18.vs人狼
「大丈夫か?」
「……はい」
ひとまず言葉はしゃべれるようであった。
その女性は比較的若く見えた。
といってもダンジョンにはアンチエイジング効果があると言われており、特に女性でダンジョンに潜っている者は実年齢よりかなり若く見えるため、実際の年齢を推定するのは難しい。ダンジョン探索にそこそこ女性が多い裏の理由である。
また、人狼の趣味なのかひどく傷んだ服を身に着けており、クガは多少、目のやり場に困る。
「ひとまずこっちへ」
「あ……はい」
クガは彼女をひとまずもぬけの殻であった別の部屋に避難させることにする。
◇
「っ……!」
紅の触手が人狼に襲い掛かる。
人狼は頑強な爪でそれを弾く様にして防ぐ。
<やっちゃえ、吸血鬼さん!>
<魔物同士のガチバトルって初めて見るかも>
<悪役vs悪役って意外と燃えるな>
クガはアリシアの方にドローンを残していた。
理由はシンプルで絵面を考慮してのことだ。
「悪役じゃないっての!」
アリシアはコメントに少し不満気ではあったが、攻撃の手を緩めることなく、人狼を攻め立てる。
「っ……」
やや劣勢に立たされている人狼は、力強く地面を蹴り、触手から逃れるべく、横に逸れる。
「っ……!」
が、しかし、アリシアは瞬間移動で以って、その距離を詰める。
人狼は避けることを諦めたのか、その鋭く巨大な爪をアリシアの華奢な身体に向けて、振り下ろす。
しかし、そこにアリシアの姿はない。
「……遅いな」
再び瞬間移動を使い、今度は人狼の背中を取る。
人狼はすぐさま下がりながら反転しようとする。
しかし……
「ぐぁあ!」
アリシアの触手の先端、紅の刃が人狼の身体を捉える。
「い、痛えぇ……」
人狼は左太もも、脇腹を損傷している。
<つっよ……S級ボスを圧倒か……>
<ボス強さ考察でも吸血鬼さんはS級ボスより強いってされてたけど、まさかここまでとは>
<うぉおおおおお! 俺達の吸血鬼さぁあああん>
「うーん……」
コメントの盛り上がりとは裏腹にアリシアはどこか釈然としない様子であった。
「お前さ……なんか弱くないか?」
「っ……!」
<えっ……? どういうこと?>
<確かにいくら吸血鬼さんが強いとはいえ、S級相手に圧倒し過ぎか>
「お前……本当にS級ボスか?」
「……クックック……いつ誰が僕がS級ボスだと言った?」
「……!?」
「そういえば、君が連れていた人間……戻ってくるのが遅くないか?」
「っ……!!」
<あ、クガ……(察し)>
<いつも災難だなぁ、クガは……>
◇
「ねぇ、お兄さん……人狼ゲームって知ってますか?」
「……?」
女性がそんなことを聞く。
なんだか随分と余裕があるのだなとクガは思う。
「あ、あぁ……やったことはないが、概要はな……」
「あのゲームって、人に化けた嘘つき人狼が夜に村人を襲うんですよね……」
「そうなのか……細かい設定までは知らなかったが……」
「ねぇ、お兄さん……」
「ん……?」
「えーとですね、私が人狼なんですよ」
「……?」
◇
クガはどこに行った……
アリシアは急いで部屋を出る。
偽人狼はしばらくは動けないであろうレベルに痛めつけた。
「クガ!」
アリシアはひとまず一番近くの扉を開く。
しかし、もぬけの殻だ。
「っ……」
アリシアは唇を噛みしめ、次の扉へ向かう。
次々と扉を開けていくアリシア。
そして……
「っ……!」
<あっ!>
<よかった、まだ生きてる>
8つ目の扉の中にクガと女性はいた。
「クガ……!」
「……お、アリシア……どうした? そんな顔して……」
アリシアは今までに見たことないほど、焦燥を浮かべていた。
「気を……気をつけろ! そいつが本物の人狼だ!」
「あ……うん……さっき聞いた」
「あぁ……! …………え?」
アリシアの顔から急にこわばりが解ける。
「じ、実はな……彼女からカミングアウトがあってな」
「COっていってくださいよー!」
「あ、うん……CO……」
<本当にこの子が人狼なのか>
<なんかよく見ると、かわいいな>
<俺は最初から気づいてた>
<後だし乙>
<いや、かわいいことにはガチで気づいてたから>
<そっちか、すまん>
リスナーから可愛いと評される人狼は、身長は155センチ程度で魔物としてはやや小柄。
白銀のショートボブに銀の瞳で、アリシアに劣らない程、整った顔立ちをしていた。
「それで少し戦ってたら、クガさんが私を眷属にしたいって言うから……」
「いや、何度も言ってるけど、俺じゃなくて、アリシアな……」
「なので、了承しちゃいました」
「は……? えぇええ゛ええ゛ええ!?」
<は……?>
<は……?>
<クガは魔物の美女に好かれる星の元に生まれたのか?>
<許せん。決めたぞ。クガとかいう背信者は俺が始末する>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます