11.最後に快楽に溺れてみないか?
「なんか人間の女がいるぞ……」
コボルトのコロニーへ向かう道すがら、確かに探索者らしき女性がいた。
「どうする……?」
アリシアの方がクガに尋ねる。
クガは聞き返す。
「狩らないのか?」
「相手次第だな。ただ、目的もなく、魔物に対して敵意のない相手を狩るなんてことはしない」
そうなのだなと、クガはアリシアの性質をまた一つ知る。
野生の肉食動物も腹が満たされている時は無暗に狩りをしないというが、それと同じであろうかとクガは思う。
「敵意がないかどうかは今時点ではわからないがな。魔物に敵意のない探索者の方が稀であろうし」
その逆もしかりではある。
「まぁ、そうだな」
しかし、少し妙ではあった。
まず、その探索者は一人きりであった。配信用ドローンらしきものも飛ばしていない。
ソロ探索というのは、いなくはないが珍しい。
昨日のユリアのように一人で出歩くことは、腕に自信があるものであってもあまり推奨されることではない。
一人きりであるだけでも妙ではあるのだが、更にその人物はどこか上の空で、明確な目的があり、一人でいるようには見えなかった。
と……
「
「……?」
その人物……女性の周囲をきらきらとした粒子が発生し、点滅しながら消えていく。
魔法解除のエフェクトである。
「…………なにしてんの? あの人……」
アリシアが首を傾げながら尋ねる。
「うーん……わからないけど……自殺かなぁ……」
「へ……?」
<早まるなー!>
<貴重な再生士がぁああ>
リスナーもクガと同様の反応を示す。
現在、彼女についてわかっている情報を整理する。
ジョブ:再生士
その再生士が自身に掛かっている
補足すると、再生士は自身へのリライブを解くことができる。
ダンジョンの立ち入りでは特殊なバリアをくぐらなければならず、必ず
即ち、リライブなしでダンジョンに存在できる数少ない方法ということになる。
……
<つまり、再生士はリライブなしでダンジョンに存在できる数少ない方法の一つを有しているというわけです>
<説明ニキありがとう>
「なるほどなるほど、説明ニキありがとう」
アリシアは再生士と
「なるほど、クガニキ、これはやるしかないな」
「……?」
ついでに"ニキ"の使い方を誤って理解する。
「ついでに再生士とやらも眷属にする」
「え……?」
と……
「おーい、再生士ニキ、早まるな」
「っっ!?」
事情を知ったアリシアはノータイムで再生士の女性に突撃していく。
再生士の女性は明らかに驚き、肩を揺らす。
<吸血鬼さんの行動力よ……!>
<惚れる>
<数日前に無慈悲に狩られた奴らがいることを忘れるなよ>
<捨てる吸血鬼さんあれば拾う吸血鬼さんあり>
アリシアの存在に気付いた再生士は逃げようとする。
「あ、ちょっと待て」
しかし、アリシアの触手があっという間に再生士を絡め取ってしまう。
「っっっ……!」
そして、触手の先端……紅刃が再生士に向けられる。
「きゃぁあああああ」
「って、おい、アリシア」
「あ……危ない危ない……背中を見せられるとつい狩りたくなってしまうな……」
熊か何かかな? と思いつつ、クガは口には出さない。
「すみません、一旦、配信停止しますね」
クガはリスナーにそのように告げる。
<え? なんで?>
<センシティブなことかもしれんだろ>
<あー、確かに>
<がってん>
……
「止めないでくださいっ! 私はここで退場するんですよぉ! あ、いっそその刃でひと思いにやっちゃってください……!」
案の定、再生士の女性はバタバタと暴れて抗議する。
「ふむ。君がなぜ退場したいのか……すまない、私はそんなに興味ない」
「……え?」
「だが、どうせ退場するのなら、最後に快楽に溺れてみないか?」
「へ……? な、なんなんですか……」
「君……犬は好きかね?」
「犬……!? ま、まぁ、正直かなり好きですが……」
「おー、それはよかった。ならば、行こう。犬の楽園に」
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