第4話 私は

春香ちゃん、恋ってしたことある?もう高校生だもん、好きな人がいたこともあったかもしれないわよね。あら、いたことないの。そう。


私ね、大学の時に好きだった人がいたの。もう三か月前のことなんだけどね。すごく素敵な人だった。綺麗な顔立ち、柔らかい声、優しいまなざし。全部全部、大好きだったの。その人は私の友達で、その人の隣に居られるときは、天国みたいな心地でふわふわしていたの。


でも、当時の私は冴えない平凡な大学生。一方のその人は容姿端麗、頭脳明晰。これじゃ告白したって釣り合わない。そう思って、私頑張ったの。勉強も自分磨きも必死にやって、誰もが振り返る優等生になった。


「最近可愛くなったじゃん。何?好きな人でもできたの?」


ってその人も言ってくれてね。可愛くなったってほめてもらえたのがうれしくて、私はもっと頑張った。それで、卒業するときに告白したの。ずっと好きでした、付き合ってくださいって。でも、その人はひどかった。


「…ごめん、私そっちには興味ないや。今まで通り、仲いい女友達としてしか見らんない。だからさ、この告白なかったことにしよ?」


酷い、ひどいわ!私が頑張ったのは、その人に見合う私になる為。その人の為だけに私はこんなに頑張ったのに。だからね、私悲しかったの。それでもその場をごまかすみたいに笑って、冗談だよって言った。でも頭の中で、どうやったらその人が手に入るかなってずっと考えた。


一か月間私が考え抜いた結果、その人を監禁するのが一番手っ取り早いって思ったのよ。それで道具とかいろいろ用意して、その人を自宅に攫った。楽しかったわ、私だけが好きな人を独占してる。それだけで背筋がゾクゾクした。


その人は攫ってきてからもひどかったの。助けて、ここから帰して、どうしてこんなことするのって泣いてばかり。私が好きだった春のひだまりみたいな笑顔を浮かべてくれることはなかった。それどころか、泣きはらした目が恐怖に染まったり、燃え上がるように強い怒りをこめて私を睨んでいたりした。


それでも私、その人に精いっぱい尽くしたわ。その人の好物を作って、欲しいものをなんでもあげた。その見返りに、ほんの少しの愛情を望んだだけ。それなのにその人はね、私を捨てて何回も逃げたの。


私はその人が逃げるたびに、拘束を強くするしかなかった。手荒なことはしたくなかったのに。テープがロープに、やがて鉄の鎖に変わった。何もつけてなかった口は、ボールギャグや猿轡が付くようになった。もう逃げられないように、足を折ったこともある。だけどそれでもその人は変わらなかった。だから体を作り替えたの。それでずっと気持ちよくさせてあげたら、私を好きになってくれるかなって。


ちょっと怖がっていたけれど、なだめて抱きしめて、ちゃんと気持ちよくさせてあげた。これで自ら私を欲しがってくれる、愛してくれる、そう思ったのに…。それでもその人は改心しなかった。這いずってでも逃げようとしたの。


だから私、ついうっかりその人を殺してしまった。その時はいつもと同じように気絶させるだけのつもりで、いつも通りにスタンガンを当てたらあっけなく死んでしまったの。私は泣き崩れた。私自身で殺してしまった、まだ愛してもらってないのに。


どれだけ泣いても、心にぽっかり空いた穴は埋まらなかった。でも悲しい、つらいってだんだん思わなくなったの。代わりに脳を支配したのは、その人が私だけのものになった快感だった。その人が最後に目に映したのは私だけ、私だけがその人の最後を知ってる。そう思ったら、悲しさも後悔もどうでもよくなったの。


そのあと私は、私の物になってくれる子を探していたの。どうせならその人に似てる好きになれそうな子をね。


あの日あの喫茶店に入ったのは、ただの気まぐれだったの。そこに春香ちゃん、あなたがいた。あなたはその人にそっくりなの。目元のほくろも、笑い方も、綺麗な顔立ちも、流れるようなロングヘアーも。春香ちゃんが欲しい、そう思った。


それで話しかけたら、あなたは案外面白い子だった。その人とは違うタイプだけど、私も好きになれそうだったし。それであなたにしたのよ。


でもね、今はその人じゃなくて春香ちゃんが好き。だって私しかいらない、そう言ってくれた。その人は全然、ひとことも私にそんなこと言ってくれなかったのに。だからね春香ちゃん、あなたは私を、捨てちゃだめよ?


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