短歌ぽろぽろ
北谷雪
うたそら八首連作「森のひとびと」
高校の時の担任は美術の先生で、「ガリ」と呼ばれていた。本名は雅利(マサトシ)なのだが、なんでも元より両親が「ガガーリン」から取って付けた名前らしく、第二の名前として自らを「ガリ」と名乗り、そして誰もが「ガリ」と呼んだ。
もはや教師と画家とどちらが本業なのかわからないような先生だったが、あいにく私は美術部員なわけでもなく、絵について指導されたことはない。そして彼が私を覚えているとは到底思えない。
ただ、彼のモジャッとした髪型や、ぼそぼそした喋り方や、普段の雰囲気からは想像つかないような絵や、棲家としていた美術室の独特な匂いを、ときどき不意に思い出す。
彼は異国のひとのようだった。
否、異国というよりは、森のひと、だった。
カンヴァスは未開の王国 空想が求愛のように羽を広げる
パーカーから枝葉の繁る森の匂い絵の具まみれの美大生ゆく
美術室は完璧だった あまり1、みたいな椅子と先生がいて
夕暮れの陸上部員を見下ろして絵筆を握ったままに手を振る
絵の中を“向こう“と呼んだ門番のように額縁専門店の主人は
コンクリートジャングルの葉陰にひっそりと王の広間へ続くギャラリー
学芸員は人差し指をくちびるへ(囀る鳥を撃ち落とすごと)
ままならない大人になれたら描けそうで画廊の一角予約しておく
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