20.蜘蛛の巣に掛かるセミ
人狼の館での顛末――
アリシアの強化を受けた柴犬コボルトは狼男を圧倒していた。
戦いを終えた柴犬コボルト達はねぐらに戻っていった。
そしてクガはというと、グレイと眷属の契約を交わした。
クガはグレイから指輪を貰った。
これでグレイをいつでも呼び出せるとのことだ。
いつ何時、如何なる状況でもお呼びください。できれば一日最低一回はお呼びください……とのことであったが、クガはしばらく使うことはないかなと思っていた。
逆にグレイからも呼び出すことができるとのことであった。
呼び出される側の意思で拒否することも可能とのことであった。
◇
数日後――
アリシアの仮住まいにて。
「今日は何をするんだろうなー、クガの元仲間」
その日は、クマゼミの配信の通知が来ていた。
アリシアが観たいというので、再びクマゼミの配信を観ていた。
◇
地下37層――
その日、クマゼミは地下37層の結晶の洞窟に、鉱石の採掘に来ていた。
新メンバーである神官のサイオンの杖の強化に必要な素材を入手するのが目的である。
「今日は採掘中心なので、あまり戦闘になるようなことはないかと思いますが、前回の配信では、少々、連携に難がありましたので、メンバー内でしっかり意識統一をして参りました」
サイオンがリスナーに向けて、そんなことを言う。
「メンバー達もしっかり僕の指導を受けてくれて、及第点には達していますので、安心してご覧ください」
<サイオンさん、流石~>
<それなら安心して観られるね>
<なんだかなー>
<うーん……>
その後方で、剣聖のセラと聖女のユリアがピッケルを振り回している。
採掘担当のセラとユリア、見張り担当のミカリとサイオンというように分担しているようだ。
セラとユリアは言葉を発することなく、黙々と作業している。
「ミカリさん、僕が加わってから今日、初めて見に来てくれた方もいるでしょうし、せっかくだから、リスナーの皆さんに僕のことを紹介してくれないかい?」
「あ、そうですね。えーと、新メンバーのジョブ:神官のサイオンさんです。パーティでも重要な役割であるヒーラーを担当してもらっています」
ミカリはニコニコしながら紹介する。
「うんうん……それから……?」
「それから? あ、えーと……サイオンさんはメンバー斡旋所に相談させてもらって、運……よく、斡旋してもらえました」
ミカリはニコニコしている。
「うんうん……それからそれから……?」
「それから? ……えーと、サイオンさんはかの有名なS級パーティ第一位のルユージョンさんが相談役を務めている探索者育成スクールのヒーラー部門でS級相当の評価を得ている非常に優秀なヒーラーのスペシャリストになります」
ミカリはニコニコしている。
「うんうん……ミカリさん、ありがとう。来てくれている方も多いからすでにご存知かもしれないけど、前のパーティではボス戦で僕だけが生き残ってしまうという少々、不本意な結果になってしまった」
サイオンは自分語りをする時の癖なのか、後ろに手を組んで、歩き回るようにしながら語る。
<そうだね……あれは残念だったね>
<他のメンバーには悪いけど、サイオンさんだけ実力が突出してたんだよ>
<そういう意味ではこのパーティもちょっと心配だけど……>
「皆、僕を応援するのは有り難いけど、パーティを貶すのはやめてくれ。元のパーティも今のパーティもだ」
<サイオンさんは人徳者だなぁ>
<決して人のせいにしないの聖人だよなぁ>
「いやいや、そんなことはないよ。いずれにしてもこのパーティをS級に押し上げるのが僕の使命だと思っている」
「……」
ミカリはニコニコしている。
<ミカリン、ちょっと怖いよ……>
「だから、リスナーの皆、ますますの応援よろしくお願いします!」
<サイオンさんならできる!>
<どんなパーティにいたって応援してるよ>
サイオンは足を止め、ドローンに向かって、右手を振り上げる。
と……
「ん……?」
サイオンの振り上げた右手に何やら粘々したものが付着する。
「これは……クモの……っう、うわっ」
右手についた蜘蛛の巣が全身に拡がっていく。
「な、なんだこれは……!?」
<え? どうしたの? サイオンさん……?>
<異変発生>
<エマージェンシー!>
「うわ、どうしたんですか? サイオンさん」
ミカリもサイオンに何かが起きていることに気づく。
「こ、これって……まさか……
「ワープ……!? う、うわぁあ…………」
ワープエフェクトと共にサイオンの姿が消滅する。
「どうした!?」
採掘をしていたセラとユリアも何事かが起き、サイオンの姿がないことに気が付く。
「サイオンさんが
「
<マジか……>
<アラクネ……か……>
<S級ボスの……>
これまで同様の罠で数名が犠牲になっている。
<なにやってんの?>
<早くサイオンさんを助けに行きなさいよ!>
「……っ……行くぞ」
セラがそう言うと、ミカリは頷く。
セラ、ミカリ……そしてユリアが右手を蜘蛛の巣に手を突っ込む。
三人はワープエフェクトに包まれ、姿を消す。
◇
「ここがアラクネの巣か……」
三人が降り立つと、そこは洋風の館の内部であった。
ちょうど人狼の館と似た構造であり、どうやら玄関から入ってすぐのホールのようであった。
しかし、玄関は蜘蛛の糸のようなもので塞がれ、少なくとも玄関からの退場は難しそうだ。
「あ……」
先にワープしていたサイオンは三人の姿を見て、ほっとしたような表情を見せる。
地下45層、S級ボスのアラクネの館――
クマゼミの四人はそこにいた。
そして……
「四匹も来てくれたか……豊作豊作……」
「っ……!」
四人が見上げた先、左右脇から上階へと延びる段上には、上半身が人間の女のような姿、下半身が蜘蛛のような姿の魔物が邪悪な笑みを浮かべている。
アラクネだ。
本来の蜘蛛と異なる点として、下半身の脚は六本である。
人型の両腕の二本と合わせて、八本となっている。
人間の女の部分は紫がかったごわごわした暗い髪が背中まで伸びている。
そのアラクネが飛び跳ねるようにして、階下のホールに降り立つ。
「っ……」
アラクネを目の前にして、クマゼミの四人は緊張した面持ちである。
S級ボス……それは先日起きたクガの例外を除き、今まで5パーティしか撃退を成し遂げていない"壁"である。
そのS級ボスに準備なしで対峙せざるを得ない状況に陥ったのだ。
<S級、マジか……>
<今日がクマゼミ最後の日になるかもしれないのか……>
<長く配信を観ているが、終わるときはいつも唐突だ>
<いやいや、負けが決まったわけじゃないっしょ!>
<サイオンさんがいるからきっと大丈夫>
<よかったな、サイオン。早速、S級に押し上げる機会が来たじゃないか>
<がんばえー>
<ちょ、それクガ笑>
リスナー達もそれぞれの反応を示す。
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【あとがき】
もしよければ作者の別作品もお読みいただけると嬉しいです。
「ダンジョンおじさん」
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