うたそら八首連作「夜に潜る」
春先に母を亡くして、Twitterで再三落ち込んでいる様を晒してしまったことは、今となっては反省している。落ち込むことはあるけれど、私は元気です。
死を詠む方はたくさんいるし素敵だとも思うのだけど、私は普段あまり詠まない。特段詠もうとも思わない。イマジナリーで恋や死や子育てを詠んだとして、わたしはその歌を心の底から愛することはできないと思う。
母の死に直面してから数ヶ月はほんとうに夜が辛かった。わかりやすく辛い、というよりは、何を想うでもなくふいに涙が溢れることが何度もあった。そういう時の心情にはもちろん「悲しい」が根底にあるのだろうけど、泣きながら冷静に「この心情はなんなんだろう」と思ったりもした。自分でも忘れているものが、心の(ここではどうでもいいが、“心“という言葉は便利すぎて私が歌に使うと陳腐になりがち)深く深くで微振動している感じ。
「夜に潜る」は母の死と向き合う自分を、ドラマチックにしたかったわけじゃない。毎夜感じていた微振動の発生源を探るような連作だった。ただごと歌ではないけれど、ただごと歌のように詠んでいた。※英雄のポーズは寝る前の習慣
守りたいものがこの手に多すぎる英雄のポーズふらついている
(ちゃんとある、戻る場所なら) 夜に潜る 隣の寝息に合わせて、ひとり
入れ子のような記憶を開けては散らかしていったい何を忘れてるっけ
2011/3/12病室のテレビに「生かされている」と教わる
サミシイという鳴き声をGoodbyeの意味だと知らずに茶化してごめん
短歌など趣味にしたからオパールを涙に喩える感覚障害
不意にリールを巻かれるように目が覚める闇に毛布を分けてください
隙間から夜明けが漏れるここからは君との朝餉を浮かべる時間
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