19.実質眷属

「な、な、なんで?」


 アリシアは口をパクパクさせるようにしながら、眷属了承の理由を確認する。


「だって……」


 人狼はもじもじしながら頬を染める。


「だって……優しかったから……」


「っ!?」


「クガさんが私を連れ出してくれた時……『大丈夫か』『よく頑張ったな』『心配するな』と何度も励ましてくれたのです……私、そんな優しい言葉を掛けてもらったのは生まれて初めてで……」


 <え、それだけ?>

 <おい、それだけなら俺でも言えるぞ>

 <たったそれだけのことで?>

 <クガ、そこ代われ>


「……っ」


 理由の実施難度の低さに、怒りのコメントが溢れ、クガは苦い顔をする。


 しかし……


「……な、何だって……? 私はそんな言葉、掛けてもらったことないぞ」


 アリシアは別方向でクガに抗議する。


「いや、アリシアは一度もそういう状況に陥ったことないだろ」


「ぬ……? た、確かに……」


 アリシアは何かを考えるように少し俯く。


 <おいおい、吸血鬼さん、急に静かになってどうした>

 <何人か犠牲になるかもしれない予想を言ってもいいか?>

 <や、やめるんだ>

 <吸血鬼さん(私も少しか弱いフリをした方がいいのだろうか……)>

 <ちょっと横になります>

 <チャンネル登録解除、さよなら>


「な、何を勝手なことを言っているのだ! そんなこと思って……ない」


 <今の間はなんだ?>

 <チャンネル登録解除、さよなら定期>

 <ニヤニヤ>

 <こいつは追放されて当然>


 と……


「グレイ……」


「「っ!?」」


 部屋の外からアリシアと対峙していた大型の人狼が現れる。


「お前……まだ足りぬか……?」


 アリシアがそんなことを言う。


 が……


「あ、お兄ちゃん」


「「っ!?」」


 <あー、ご兄妹でしたか>

 <言われてみると確かに似てるかも>

 <グレイは人狼ちゃんの名前かな?>


「グレイ……これは一体、どういう状況だ?」


「お兄ちゃん、私……運命の人を見つけたの! 私、この方の眷属になる!」


「っ!? な、なんだと……!?」


「この方なんだけど……」


「……グレイ……お兄ちゃん、小さくはないダメージを受けて、目が少しおかしくなっているのかもしれない。グレイが指差しているのが人間に見えるんだ」


「合ってるけど」


「ちょっ! グレイ……まてまてまて、正気か!?」


「とても優しい人で……ほとんど一目惚れだった」


「ひ、一目惚れ……!? ぐ、グレイ……落ち着くんだ……一目惚れなんて碌なことにならんぞ! ひどい浮気性でDV男の可能性だってあるんだぞ」


「……」


 言いたい放題だな……とクガ。


「第一、相手はどう思っているんだ!? グレイの一方的な想いになっているんじゃないか?」


 <どの口が言ってんだ笑>

 <確かに似てる。盲目的なところが>

 <クガはやべえ奴に好かれやすい>


「一方的でも構いません! というかお兄ちゃんの意見なんてどうでもいいです。ひとまず私はクガさんの眷属ってことでよろしいですか?」


 グレイがクガ、あと同じ方向にいるアリシアの方を見て、確認する。


「んー……私の眷ぞ……」


「嫌です」


 アリシアの発言の途中で、人狼はニコニコしながら即答する。


「……まぁ、いいか! 私の"何者か"の眷属なら、これもう実質、私の眷属でしょ」


 アリシアはよくわからない理論を展開し、メモに書き込んでいく。


 =========================

【SS級ボスになるには】


【済】侵略者を30人狩る

【済】A級パーティを狩る

 ・S級パーティを狩る

【済】眷属を従える(S級ボス) ← NEW

 ・ボスの城を構える

 ・SS級ボスの枠を空ける

 =========================


 いいのかそんなざっくりで……? と思うクガであった。


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