、かなり話し方無理してるな。


「話し方はいつも通りで良いぞ」

「でも、女の子らしく見えた方が……」

「無理してる感があると例の先輩とやらにバレるって。お前の話し方はよく知ってるんだから」

「そ、そう……か」

「俺と本当のカップルに見えるくらい仲良くなれば良いんだし、そのビジュアルなら強烈なインパクトも残せる。普段のお前とはギャップがあるからな」

「シュ、シュウともっと仲良く⁉︎」

「俺も環も寮ではそんなに関わらないだろ。お前は部活で忙しいし、寮でも部屋でひたすらトレーニングだし」

「そ、そうだな。今日一日で親しくなり付き合ってる演技に見られないようにすれば良いだけだ」


しかし、ずっと下見てるな。


「どうした? いつも人の目を見て話すお前がずっと俯いて」

「だって……こんな格好にメイク、初めてだから! やっぱり私じゃ似合わない気がして」

「俺はお世辞が嫌いだから一切お世辞は言わない。環、今のお前は誰がどう見ても清楚で可憐な女の子だ」

「シュウも私を可愛いと思ってるのか⁉︎」

「まあ、俺も可愛いと思わなくはない」

「本当の本当に可愛いか⁉︎」

「か、可愛い! な、何度も言わせるな」

「良かった。笑われるんじゃないかってずっと不安だったんだ」


は?


「一生懸命な奴を笑うわけないだろ。それにお前、本当はこういう格好したかったんじゃないか?」

「えっ」

「この前、千石さんに服選んで貰う時に瞳が輝いてた」

「よく見ているな」

「寮監の監は監視の監だ。寮生の事はしっかり見ておかないとな」

「本当は……嬉しい。父にはこんな姿見せられないが」

「別に我慢する必要も無いだろ。似合うって分かったんならこれから堂々と着られるだろ」

「また着たらシュウは褒めてくれるか⁉︎ 変じゃ無いかチェックしてくれるか?」

「まあ、不安な内はそうすれば? 別に何着ても変にはならないと思うけどな」

「じゃあ、そうするっ!」


3人の中で一番背も高いし、スタイルも良いし、顔もあの二人に負けないくらい整ってるし、モデルにいてもおかしくないんだよな。


だけど、今迄の育ちのせいで自信無いんだな。


「ヒール慣れてないだろうから、俺の腕掴まって良いぞ」

「そ、そんな事したら猫化してしまうやもしれんっ」

「だが、カップルの振りはしなきゃだし」

「わ、分かった」

「猫耳出てるぞ」

「す、すぐしまうっ! ふぅ、これは澄香による洗脳だ……私がシュウを好きでたまらないとなる洗脳……感情を冷静に……」

「何ぶつくさ言ってるんだ?」


とりあえず猫化しないよう気をつけてもらわないとな。


「どうしてついていくの? スミちゃん」

「私は環のプロデューサーだからねっ」

「何で私まで……」

「さて、あいつはあの環を見て惚れるかしら? 惚れたら追い出す理由が出来るわねっ」

「シュウくんのバカ」


視線を感じたけど、気のせいか?


とりあえず、環とのデート開始だ。


寮監の仕事の範疇は超えてる気がするが。

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