7話 薬草採取

それは、かって、六匹の兄弟たちと、遊びに来ていた場所だった。

 岩場には川が広がっており、川は長雨の影響で、濁流となっていた。

 その勢いはすさまじく、川の水面は泡立ち、水しぶきが空に舞い上がっていた。

 その様子をみて、ラットは恐怖心から身を引いた。


 兄弟たちは、この濁流に飲み込まれたのだ。

 その日、兄弟たちが消えた日――

 ラットは兄弟たちと、空腹を満たすための獲物を探していた。

 だが、突然岩場が崩れ荒れ狂う水が押し寄せてきたのだ。

 ラットは、兄弟たちが川の中へ消えていくのを、ただ見ていることしかできなかった。


 ラットは運がよかった。

 兄弟たちの一番後ろを歩いていたからだ。


 川に飲み込まれる兄弟たちの姿を目の当たりにし、その恐怖を忘れることができなかった。

 それからというもの、ラットはこの川を恐れ、その場所に近づくことすら避けるようになっていた。


 だが、今日は違った。

 薬草は、ここにあるのだ。

 ラットの使命感が、恐怖心を打ち負かし、前進する力の火を灯したのだ。


 そして、ラットは慎重に岩場の匂いを嗅いだ。

 岩場の地面を這う薬草の匂い、その匂いの先は、緑色の絨毯のようになっており、薬草が群生していることがわかった。

 それは雨に濡れていて、湿った空気に独特の香りを放っていた。

 ラットはその香りを嗅ぎ、その場所が目的地であることを確信すると、慎重に足を進め、岩場を渡り始めた。

 川の流れが速く岩場は滑りやすかったが、四本の足に全神経を集中し、ゆっくりと前進する。

 やがて、彼は何度も転びそうになりながら、目的の場所に到着した。


 そこには、雨に濡れた薬草が豊富に生えていた。

 薬草それは、雨に濡れて深い緑色を放つコケだった。

 そのコケの表面は微細な突起で覆われており、それが微かな光を受けてキラキラと輝いていた。

 形状は不規則で、一部は丸く、一部は鋭角的で独自の形を作り出しており、深い緑色は、雨に吸い込まれるように色鮮やかで、その美しさは目を引いた。


 ラットはそのコケを見つけた瞬間、安堵の息をついた。

 これで、ゾフとリリーへの恩返しができると思ったのだ。

 彼はその感謝の気持ちを胸に秘め、コケを1つ々丁寧に摘み始めた。

 彼の鋭い牙は、コケを器用に削ぎ落とし、その薬草を傷つけることなく取り扱うことができた。

 その作業は、まるで時間がゆっくりと流れているかのように、静かに、しかし確実に進んでいった。

 そして、ラットは岩場からそぎ落としたコケを、器用に籠へ入れていくのだった。


 やがてラットは、籠いっぱいになった薬草を見て、満足そうな表情を浮かべた。

 その目は、自分の努力が結実したことを誇らしげに示していた。

 そして、彼はカゴの取っ手を咥え、岩場を後にした。

 しかし、その瞬間、足元の平な岩に足を滑らせ、一瞬体制を崩した。

 狼の力強い体が揺れ動き、周囲の空気が緊張に包まれた。

 パラパラと落ちた小石が、濁流の渦に消えていく。

 ラットの目は一瞬、小石の軌跡を追いかけたが、すぐに体制を立て直すと、ラットはすぐにその場を立ち去った。

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