03.ラスボスへの軌跡

 少し時を遡る――。


「それで配信をするのはいいとして、君は何がしたいんだ?」


 配信を一緒にやることに合意したあの後、クガは吸血鬼とオフレコで話していた。


「あー、アリシア」


「……?」


「私の名だ」


「……つかぬことを聞くが、誰が名づけたのだ?」


「わからぬ。存在を認知した時から私はアリシアだった」


「なるほど……」


 詳しいメカニズムはわからないが魔物はダンジョンから発生している魔素により生成されるといわれていた。人間のように赤子から成長するわけではないのだろう。


「俺はクガだ」


 名前を聞いて自分が名乗らないわけにもいかない。


「へー、クガか……かっこいいじゃん」


 そうか……? とクガは思う。


「ちなみに年齢は?」


「今年で二四になる」


「えっ!?」


 何の驚きだ……と思うクガ。


「……」


 クガもアリシアの年齢が少し気になったが、魔物とはいえ女性に聞くのは失礼かなと我慢した。見た目だけで言うならば、二〇歳前後であろうか。


「それでアリシア、君は何がしたいんだ?」


「うん……」


 クガが名を呼んだからかアリシアは少しだけ下を向く。それは初めてのことだったから。しかし、すぐに顔を上げて語り出す。


「実は最近、暇すぎて、ふと思うことがあってな」


「なんだ……?」


「頂点取りたいなと……」


「お、おう?」


「どうやら魔物の頂点を〝ラスボス〟? というらしい。それになってみようかなと……」


「……」


 魔物業界では、ラスボスとはなろうと思ってなれるものなのだろうか……とクガは疑問に思う。


「そうか、それでラスボスとは具体的にはどうやってなるものなのだ?」


「そうだな、ラスボスになるための第一歩として、まずSS級ボスにならなければならないらしい。これがSS級ボスになるための条件だ」


 そう言って、アリシアは殴り書きのメモをクガに見せる。字が汚くてよく見えなかったが、なんとか内容を確認することができた。

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【SS級ボスになるには】

 ・侵略者を三〇人狩る

 ・A級パーティを狩る

 ・S級パーティを狩る

 ・眷属を従える(S級ボス)

 ・ボスの城を構える

 ・SS級ボスの枠を空ける

 =========================

 クガは思う。

 結構、明文化されているのだなと。

 いや、それ以前にこれをやるとなると……。


「探索者を狩らなければならないのか……?」


「そうなるな」


「……」


「そうか……勢い勇んでそこまで考えていなかった。そうだよな。クガは侵略者……同士討ちはクガにとって都合が悪いか……」


 アリシアは少ししゅんとなる。


「…………いや、まぁ、別に構わない」


「え……?」


「実のところ……探索者同士の戦闘は禁止されていない」


「……!」


 クガはアリシアに自動蘇生魔法リライブについて説明する。人間のダンジョン探索者は例外なく自動蘇生リライブをかけていないと検問により、ダンジョンに入ることができない。

自動蘇生リライブとはダンジョン内で死亡した時にダンジョン外に転送された上で蘇生する、特殊な魔法である。現存、存在する唯一の蘇生魔法でもあり、生涯に一度しか効果を発揮しないことが知られている。故に一度、死亡すると二度とダンジョンに再入場することはできない。

しかし、それでも必ず蘇生されるとあって、ダンジョン内であれば探索者には、自己責任の元、ある程度の自由が保証されている。戦闘行為もその一つだ。


「実際に、探索者との戦闘を目的とした決闘系配信者というのもいる。現存する四組のS級パーティの三番手といわれるパーティ〝デュエリスト〟が最も有名だ。まぁ、その人達は挑戦者募集という形式で積極的に狩っているわけじゃないけどな……」


「へぇー」


 アリシアは興味深げに聞いている。


「ところでSS級ボスになるための条件の一つであるS級パーティを狩るとあるが、人間のS級パーティとは四組しかないのだな……」


「そうだな……」


「ふーん……ちなみに君は?」


「俺はA級パーティ……だった」


「なるほどなるほど……君よりも格上の者達がいるということか」


 アリシアはどこか嬉しそうだ。


「そういうことになる。ところでアリシアには等級はあるのか?」


 クガの知る限り、S級ボスリストには含まれていなかった。


「私は等級なしだ」


「なるほど……隠しボスだからだろうか?」


「そうかもな……まぁ、ゼロスタートの方が面白いだろ? というわけで、我々のチャンネルの目的は、等級なしボスの私の〝ラスボスへの軌跡〟をドキュメンタリーでお送りしていくぞ! そして人間達に恐怖を植えつけ、ダンジョン配信などという悪趣味なことを自粛させるのだ」


 アリシアは上機嫌に言い放つ。


「お、おう……」


 それはいいけど、俺の立ち位置は一体……と思うクガであった。


そして数時間後の現在――。


「おい、見ろ……クガ……侵略者だ」


「あぁ……そうだな」


 視線の先には一パーティ、四人の探索者達がいた。


「ノコノコと現れおって」


 アリシアは口角を上げて微笑む。

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