21.もとめん
「定石通りいきますよ……」
アラクネを前にし、サイオンがそのように呟く。
従うように、クマゼミは陣形を整える。
セラが前に出て、残りの三人が後ろ。
ツイン・スケルトンと戦った時と同じ陣形だ。
「
魔物との闘いは誰かが"よーいドン"を言って、始まるものではない。
ミカリはアラクネからの先制攻撃を待たずして、防御上昇の付与魔法をサイオンに掛ける。
「くらいなさい……!」
それを待っていたわけではないだろうが、アラクネも攻撃を始める。
ご挨拶とばかりに後衛に対して、糸の塊のような弾丸を五月雨に飛ばしてくる。
「せいやっ!」
後衛の防衛はユリアが担当している。
その杖で以って、弾丸を叩き落とす。
<うおぉおおおお! 流石、ユリア!>
<ナイスミート!>
<でもちょっと物足りない……>
<ゴリア様が見たいなぁ……>
そんなコメントの間にも、アラクネは攻撃の手を緩めない。
今度は蜘蛛の脚による踏みつけ攻撃で、近接しているセラが攻め立てる。
「っ……!」
セラはロングソードで応戦するが、アラクネの六本もの脚による連続攻撃に対応しきることは困難であった。
「ぐはっ!」
そして、左肩の辺りに一撃を受けてしまう。
「
それを見てか、サイオンがセラに治癒魔法を掛ける。
<出た! サイオンさんの上級治癒魔法、自動治癒>
<これで小さなダメージは無視できるはず!>
「
ミカリが次の魔法を使えるようになったため、敏捷性上昇の魔法をセラに掛ける。
<ナイス、ミカリン!>
<これでセラもなんとか対抗できるかな>
<個人的にはセラへの加速が先でもいい気がするが……>
<素人はだまっとけ>
と……
「なるほどなるほど、そいつがヒーラーね……」
「「「「っ……!」」」」
アラクネの発言に四人は身構える。
「人間のパーティと対峙したならば、ヒーラーを狙うのが定石……」
アラクネはそう言って、サイオンを見定める。
防衛役のユリアは杖をぎゅっと強く握る。
「凡庸な魔物までならな……!」
「「「「っっ!?」」」」
アラクネは強靭な太い糸を放出する。
その糸はサイオン…………そして、ミカリを狙っている。
「一体ずつじゃなくて、同時に仕留めればそれでいいのよ!!」
「っ……」
ユリアは判断を迫られる。
セオリーを取るなら、ヒーラーを優先で守る必要がある。
しかしだ……格上相手にセオリー通りで勝てるのだろうか?
格上に勝つためには、どこかでリスクを取る決断を迫られることがある。
即ち、"これくらい単独で、なんとかしてくれないと
「ユリアさん、僕を護って!」
「っ……!」
……
「ありがとう……ユリアさん」
結局のところ、ユリアはセオリーを守った。
「……ミカリは……」
ユリアは事実上、見捨てた方のミカリを見る。
「大丈夫……」
ミカリはなんとか自力で糸から逃れていたようだ。
「ふふふ……」
「っ……!」
しかし、アラクネは不敵に微笑む。
「逃れたつもりかしら? "同時"ってのは何も二人って意味じゃないわよね?」
「っ!?」
その言葉で気付く。
ユリアに、透明度の高い糸が付着していることに。
アラクネは二本の視認性の高い糸に紛れ込ませ、視認しにくい糸を紛れ込ませていたのだ。
「きゃぁあああ」
「「ユリア!!」」
付着した糸を辿るようにして、大量の糸がユリアに襲い掛かる。
「っ……」
ユリアはがんじがらめの糸に捕えられてしまう。
「あぁ……ユリアさん……」
<あーあ……>
<下手こいたなぁ>
「皆、ユリアさんのミスを責めないであげて……」
サイオンはコメントに対して、そんなことを言う。
<は?>
<そもそもユリアはタンクじゃねえっての!>
<悲しい。。。もう俺達が愛したゴリア様は見れないのか?>
<ユリアは自分だけなら避けられたはずだ>
<責められるのはむしろお前だろ!>
<は? ヒーラー守るのは当然だろ!>
<盾役いないなら、攻撃担当のどちらかが兼任するのは当たり前でしょ>
サイオンの反応が
しかし、状況はそんなことを議論している場合ではなかった。
「ら゛っ!!」
前衛のセラがロングソードでアラクネの脚の一本を捉える。
その足は一刀両断され、アラクネの脚が一本欠ける。
「っ……!」
が、しかし、結果として焦燥するのはむしろセラの方であった。
アラクネの凄まじい自己再生能力により、欠けた部分が即座に修復されてしまった。
「なにかしたかしら……?」
「っ……! ぐあっ……!」
精神的ダメージもあり、セラは一瞬、硬直してしまう。
その隙を見逃さず、アラクネは棘を飛ばし、それがセラの腹部に直撃する。
アラクネは続けて、後衛にも強靭な糸を飛ばし、同時攻撃を仕掛ける。
「っ……」
「サイオンさん……!」
ミカリは自身の身を投げ出すようにして、サイオンを押し、糸から回避させる。
一瞬での決断が必要であった。
ユリアの防衛がなくなり、丸腰に近い形となった。
直前で、セラが大きなダメージを受けた。
現状、考え得るわずかな勝筋、それは回復したセラがアラクネとの一対一に勝つこと。
だからミカリはセラを回復することができるサイオンを助けることを選択した。
「きゃぁああ」
あわよくば二人とも助かることを期待したが、そうはならなかった。
ミカリも捕獲されてしまう。
<ミカリぃいいいいい>
<頼む、セラぁ、なんとかしてくれぇ!>
「っ……」
残るは負傷したセラ、そしてサイオンの二人。
<早くセラを回復しろよ!>
<早く!!>
「っ……」
サイオンは迷う。
セラが受けたダメージからすると、より強い治癒魔法が必要だ。
だが、強い治癒魔法はそれだけ、発動までに時間を要する。
防衛役を失った今、アラクネを相手にその時間を確保することができるか。
そもそもセラを回復したところで、残り二人でアラクネに勝利することなどできるのか。否……
全滅は濃厚……
そして心の中で思う。
"くそ……このパーティメンバーが……また僕の足を引っ張りやがって……"
と、その時であった。
ギィイイイという音が聞こえる。
「っ……!」
なんと洋館の玄関の扉が開いたのだ。
内側から開くことはできなくても、外側からは開けられるようになっていたのだ。
千載一遇……奇跡とも呼べるチャンスをサイオンは見逃さなかった。
神は
それまでで最も機敏な動きで……撮影ドローンを死角から捕縛、包み込むように抱えて、全速力で扉へと走る。
しかし……
出入り口付近で入ってこようとしていた人物にぶつかってしまい、中に押し戻され、そのまま尻餅をつく。
抱えていたドローンも解き放たれる。
そして、扉は閉じられる。
「っ……! て、てめぇええ、何してくれてんだ!?」
サイオンはやや理不尽に扉を開けた人物に怒りをぶつける。
<え……?>
<一瞬、ブラックアウトしてたけど、何が起きてるの?>
「っ……、って、お前は……」
サイオンはその人物を一応、認識していた。
<クガァアアアアアアアアアアア!!>
<来てくれるって信じてなかったぁああああ!>
<信じてなかったけどなんか嬉しいぞぉおおおおお>
そこにいたのはクガ元メンバーであった。
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