02.探索者狩りをやっていきたいと思います

「ど、どういう……?」


「そのままの意味だが? 私はハイシンに興味を持った。だから私にハイシンを教えて欲しい」


 吸血鬼は何がわからないのだろうというように言う。


「そ、それはわかった……しかし、ボスである君にそんなことが可能なのか? 第一、君はこの部屋から出れるのか?」


「出れるわ! 君はいつも私がここにいると思っていたのか?」


 そうだが……と思うクガ。


「よく見るのだ。この部屋には何もないではないか」


 そう言われてみると、そんな気もしてくる。

 確かにこの部屋は無骨なドーム状の岩場……生活に必要なものが何もない。

 ボスにそれが必要という発想がそもそもなかったわけだが。


「え……それじゃあ、君はいつこの部屋に来るのだろうか……?」


 そう多くはないものの探索者が現れた時、彼女はいつだってここにいる。

 いや、逆だ。そう多くはないにも関わらず、探索者が現れた時、彼女はいつだってここにいる。


「侵略者が現れたら、連絡が来るのだ。さっきも気持ちよく寝ていたところを叩き起こされて急いでここに来たのだぞ」


 それは失礼した……と思うクガ。

 もしや今も寝ぼけているのではないだろうな……とも思うクガ。


「これでわかっただろ? 部屋から出られる。だから、な! 一緒にハイシンをやろう。君の血はとても……いや、君はとても見込みがありそうだ」


 いつの間にやら"ハイシンを教えてくれ"から"一緒にハイシンをやろう"にアップグレイドしている。


「……」


 クガは考える。


 実のところ、クガにとって唯一にして最大の問題があった。


 それは"目的がなくなったこと"。


 学生のノリで始めたダンジョン探索及び配信。

 彼は仲間を守るために戦っていたのだ。


 配信においても面白いことを言えるでもなく、自分から表に立つようなことはなかった。


 だから、セラの最後の贐も受けたのだ。

 別にここでダンジョン生活を終えても構わないと自暴自棄になっていたのだから。


 そこで出会った変な吸血鬼……


 なぜか自信満々にニンマリしている。


 気は確かか? と言われたらYESと答える自信はなかった。


 しかし……


「……わかった」


 ◇


 数時間後――


「見えてますかー?」


 <見えてるよー>

 <見えてる>

 <マジで吸血鬼ちゃんだ>

 <うひょー、マジかよ>


「お、早速コメントが来てるじゃないか。それじゃあ、記念すべき第一回の配信を始めるぞ」


「……」


 クガはまず思う。

 コメントがすごい。

 初めての配信にして、コメントがすごい。


 普通、初めての配信とはほとんどコメントが付かず、俺達は一体、何をやっているのだろうという気持ちになるものだ。

 しかし、最初からコメントが付いている。

 そしてチャンネル登録も目に見えて増加していく。


「なぁ、クガよ。これは上々の滑り出しといっていいんじゃないか?」


「そうだな」


 セラの贐は本当に贐になってしまっていた。

 あの追放の展開により、そこそこの視聴者がいた。

 その相手は戻らずの隠し部屋のボス、絶世の美女としても知られていた吸血鬼。

 なんならクガよりも吸血鬼を応援していた人の方が多数だ。

 そして、まさかの配信のお誘い。

 恐らくダンジョンの魔物としては史上初の珍事であろう。

 その情報は拡散され、想定外の注目を浴びる結果となったのだ。


 クガは思う。

 セラは、ここまでの事態になるとは予想していたのだろうか……


 そんなことを思うクガのことなど気にしない様子の吸血鬼は言い放つ。


「ということで、記念すべき第一回の配信は、侵りゃ……あ、間違えた。探索者狩りをやっていきたいと……思いまーす」


 <え……>

 <へ……>

 <マジ?>

 <ざわ……ざわ……>

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