トライロバイト④
不気味にギチギチという音が、徐々に近づいてくる様子にヴァレリアが不安げに言う。
「さっきから何なのよこの気色悪い鳴き声は……。」
「それだけじゃない、徐々に近づいてきているみたいだ。」
マグナのその言葉を聞いて、ユリカが不安な表情を浮かべ後ずさった。
ところがその足元に何か硬いものがあり、ユリカはバランスを失い、尻餅をついてしまった。
ユリカが冷静さを取り戻してつまずいた物体を確認すると、その硬い物体は岩のように丸まったミツガシラであったことがわかった。
「ああっ!」
ユリカの驚きの声が静まり返った森に響くと、木々が揺れ、上空からミツガシラが 次々と落下し始めた。
その落下するミツガシラの衝撃は、まるで重い岩石が地面に叩きつけられるような音とともに、彼らに深い痛みを与えた。
「くそっ、こいつら俺たちを狙っているのか。群れで襲ってくるなんて聞いたことがないぞ。」
「さっき落ちてきた岩みたいなのが、全部ミツガシラだっていうの。いったいどうなっているのよこの森わッ!!」
「もういやです。帰りたい……。」
ユリカが瞳に涙を浮かべながら弱々しく言った。
その様子に、ヴァレリアは心を引き締めて言い返す。
「泣かないのッ!! ユリカ立って!! 今は逃げることだけを考えなさい!!」
その言葉と共にヴァレリアは杖を前方に向ける。
「あなた達が炎に弱いことは知っているのよ。私が道を切り開くわ。2人は続いて。」
そしてヴァレリアは詠唱を始めると、ヴァレリアの身体から紅色の粒子が浮かび上がり始めた。
そしてその粒子はヴァレリアが片手に持つ杖の先端に集中し、一つの強大な力を生み出すために収束していった。
「火竜の怒りよ我が杖に纏え、炎の舞踏、灼熱の衝撃、顕現せよ咆哮」
ヴァレリアの杖の先から吹き出す炎は、まるで生命を持つように蠢き、目の前のミツガシラへと猛然と吹き付けた。
炎は一瞬でその前方を覆い尽くし、道を切り開くように猛烈な勢いで進んでいった。
その熱気は周囲を揺るがし、焼き尽くされたミツガシラは灰となり、空へと舞い上がった。
灼熱の炎が猛獣のように吠え、前方に広がり続ける。
それはおよそ彼らが立ち尽くしていた場所を、まるで昼間のように明るく照らしだした。
周囲の木々は揺れ動き、その葉っぱが強烈な熱によって焼かれ、さらに炎を勢いづけていった。
ユリカとマグナはその光景に目を見開きながら、ただただその場に立ち尽くしていた。
「急ぐわよマグナ、ヴァレリア!! この火の道が消える前に!!」
そのヴァレリアの呼び声に気づき、二人は顔を見合わせると無言で頷き、炎の渦の中を駆け抜けていく。
だが彼らは気が付いていないのだ。
それすらも罠であることに。
視界が明瞭となったことは、狙う者にとって格好の標的を知らせるようなものだった。
そんなことも知らず、マグナ、ヴァレリア、ユリカは灼熱の渦の中を一心に走り続けた。
彼らの足音と胸の高鳴りだけが炎の轟音を上回る音を奏でていた。
そんな時だった。
突然、不穏に風を切る音がマグナの耳に届いたのだ。
それは何か大きなものが空気を切り裂いて迫ってくる音だった。
即座に反応したマグナは自身の前方を走るヴァレリアを押し倒し、自身の身体を盾にした。
「危ないッ!!」
「ちょっと何ッ!!」
ヴァレリアは訳が分からず怒ったような口調で言う。
その直後、ヴァレリアの前方に天から降ってきた岩石が地面に激突し、砂と石片が舞い上がった。
灼熱の炎の明かりでその影を見た瞬間、彼らは絶句した。
それは先ほどマグナをキズ付けた巨大なミツガシラに他ならなかった。
「ユリカまたあんなダメージ受けたくない。防御魔法をお願い!!」
マグナは再び同じ過ちを犯すつもりはないと心に決め、ユリカに対して防御魔法の 詠唱を促すと、すぐに自身の腰に巻きつけた革の鞘から長いナイフを抜き取る。
マグナの片手に握りしめたその刃は、炎の光を反射して鋭く光り輝いていた。
その姿を見てユリカは防御魔法の詠唱を始める。
ユリカの詠唱と共にユリカの身体から黄色の粒子が浮き上がり、彼女が両手に持つ杖の先端に収束していく。
「光竜の誓いよ煌めけ、慈愛なる光、包みて守れ、顕現せよ――」
しかし、ユリカの詠唱が終わる前に、新たな不吉な風が彼女に襲いかかる。
その風は別のミツガシラによるものに他ならなかった。
その巨大な体は、詠唱中のユリカを見つけ、過大な力を振り絞って彼女に体当たりしたのだ。
その衝撃にユリカの華奢な身体は吹き飛ばされ、地面に押しつけられた。
「ユリカッ!!」
マグナの絶叫が火炎の広がる森を震わせた。
鬼起怪解 ~エンマの部下の、むちゃくちゃ強い青鬼さん、異世界で無双する‼︎~ @jesterhide
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